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フェイク ハート ドリヴン バイ ラヴ;2

白い腕輪"アンサンブル・ギア"の正体とは……?


そして、城砦都市"カガミハラ・フォート・サイト"を守るため、メカヘッド先輩の計画が動き始める……

 白い腕輪から放たれていた光がすう……と消える。レンジの言葉を聞いて、AIは黙り込んでいた。


「君は……うおっ!」


 レンジが再び口を開いた時、アンサンブル・ギアが強烈な光を放つ。磁器の外装をまとった腕輪は細かな部品に分解されて手首から外れると、空中で組み変わって白い鳥の姿になった。

 変形したアンサンブル・ギアは大きく翼を広げた。そして青年が伸ばした手が触れる前に、光の尾を引きながらビルの向こうに飛び去った。


「くそ……!」


 光の尾を追いかけようと立ち上がったレンジは、白い鳥がビル群の向こうに消えたことを確かめると携帯端末を手に取った。画面を見ずに素早く操作して、自らの頭にくっつける。数回呼び出し音を鳴らした後、相手が通話回線を開いたと見るや、すぐに話し始めた。


「……もしもし、マダラか!」




 マダラの尻ポケットから、けたたましい呼び出し音が鳴り響いた。


「うわっ! わっ、わっ!」


 慌てて携帯端末を取り出すと、マダラはお手玉するように両手でもてあそびながら通話回線を開いた。


「『もしもし、マダラか!』」


「えっ? えっ、そうだけど? どうしたの、レンジ?」


 電話口から耳に突き刺さる余裕のない声に、マダラは驚いて聞き返す。


「『すまん、アンサンブル・ギアに逃げられた!』」


「はあ、逃げられた? 腕輪に?」


「『鳥になって、飛んでいったんだ、腕輪が!』」


 困惑するマダラを見ながら、メカヘッドも携帯端末を取り出して操作を始めていた。スピーカー通話機能で回線が開く。


「『……はい、技術開発部です。どうしました、メカヘッド巡査曹長?』」


「だから、俺のことはメカヘッド“先輩”と呼べと……まあ、いいや。主任、緊急事態だ」


「『緊急事態……?』」


 技術開発部の主任は、よく分からないようでぽかんとした声を返す。


「『何があったんです? アンサンブル・ギアに不具合でも……』」


「不具合も何も、何なんだあのギアは! 鳥になって飛んでいくなんて、聞いてないぞ!」


「『すいません、言ってなかったですね! 高度なAIが搭載されたギアなので、自由に動かないと可愛そうかな……って思って、我々で変形機能をつけちゃいました! マダラさんには、巡査曹長から謝っておいてもらえませんか?』」


 あっけらかんとした主任の答えを聞いて、メカヘッドは機械頭に手を当てた。


「スピーカーフォンだからな、マダラ君にも丸聞こえだよ!」


「いや、まあ、それ自体はいい……いやいや、よくないけど! 勝手に仕様変更されるのは困るんだけど! まあ……まあ、でも、あのサイズのガジェットに変形機構を入れ込んだのは大したもんだと思う、思うんだけど……ううん……」


 自身の端末を耳に当てたまま、スピーカーフォンからの声も聞いていたマダラが困惑した声をあげる。


「『マダラ、スピーカーに切り替えてくれ』」


「えっ? うん、わかった……」


「『もしもし? 主任ですか? レンジです』」


 スピーカー通話に切り替えた端末機から、レンジの声が“止まり木”のホールに響いた。メカヘッドの持つ端末から、主任が返す。


「『ああ、レンジさん。すいません、色々と迷惑をおかけして』」


「『主任、……いや、迷惑じゃないんだ。迷惑なんかじゃない。それより教えてくれ。……アンサンブル・ギアに入っている、あのAIは何なんだ?』」


「『よくぞ聞いてくれました!』」


 主任は待っていました、と言わんばかりに早口で説明を始めた。


「『文明崩壊前から使われ、現在も主流となっているのは、データ蓄積型の第1世代型人工知能です。しかし、これでは応用力に不安があった。一方、文明崩壊前に何度も実験が繰り返されていた第2世代型人工知能……自律思考型人工知能ですが、これはやはり、我々の技術力で開発することはできなかった……そこで我々は考えたわけです。“疑似的に人格のパターンルーチンを作成し、それによってデータ蓄積型人工知能を補佐、方向づけを行うことで、複雑な情報をより素早く処理し、より自律思考に近い、高度な思考を目指そう”と! そこでナゴヤのハーヴェスト・インダストリに協力を求めて、第1世代をベースに第2世代に限りなく近づけた……1.5世代型人工知能の開発に成功したのです!』」


「『……それで、疑似人格というのは、どういうことです?』」


 黙って話を聞いていたレンジが、主任の話が途切れたタイミングを見計らって口をはさむ。


「『ああ! すみません、説明に夢中になってしまって! レンジさんをサポートするのに、最高の疑似人格を作ろう、と我々は考え……そこで、春の自治祭でチドリさんとデュエットした、“ことり”さんを思い出したのです。あの素晴らしい声! そして何より、レンジさんとの関係性から、彼女を人格ベースにすれば間違いない! チドリさんや、オーサカのママさんに徹底的な聞き取りをおこない、録音されていた音声データから声紋プログラムを作成することで、限りなく“ことり”さんに近づけた人工知能の作成に成功したのです! それが、開発コード“ナイチンゲール”……正式名称“KOTORI-Mk2”です!』」


