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ウェイク オブ フォーゴトン カイジュウ;7

子どもたちと魔法少女が案内されたのは、海底に隠されたミュータントの里、水没庭園都市"オゴト・ヘイヴン"……!


一方、深海探索から帰還したヒーロー・チームを、港で待ち受ける者たちがいて……?

 銀色の潜水艇に誘導され、子どもたちの船とマギセイラーは海中遺跡が建ち並ぶ中を、ゆっくり進んでいく。海は穏やかになっていたが、先ほどの“怪獣”が荒らしたような破壊の痕が、そこかしこに見られるようになった。潜水艇が静止すると、海中に向かって信号灯を点滅させた。


 海底の廃墟が崩れて消える。光学ジャミングによる隠ぺい画像が解除されたのだった。遺跡の中に、巨大な半球型の隔壁が姿を現す。ナカツガワ・コロニーを取り囲む外壁よりも、更に大きな円を描いているようだった。


 隔壁の下側に大きなゲートが開き、潜水艇が入っていく。魔法少女は運転席の前を通りすがりに、アオに目配せした。光の尾を描きながら泳いでいく魔法少女を追いかけて、アオの船もゲートに入っていった。




 ゲートをくぐると、すぐ真上に水面が見える。潜水艇に続いて浮上すると、船の甲板部が海から飛び出した。窓からまばゆい光が射す。


「わっ!」


 アオも、子どもたちも目を閉じた。光に慣らしながらゆっくりと目を開くと、目の前にはオーツの港と同様の船着き場が広がっていた。隔壁の中には港町が建てられ、地上の景色かと見まごうようだった。


 通信端末に表示される異常信号の発信元は、どうやらこの町のようだ。船を着岸させると、アオは子どもたちに待っているように言い含めて、一人で外に出た。


 桟橋に立ち、辺りを見回す。外から見た通り、1つの港町が隔壁にぐるりと取り囲まれている。内側から見る壁は半透明で、外側の海が青空のように見えた。文明崩壊前の町をそのまま使っているようだが、街並みは奇抜な建物が多い。派手な色づかいや不思議な造形は、どこか聖誕祭の飾りつけを思わせた。


「アオ!」


 桟橋の先から呼びかける声。目を向けると、青い衣装の魔法少女が立っていた。


「あなたは、マギフラワー?」


「いや、今の私は……」


 魔法少女は言いかけて、手にした剣をかざしてポーズを取った。


「“嵐を砕く光の大波! マジカルハート、マギセイラー!”」


 立体映像の、薄青い爆炎が巻き上がる。


「……中身は、同じなんだけどね」


 船内の子どもたちは歓声を上げながら飛び出してきた。


「マギセイラー!」


「ありがとう!」


「かっこいい!」


 アキとリンも、皆の輪に加わっていた。


「マギセイラー、私たちに着いてきてくれたんだ!」


「……どうしよう、アマ姉ちゃん、怒ってないかな……」


 リンが大喜びする一方で、アキはアマネのことを思いだし、しょんぼりしていた。


「私は巡回判事に頼まれて、皆を追いかけてきたのよ。海には怪獣がいるから心配だ、って。皆が帰った後のことは任せてきたから、戻った時に謝ったらいいわ」


「うん!」


 アキが明るくうなずく。宿舎や食事の手配は職員のお婆さんに任せてきたのだが、まあいいだろう。


「マギセイラー、助けてくれてありがとうございます」


「いいのよ! 私は“魔法少女”、なんだから!」


 アオが深々と頭を下げるのを制して、マギセイラーは笑いながら言った。


「……それで、ここは一体?」


「それは、私にも……ドットからも聞いてないし……あっ!」


 港での騒ぎを聞きつけた人々が集まり始めていた。不安そうな老人、目を輝かせる子ども、不信感から鋭い視線を向ける若者たち、アオたちを見ながらお喋りに興じる中年の男女……。町中の人々が集まり始めたかのような賑わいに、アオも、ナカツガワの子どもたちも固まって、目を丸くしている。取り囲む人々はいずれも、色とりどりの肌に変形した四肢、あるいは異形の頭部や副腕、副脚、尻尾や翼を持つ……ミュータントだった。


