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センセイ、ダンジョン、ハック アンド スラッシュ;4

文明の灯が消えた大遺構地帯"トーキョー・グラウンド・ゼロ"。

その地下にのびる巨大エナジー・プラントに、ヒーロー・チームが挑む。

旧文明時代から取り残された遺跡に、待ち受けるモノとは……?

「ここは元々、地域一帯の電気を作る、バイオマス発電所だった……らしい」


 真っ暗な階段の足元を照らしながら、マダラが地下へ、地下へと降りていく。底の知れない竪孔の周囲になぞるように階段が張り付き、螺旋を描いて地下へと続いているのだった。


「どこまで続いてるんだ、この階段?」


 マダラの声も、レンジの声も響きながら、地の底へと落ちていく。アマネは外壁に張り付くようにしながら、恐る恐る階段を降りていた。


「これ、落ちたら死んじゃうやつじゃない……! 休憩所みたいなさあ、落ち着けるようなところはないの……?」


「アマネって、高所恐怖症だったのか」


「真っ暗で下が大穴の階段なんて、怖いに決まってるじゃない! ……きゃっ!」


 レンジと言い合っていたアマネが、立ち止まったマダラの背中にぶつかって悲鳴をあげた。


「ちょっと! 急に止まらないでよ!」


「ごめん! でも……」


 マダラと並んで歩いていたレンジも、ライトで足元を照らしながら立ち尽くしている。


「見てみろよ、アマネも」


「えっ、どういうこと? ……ひいいいっ!」


 レンジの背中越しに顔を出したアマネが悲鳴をあげて首を引っ込めた。


「ちょっと! ちょっと、待って! それ、落ちたら死ぬやつ!」


 マダラとレンジが足をとめた数歩先の階段が崩れ落ちていた。インク壺のように黒々とした大穴が口を開いている。


足元からさらに先へとライトを向けると、大穴の向こう、十歩ほど先に崩れずに残った階段が続いていた。螺旋階段の更に先は、いまだに底の見えない縦孔の中へと延びている。


「どうするかなあ。“ウインドパワーフォーム”ならジャンプして、反対側までいけるかもしれないけど」


 雷電スーツに変身するためのベルト、“ライトニングドライバー”を取り出したレンジを、マダラがとめた。


「いや、狭くて足元がどうなってるかわからないから、無茶はしないほうがいいよ。……こんなこともあろうかと、ドローンも持ってきてる。まずは飛ばしてみようか」


 二人が話し合っている間、すっかり足のすくんだアマネは壁にびったりと張り付いて震えあがっていた。


「ひい、ひい……あっ?」


 壁に食い込ませんばかりに力をこめた指先に、わずかな凹凸の感触がある。足元を照らしていたライトを向けると、小さなコンソールが埋め込まれていた。


「ねえ、二人とも! ここに、何かある! ……ひゃっ!」


 アマネがマダラとレンジに呼びかけ、コンソールに手を当てた途端、もたれかかっていた壁が消えてぽっかりと入り口が現れた。


「えっ」


「何を見つけたんだ? ……おい、どこに行った、アマネ?」


 二人が振り返ったときにはアマネはバランスを崩し、煌々とした光があふれ出す横穴の中に倒れ込んでいた。


「ここだよ! 急に壁に、穴が開いて……わあ! 何これ? ちょっと、二人とも、早く来て!」


 アマネに急かされたマダラとレンジは、強い光に顔をしかめながら横穴に入っていった。


「うわっ、眩しい! やっぱり、電源が生きているな……。それにしても、どこにつながってるんだろう……?」


「アマネ、大丈夫か?」


「私は大丈夫! だけど……マダラに見てもらいたいの、これ!」


 横穴の向こうは、真っ白な壁に囲まれた小部屋になっていた。


 室内にはベンチと小さなテーブルが並べられ、壁際にはミール・ジェネレータ付の食料品ベンダーが据え付けられている。その隣には鉢植えの観葉植物……を精巧に模したオートマトンが並んでいた。そして四方の壁から浮き上がるように、立体映像のモニターが表示されていた。各画面はいくつかのマスに区切られ、それぞれに“No Signal”の文字や砂嵐が表示されたり、真っ黒のままになっている。


