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センセイ、ダンジョン、ハック アンド スラッシュ;6

ヒーローたちは地下遺跡の更に奥へと足を踏み入れる。


迷宮の先には、新たな機械仕掛けの試練が……!

 ディスクの正体が判るまで、さほど時間はかからなかった。

変身を解除したレンジとアマネが格納庫内を探索していると、継ぎ目のある壁からにょきりとコンソールが突き出したのだった。操作盤の中央に、いかにも板状のものを入れたくなるようなスリットが開いている。アマネがディスクをさし入れると、スリットはするりと金属盤を呑み込んだ。

「入った!」

 レンジは“ライトニングドライバー”を手に、周囲を見回していた。

「さて、次は何が出るか……」

 重いものが、床か壁を擦りながらゆっくりと動く音。身構える二人の前で大きなシャッターが開き、奥へと続く暗い小道が現れた。

「わあ、またトンネルだ!」

 アマネが戸口から中を覗き込むが、真っ黒なトンネルの先をうかがい知ることはできなかった。

「やっぱり、この先に行ってみるしかないのかな……?」

「そうだなあ、他に道もないし……。でも、なんかイヤなんだよな……」

 レンジは頭をかきながら、真っ黒な穴の先を睨みつける。

「何だか、全部誘導されてるみたいで……」

「でも、レンジ君が言う通り、他に道も見当たらないじゃない」

「そうなんだけどさ。……おおい、マダラ、ちょっと、これを見てくれ!」

 隣の部屋に呼びかけるが、返事はなかった。

「……マダラ?」

 レンジが振り返った時、休憩室につながる戸口からオレンジ色の球体が飛び出した。

「待って、二人とも、ボクも連れて行ってよう!」

 球体は小さな両足と丸いヒレのような尻尾を持ったぬいぐるみだった。ぬいぐるみは可愛らしい人工音声で叫びながら格納庫の中を跳ねながら進み、レンジとアマネに駆け寄った。

「よかった、間に合った!」

 ぬいぐるみ型のドローンは大きく跳ねると、レンジの頭の上に飛び乗った。

「うおっ! この……!」

 驚くレンジの上で、オレンジ色の丸いものがぴょんぴょんと跳ねる。

「ここから先はマダラに代わってこのボク、ドットがナビをするよ! よろしく、二人とも」

「おい……」

「トンネルの向こうは真っ暗だし、この調子だと、何があるかわからない……もしかしたら、また急にオートマトンが襲ってくるかもしれない。だから、変身してから行くことをお勧めするよ」

「おい、こら!」

 レンジは首を振り、頭の上のドットを床に落とした。

「ひゃあ! 何するんだよう!」

「何するんだよう、じゃねえだろ」

 抗議するドットを鷲掴みにして持ち上げると、レンジはぬいぐるみのつぶらな瞳を睨みつける。

「いきなり人の頭の上でびょんびょんびょんびょん跳ねやがって、だいたい、てめえは“マダラ”だろう、このヤロウ!」

「ふみゅう……」

 マダラが操縦するぬいぐるみ型ドローン、ドットはレンジに怒られてぐにゃり、とボディをへこませた。

「ごめん……でも、今は“ドット”だから、マダラって呼ばないでほしいなあ、なんて……」

 レンジはため息をついて、ドットをひょい、と放り捨てる。

「ふみゃっ!」

「その、なりきってしゃべるのが苦手なんだよ!」

「まあまあ、レンジ君」

 アマネはレンジをなだめながら、床に落ちてつぶれたドットを拾い上げた。

「ドットが言う通り、この先にマダラが生身で行くのは危険だよ」

「そりゃ、そうだけど……」

「それに……」

 拾い上げたドットを抱きかかえたアマネは、恥ずかしそうに笑った。

「一人で魔法少女になりきるのは、結構恥ずかしいけど……なりきりにつきあってくれるのが、心強い時もあるから」

「やれやれ……」

 レンジはため息をつくと、“ライトニングドライバー”を腰に巻き付ける。

「まあ、いいや。“丸いの”、ナビは頼むぞ」

 アマネの腕の中で、ドットがうなずくように丸い体を動かした。

「うん!」

「それじゃ、行くぞ……“変身”!」

 レンジは真っ暗なトンネルの入り口を見やると拳を打ち下ろすようにして、ベルトのバックラーに取り付けられたレバーを引き下げた。


 ライトになっているドットの両目が、照明のつかない廊下を照らす。所々で曲がりながら続く細い道は、かつては職員の連絡通路として使われていたものだった。左右の壁には“第三発電槽”、“冷却装置”、“資材倉庫”、“宿直室”などの文字が書かれていた扉が並んでいたが、どの扉も固く閉ざされていた。