 自信満々に言い放った主任の声に、レンジとメカヘッドは頭を抱えた。


「うーむ……」


「ああ、もう……」


「『あれ、何かやっちゃいました?』」


「お前たち、何考えてるんだ!」


 唸り、あきれる声を聞いて意外そうな主任に、メカヘッドが怒鳴った。


「『えっ?』」


「えっ、じゃないでしょ! 死んだ恋人をネタにするだなんて……!」


「『メカヘッド先輩も、マダラもありがとう。でも、俺は大丈夫だ』」


 マダラも怒りの声をあげるが、レンジは冷静な調子で返す。


「『主任も、説明ありがとう。とりあえず、こっちはアンサンブル・ギアを追いかけてみるよ。それじゃ』」


「あっ、ちょっと……」


 マダラが呼び止めるが、レンジは既に通話回線を閉じていた。


「主任、アンサンブル・ギアの位置は、特定できるか?」


「『何言ってるんですか、小さな子どもじゃあるまいし! 若い娘さんを監視するなんて、そんな機能つけられませんよ』」


「はあ……」


 主任からの返事を聞いたメカヘッドは深くため息をついた。


「こんな事態が起こり得るということを、想定していなかったとは言わせんぞ。君たち、どうするつもりだ?」


「『なあに、巡査曹長、若い男女にはぶつかり合いも必要でしょう。お互いにそれを乗り超えた時には、更に息の合ったコンビネーションが生まれるはずですよ!』」


 主任の言葉に、メカヘッドは自らの頭部パーツを指でカリカリとひっかいた。


「お前たちが人の心を語るな! ……とりあえず、聞くべきことはこれで全てだろう。通話回線を閉じるぞ」


「『はい、巡査曹長。お疲れ様です』」


「誰のせいだと思っている! ……まったく」


 メカヘッドが怒鳴った時には、技術開発部主任との通話回線は既に切れていた。


「本当に、人の心のないマッドサイ集団だよ」


「ははは……」


 マダラも否定できず、乾いた笑いを漏らす。


「こうなったら、地道に探すしかないですね。陽が昇ったらドローンも飛ばしてみましょうか」


「ありがとう。しかし、そうだな、陽が出るまで待つしかないな。時間がないというのに……」


「どうして、そんなに焦ってるんです?」


「ああ、そうだね。ちゃんと説明しなければ。……“チドリさん”、いいかな?」


 メカヘッドが呼びかけると、片付けを終えたチドリが店の奥から戻ってきた。


「はあい、メカヘッドさん。……今夜、店を貸し切りにした本題に入る、ということでよろしいのかしら?」


「ええ、間違いありません。随分お待たせして、申し訳ない」


「いえいえ、二人とも忙しそうだったから、構いませんわ」


 チドリは答えると、カウンターの向こうのスツールに腰かける。


「それで、お話というのは……?」


「あっ、オレは席を外したほうがいいかな?」


 立ち上がりかけたマダラを、メカヘッドが身振りで止めた。


「ああ、いや、大丈夫だ。むしろマダラ君にも話を聞いてもらいたくてね。本当はレンジ君やマギフラワーにも同席してもらいたかったが……仕方がない。明日、タチバナ先輩と一緒に話を聞いてもらうことにするさ」


「はあ、そういうことなら……」


 マダラがカウンター席に座り直すとメカヘッドはうなずいて、チドリに向き直る。


「話と言うのは、PMC“イレギュラーズ”社長への業務委託の件です」


 メカヘッドの言葉に、チドリが背筋を伸ばした。にこやかな酒場の女主人としての顔から切り替わり、成り行きとはいえ、この一年のうちに身につけてきたPMC(民間軍事会社)社長としてのまなざしで機械頭の実務顧問を見据える。


「具体的な業務は実務顧問のあなたと、各班のリーダーの話し合いで進めてもらっているけれど。……私に直接話をする、ということは大変な仕事か、とても危険な仕事、ということかしら?」


「その通りです」


 マダラが水晶玉のような両目を大きく見開いた。


「まさか、レンジやマギフラワー……おやっさんにも話を通すってのは、」


「そう、協力要請を出そうと思って……いや、正直に言おう。特に今回のヤマは、ストライカー雷電の新しい強化フォームをアテにしていたのさ。何せ、初動では軍警察が出られないので、大変危険な仕事になりそうだからね」


「待って、実務顧問さん」


 説明していたメカヘッドを、チドリの鋭い声が制した。


「レンジ君……ストライカー雷電が頼みの作戦に、うちの子たちを投入するというのは、私は不安です。社員をいたずらに、危険に晒すのではないですか?」


 メカヘッドは両肩を持ち上げて首をすくめる。


「不安になる気持ちはよくわかりますよ、社長。けれども社員たちだってそこまで弱くはない。もちろん、彼らに無茶をさせるつもりはありません。あくまで自らの安全を第一に……しかし、彼らにも動いてもらわなければならないんです。今回の作戦、警戒すべき範囲が広すぎる」


「メカヘッドさん、あなたは社員たちを何と戦わせ……いえ、何を守らせようとしているんです?」


 問われたメカヘッドはカウンターテーブルに、城壁に囲まれたカガミハラ市街地のハンディマップを置いた。地図の周囲をゆっくりと、指でなぞっていく。


「警戒すべきはカガミハラ市街地の“輪郭線”……城壁の内側、ほぼ全域。どこから敵が進入してくるか、分かりませんからね。そして警備対象はカガミハラ市民、全員です」


(続)

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