「ここは、休憩室か……?」


 地の底まで延びるような竪穴と螺旋階段から一転した光景に、レンジが目を丸くしながら室内を見回した。


 休憩室にはまるでカガミハラやナゴヤの軍施設か、病院の一室のような雰囲気があった。空気清浄機能や清掃オートマトンが稼働しているようで埃臭さ、息苦しさは一切ない。


「すごいな、このオートマトン! 植物そっくりな外見なのに、空気清浄機能を持ってるんだ! それに、吸収したホコリを使って自家発電をするのか! なんだよそれ、永久機関じゃんか! ああ、いや、さすがにそこまでの電力は賄えないのか……」


 マダラはそわそわした様子で、這い回るように室内を調べて回っている。


「このベンダーも、初めて見るタイプだ……ミール・ジェネレータもついてるみたいだけど、材料ペレットの投入口はどこにあるんだ? もしかして、施設全体で集中管理する仕組みが……?」


「おーい、マダラ? ……マダラ先生?」


 困惑したレンジが声をかけると、マダラは大きな目を爛々と輝かせて振り返った。


「すごいぞ! レンジ、本当にすごい! このエナジー・プラントは文明崩壊前のままで生きてるんだ! どうなってるんだ、これ?」


「なるほど、これがとんでもない代物だってのは、お前のリアクションのお陰でよくわかったよ」


「それじゃあ、ここにあるモノは全部オーパーツってこと? 見た目からじゃ、よくわかんないけどねえ……」


 レンジはため息をつく。アマネもマダラを見様見真似で、室内のテーブルやベンチをぺたぺたと触って回っていた。


「おい、アマネ、あんまり不用意に触らない方がいいんじゃないか……?」


「何よう、レンジ君! さっきだって、この部屋は私が見つけたんだから!」


「それは偶々だろう……」


 肩をすくめたレンジが壁に手をついた時、“ピッ”と小さく電子音が鳴った。


「あっ」


「あーあ、レンジ君だって……」


 レンジの目の前の壁がするりと消え、隣の部屋に続く扉が開く。壁に当てていた手のひらの下には丸いエンブレムがあり、それが扉を開けるセンサーになっているようだった。


「何だよ、偶々だろう! ……マダラ、扉が開いた。ちょっと、行ってみるぞ」


「……えっ? ちょっと、レンジ、気を付けて!」


 マダラが気づいて振り返った時には、レンジは戸口をくぐって隣の部屋に入っていた。


「隣の部屋だし、何かあったらすぐに戻るさ」


「わかった。……そっちの部屋には何がありそう?」


「何だろう、やたら広くて、壁にシャッターみたいなものが降りてる。ロッカーみたいなものもあるな」


 部屋の中に入っていったレンジが、周囲を見回しながら答えた。アマネも戸口から顔を出して、部屋の中を覗き込む。


「ほんとだ、何もないね。それに、床がずいぶんこすれて傷がついてる……車輪の跡?」


「それじゃあ、その部屋は重機の格納庫かもしれないなあ」


 テーブルに広域通信装置と端末機を添え付けながらマダラが返す。休憩室を、探検のベースキャンプにするつもりのようだった。


「格納庫か……」


 開いた扉の向こうで、レンジが振り返る。


「なら、作業用のパワードスーツとか、オートマトンとか、残ってるんじゃないか?」


 レンジの背後、大部屋の奥のシャッターがゆっくりと上がり始めていた。


「レンジ君、後ろ……!」


「えっ……?」


 シャッターの向こうには更に空間が広がっているようだったが、そのほとんどを巨大なものが埋めつくしている。


 天井までシャッターが上がりきると、赤く光る両目が部屋の中央にいるレンジの背中を見下ろしていた。巨体は毛皮に覆われ、ところどころから琥珀色の結晶が突き出している。それは、小山のような……


「熊だ!」


「……何だって、こんなところに?」


 アマネが叫ぶと、マダラもがばりと立ち上がる。


「は、熊……?」


 ぽかんとした顔で振り返ったレンジの目に飛び込んできたのは、両手を振り上げて牙を剥きだす、モンスター化したミュータント熊……”オニクマ”だった。


(続)

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