 “変電室”と書かれた扉のドアノブから手を離し、雷電はため息をつく。

「……ダメだ、ここも開かないな。いっそ、ぶっ壊してみるか?」

「いや、やめておこうよ。多分、そこには“何もない”。……多分、“入れる”ところにしか、何もないよ」

 確信を持っているように話すドットを、雷電はじっと見下ろした。

「それは……もしかして、先代の“タチバナ”さんの仕込み、ってことか?」

「うん。さっきのでっかいオートマトンや、ディスクの鍵から考えたらね。ボクたちを誘導してる。この通路に入るのも、誘導された結果だし……」

 雷電は「ふむ……」と言って腕を組んだ。暗闇に包まれた、廊下の先を見やる。

「何が目的だ? 『簡単には、合金は渡さねーぞ』とか、そういうことか……?」

「多分……。じいちゃん、いたずらっぽいところがあるから……」

「めんどくせえな……仕方ないから、付き合うけどさ」

 後ろで話を聞いていたマギランタンがポン、と手を叩いた。

「それじゃあ、先代さんがいる場所に直接乗り込んじゃうってのはどう?」

「そういえば、さっきの休憩室に、地図があったな……丸いの、先代の“タチバナ”さんがどこにいるのか、アテはあるのか?」

「うーん、確証があるわけじゃないけど……」

 ドットはぴょん、とその場で跳ねた。

「発電所全体を管理できるようなところ、だと思う。だから、倉庫とか、発電機があるところとか、会議室みたいなところにはいないんじゃないかな」

「なるほどな」

「それじゃあ逆に、怪しいと思うところはどこ?」

 マギランタンに尋ねられると、オレンジ色のぬいぐるみは風船が膨らみ、縮むようにモジモジと動いた。

「そうだなあ、発電所のネットワークを、直接いじれるところ。例えば、あの休憩室にあるコンソールからだと大したことはできないんだ。もっと上の管理権限があるところ。管制室とか、室長室とか。あるいは……サーバールーム、とかかな」

「随分と、絞れてきたじゃない! よくわからないまま歩き回るより、よっぽどいいよ!」

「丸いの、それなら俺たちは、まずどこを目指したらいい?」

 ドットはぴょん、と跳ねて通路の先を見た。

「この道の先、一番奥に発電プラントのコアがあるみたいなんだ。多分、そこまで歩いてこい、ってことなんだと思う」

「そういうことなら話が早いな。行ってみるか」

「うん! それじゃ二人とも、ボクが先に行くから、ついてきて!」

 ドットがライトで正面を照らし、ぴょんと跳ねながら歩き始める。

 大きなストロークで数回跳ねたと思うと、ドットの体が空中で止まった。

「ふみゅっ! ここに、光学迷彩で隠された壁がある!」

 見えない壁にぶつかったぬいぐるみが、ずるずると床に落ちる。ドットはその場でぴょんと跳ねて、隠された壁を調べ始めた。

「どうしよう……ここ、壁で道がふさがってるよ!」

「それじゃあ、他の道を探す他ないか……」

「両側の部屋のどこかに入れるかもしれないね。一旦戻って……あっ」

 跳ねながら二人のそばに戻ろうとしていたドットの姿が、急に見えなくなった。

「ドット!」

 マギランタンが駆け寄る。ドットが消えた足元には、ぽっかりと穴が空いていた。

「おおい、大丈夫か?」

「『ボクは、今のところ大丈夫……ひゃあ!』」

 呼びかけた雷電のヘルメットから、ドットの声が答えた。通話回線を使って話しているようで、アマネのインカムからもドットの声が聞こえていた。

「どうしたの、そっちに、何があるの?」

「『ヤバいのが、たくさんいるよう! 追いかけまわされてるんだ! でも……あのディスクがある! 多分こっちが、正解のルートだよ……うわあ! 二人とも、早く来て!』」


 ドットを追いかけて落とし穴に飛び込んだ二人は、黒い竪穴の下からあふれ出す白い光に呑み込まれた。ほどなく降り立ったのは、大きな直方体の機材が等間隔に並ぶ、縦長の部屋だった。

 雷電とマギランタンは着地すると立ち上がり、身の丈よりも大きな機材の列を見回す。

「ここは、どこだ……?」

「ドットー?」

 マギランタンが声を張り上げた途端、機材の一つが砕けとんだ。

「わあっ!」

「おおい、二人とも!」

 崩れた部品の山を潜り抜けるように、ドットが飛び跳ねてきた。

「助けて!」

 雷電が素早く身構える。大部分が欠け落ちた機材の向こうにもう一つ、大きな影が立っていた。

「パワードスーツ……!」

 黒い装甲に覆われた異形のヒトガタが、ドットを追いかけている。頭部の赤いセンサーライトが輝き、ドットが逃げる先にいた雷電とマギフラワーも既に捉えていた。

「オラアアア!」

 先手必勝と雷電が駆ける。巨人の股下を転がるように走り抜け、パワードスーツの背後に回り込んだ。

 文明崩壊後に新造された大型パワースーツには、共通する弱点がある。それはひざの裏、関節部分の接続ケーブル……!

