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ロケットブラザーズ ラン;15(エピローグ)

兄弟がぶつかり合う……


地下レース場編、完!

カガミハラ第4地区、繁華街の片隅にあるミュータント・バー“止まり木”の看板が、オレンジ色の灯に照らされている。


 扉を開けると響く、カランと乾いたベルの音。四つ目の女給がパタパタと走り寄ってきた。


「いらっしゃいませ! “止まり木”にようこそ……あら!」


「こんばんは」


 戸口に立って案内されるのを待っていたのは、両手を後ろに隠したメカヘッドだった。


「開店ギリギリの時間に申し訳ないんだけど、ママに用事があってね……」


「ええ、ええ! 伺ってます! ……少々お待ちくださいね」


 女給が店の置くに目を向けると、黒いドレスをまとったチドリがしずしずと歩いてきた。


「メカヘッドさん、お帰りなさい。ご免なさいね、戻ってきて早々に呼びつけてしまって……」


「いやいや、ママから頼まれたらいつでも駆けつけますとも! それに言った通り、これからしばらく後始末で忙しくなりますからね! このタイミングでママに会えて、エネルギーをチャージすればやる気も出るってもんです」


「あらあら、うふふ……」


 クスクス笑っていたチドリは、メカヘッドが後ろ手に隠しているものに目を向けた。


「あら? それは……?」


「フフ……これです!」


 勿体ぶった身ぶりで取り出したのは、透明な素材で作られた盾だった。内側で蛍光色のラインが目まぐるしく走っているさまは、いかにもナゴヤ・セントラル製らしい。チドリは首を傾ける。


「確か、レース自体は中止になったんですよね?」


「ええ。これはトロフィーじゃないんです」


「……あら!」


 盾の表面には“特別賞”と刻まれ、内側を流れる蛍光色の光が通り抜けるたびに浮かび上がってくるのだった。


「レーサーとピット・クルー、観客、それに従業員……関係者全員を救助するのに貢献した、ということだそうですよ。 これはこれで名誉あること……なんですけど、あのままレースが続いていたらウチの優勝だったと思うんですよねえ……」


 残念そうに言うメカヘッドを見て、チドリは小さく笑った。


「素晴らしいことですわ! レンジ君にも話を聞かせてもらいたかったのですけれど……」


「まあ、今は仕方ないですね。最高のレースの真っ最中ですから。帰ってきたら、きっと色々話して聞かせてくれるでしょう」


 チドリはにこりとして両手を合わせる。


「ええ、楽しみにしていますね。……メカヘッドさんは、ゆっくりしていかれますか?」


「いや、名残惜しいですけれど早めに切り上げて、本署に行かなければいけないんです」


 メカヘッドの答えを聞いたチドリはピアノの横に駆け寄った。響きを慣らすために一音、二音と小さく鳴らしていたピアニストに短く耳打ちすると、振り返ってメカヘッドを見た。


「それではお帰りになる前に、一曲聴いてらして。……ショーの時間には早いですけれど、皆さんもどうぞ!」


 まばらにいた客たちも歓声をあげ、皆でステージの前に詰めかけた。チドリは席についた客たちを見回して微笑むと、軽やかなピアノの響きにのって歌い始めるのだった。





 事後処理が終わったナゴヤ・セントラル・サイトの地下レース場、“メイジョー・バイオレット・ループ”。水が抜けきった後も、僅かに藻や小さなゴミがこびりついて残っている壁に、力強いエンジン音が響いた。


「『さて! いよいよ特別レースが始まります! “ロケッティアズ・ラン”は残念ながら中止となりましたが、この二人の因縁はまだ終わっていない! レンジ・コウジ兄弟、たった二人の最終決戦が、今、始まります!』」


 機材が引き払われ、開放された“ポイント・ヒサヤ・ブロードウェイ”のホームで、コンパニオン・スーツをまとったアマネが拡声器を手に叫んでいた。


「何でアマネが仕切ってるのさ。それに、何なのその格好……」


 隣に立ったマダラがあきれ声で言う。


「だって、仕切るなら中立な人がいいでしょう?」


 ホームに集まっていたのは、ナカツガワ・カガミハラの共同代表チームとオーサカ代表チームの面々、そしてちびっこ二人と二本角の男だった。


「まあ、そうなんだろうけどさ……アマネも関係者じゃない?」


「『いいの! 巡回判事ですから!』」


「はいはい……」


 ボディスーツを着て胸を張る巡回判事が拡声器で叫ぶと、マダラは耳を塞いで返した。


 ホームの端ではナカツガワの子どもたち、犬耳のアキと鱗肌のリンが、コンパニオン・スーツ姿のアオに体を支えられ、身を乗り出して喚いている。


「レンジ兄ちゃん、頑張れ!」


「負けるな!」


 隣に立っていた黒い羽根のコンパニオン、アゲハも負けずに叫んだ。


「……コウジ! 頑張って!」


 皆の視線が集まるホームの先、かつては線路が敷かれていたレーシング・コースに、2台のバイクが並んでいる。ツバサ・インダストリの最新鋭バイク、白い“ムラクモ”と、旧文明のロストテクノロジーの結晶、鈍い銀色に輝く装甲バイクの“サンダーイーグル”。


「よかったのか? 俺は変身したままで?」


 装甲バイクにまたがった雷電が、白いバイクのレーサーに尋ねた。


「そのままじゃなきゃ、意味がないだろ! それに、変身してなかったら負ける気はしないね!」


 ムラクモに乗るコウジが強気で返すと、レンジは「ははは」と愉快そうに笑った。


「いいだろう! 兄として、全力で相手になってやろう……!」


「くそ! 大人げないぞ、兄さん!」


 雷電は吼えるようにバイクをを吹かせた。


「ははは! かかってきな!」


「絶対、負けねえ……!」


 カウントを刻んでいたシグナルが青く光る。アマネが高く手を揚げると、2台のマシンは唸りながら、猛然と走りだした。


(エピソード7:ロケットブラザーズ ラン 了)

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