「ウラア!」

 巨人のひざ裏を殴りつけるが、関節を覆う銀色の装甲が拳をはねのけた。パワードスーツは頭部をぐるりと回転させ、センサーライトを足元の雷電に向けた。

「畜生!」

 雷電が飛びのくと、巨大な拳がその場を通り抜けていった。マギランタンはドットを頭の上にのせると、反対側のひざ裏をハンマーで殴りつける。鈍い音をたてるが、パワードスーツはびくともしなかった。

「何これ、固すぎ!」

 ドットが天井を見上げて体を震わせる。

「二人とも、上にも気を付けて!」

「何だって? ……うおっ!」

 落ちてくる黒い影を慌ててかわし、雷電も天井を見た。黒い凧のようなものが、部屋の中空を埋めるように浮き、皆で大きな輪を描きながら飛んでいた。

「トンビドレイクかよ! ……クソっ!」

「ひゃあああ!」

 巨人も拳を振り上げながら侵入者を追いかけ始める。雷電とマギランタンは二手に分かれて、機材の影に身をひそめた。

「何なんだよこれは!」

「『ここは第四発電室。並んでるのは発電タービンだよ』」

 小声で悪態をつく雷電のインカムに、ドットが答える。

「そんなことは聞いてねえよ! それで、ディスクはどこにあるんだ?」

「『上だよ。トンビドレイクのあたま!』」

「はあ、頭?」

 発電タービンが崩れる音が聞こえてくる。パワードスーツが侵入者を見つけ出そうとして、障害物を壊し始めたのだ。雷電は周囲を警戒しながら、再び天井を見上げた。

 トンビドレイク達は輪を描き、床面を警戒しながら飛んでいる。

怪鳥たちに守られるようにして円の中央に一羽、一際大きな個体がホバリングしていた。機械部品に置き換わった頭を持ち、その中央には光を放つ金色のディスクがはめ込まれている。

「露骨だなあ、おい!」

「『どうしよう、雷電?』」

「マギフラワーのビームや、マギセイラーの矢はどうだ?」

「『どっちも、かなりエネルギーを使っちゃうから、ビームは絶対無理だし、矢も連射が……わあっ!』」

 ドットの叫び声とともに、発電タービンの一つが激しく砕け散った。

「大丈夫か?」

「『今のところはね! パワードスーツにマークされちゃったから、ボクたちは逃げ回るしかできないけど……雷電、何とかできないかな?』」

 雷電は腰に提げていた、メタリックブルーの円盤に手をかけた。

「一つ、確認したいことがあるんだが」

「『どうしたの?』」

「あのディスクで開きそうな扉はどこにある? この部屋、扉が全く見当たらないんだが……」

 発電室は四方を重厚な壁が取り囲んでいる。ざっと見回した限り、扉どころか壁材の継ぎ目すらもなかった。

「『この部屋は、オートマトン専用の作業室として作られたんだ。だから、人の出入り口は、元々作られてない……』」

「なんだって?」

「『でも、作業監督用のキャットウォークがあるんだ。その入り口を開けるための鍵、だと思うんだけど……』」

 もやのように群れて飛び交うトンビドレイクに霞んでいたが、天井の近くの壁際に細い通路が張り付くように巡らされているのが見えた。その片隅の壁には、小さな扉が作られていた。

「あれだな! ……それじゃあ、下の階はどうなってもいいってことだ!」

 雷電は手触りを確かめていた円盤、“ゲートバックラー”を取り上げると、右手にきつく握り込んだ。

「『雷電? 何をする気だい?』」

「雷電スーツもエネルギー消費がキツイからな。充電がてら貯めといた水、全部ぶちまける。もう少し逃げ回っててくれ!」

「『えっ』」

 雷電は左手で“ライトニングドライバー”のレバーを引き上げると、再び拳を叩きつけて引き下げた。

「“重装変身”!」

「『OK! Generate-Gear, setting up!』」

 フォームチェンジの認証コマンドを叫ぶと、ベルトから陽気なサーフ・ギターのメロディが流れ出した。宙を舞っていた鳥たちが警戒して、笛を吹くような鳴き声をあげる。

「ウオオオオオ、かかってこいやあああ!」

 スーツが激しい水流の膜に覆われると、雷電は雄たけびをあげて物陰から飛び出した。

(続)

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