「やあ、これは申し訳ない! 対応を相談しているうちに、すっかりお待たせしてしまって……」


 人垣をかき分けて、ダミ声の男が船着き場にやって来た。それは海亀のような頭を持った灰茶色の肌の大男で、アオとマギセイラーを見下ろすように立つと大揚に頭を下げた。


「ナカツガワの皆さん、グレート・ビワ・ベイ唯一の、ミュータントの村"オゴト・ヘイヴン"によくおいでくださいました。私はまとめ役のコウゾウと言います」


「私はアオです。私たちは、ビワ・ベイ一帯を覆っている電波障害を調べていたんです。障害を起こす妨害信号が、この町から出ているみたいで……」


「それは……その……」


 豪気そうに見えた亀男が途端に困り顔になり、周囲にいる人々を見回す。周りの者たちも口ごもっていたが、その中で激しく怒鳴る声が1つ。


「あんた! これまで放っておいたツケが回ったんだよ、観念しな!」


 コウゾウの後ろに、小柄な中年の女性が立っていた。3つの目を吊り上げて罵ると、大男は恐れ入って小さくなった。


「すまん母ちゃん……」


「まったく! お客さんには、こっちで説明させてもらうからね!」


 三つ目の女性はうって変わってにこやかに、アオとマギセイラー、子どもたちの前に出てきた。


「ごめんなさいね、お見苦しいところを……私はあの鈍亀の家内で、ミツと言います」


 そう言うなり、ミツは大きな映像通話端末をとりだした。


「詳しい話は、この子から聞いてもらえませんか。私たちも、実はよくわかってなくてね」


 端末の画面には、水中に浮かぶ多眼の少女が映し出されていた。




 メタリックブルーの装甲が、音もなく深海に沈んでいく。


「『目標まで、10、9、8……』」


 ヘルメット内のインカムから、マダラの声がカウントしていた。


「『……3、2、1……そこだ。雷電、何か見える?』」


 沈降していた雷電が静止する。深海に潜んでいた巨大な影。


「これは……」


 暗視バイザーに映る丸いもの。それは雷電一行を乗せてきたボート程はあろうかという怪魚だった。


「デカイ魚だ! これまで見た中で、一番じゃないか?」


 怪魚は口の周りのヒゲをぴくつかせると、頭を上げて雷電を捉えた。食らいつかんと迫る大口を左手の丸盾で受け止める。


「うおおっ! ……マダラ、どうやって戦ったらいい?」


 右手で殴り付けると怪魚は口を離した。距離を取ったかと思うと、再び突っ込んで雷電に食らいつく。


「『雷電、ウォーターパワーフォームには、必殺技はないんだ』」


「ないのか!」


 雷電は丸盾で攻撃を受け止めながら叫ぶ。


「『その代わり、盾で受けた衝撃を水流にして撃ち返すことができるんだ! 発動コードは“ヴォルテクスストリーム”だ。今なら一発は、撃てるはずだよ!』」


「“一撃で充分だ、決めるぜ!” ……ああもう、フォームが変わってもこれかよ!」


 雷電スーツの“自動決め台詞機能”によって勝手に口から放たれる台詞にうんざりしながら、レンジは怪魚を押し返した。


「“ヴォルテクスストリーム”!」


「『Vortex Stream』」


 レンジが発した発動コードに、スーツの人工音声が応える。かざした丸盾、“ゲートバックラー”の中央から激烈な水流が放たれると、怪魚は弾き飛ばされ、そのまま泳いで逃げ去った。


「『やった……! なかなかの威力じゃないか! 地上で撃ったら、パワードスーツの装甲も抜けるんじゃない?』」


 ボートの中で画面を見ながらマダラが興奮して叫ぶ。


「よかったのか、逃がしちゃったけど……?」


「『構わないよ。どうせあれは“怪獣”じゃなかったんだ。まあ、晩飯を逃がしたのは残念だったけどな』」


 マダラに代わってメカヘッドが答えると、後ろからオノデラ保安官の「勘弁してくださいよ……」という声が聞こえてきた。


「『まあ、さすがに冗談だよ。……さて雷電、さっきの魚以上の反応は近辺にはない。もうじき日も暮れる……夜の海も調べる必要はあるが、さすがに初日から飛ばしすぎるとバテるだろう。今日は一旦引き揚げよう』」


「了解」


 雷電は短く答えると、自らのスーツから伸びているケーブルをたどるようにして浮上していった。




 雷電を回収したボートが船着き場に戻ると、岸には漁師たちが集まり、人だかりができていた。ボートを着岸させるオノデラ保安官の表情が固くなる。


「皆さん、こんばんは」


 オノデラ保安官の挨拶に返す漁民はおらず、皆むっつりと不満そうな顔をしていた。


「おう、保安官殿」


 一人の漁師がつっけんどんな声で答える。


「行ってきたのか、この前話していた怪獣探しに!」


「話し合いがまとまらないまま進めてしまい、申し訳ないです。しかし、カガミハラから応援を頼むには時間が……」


「必要ないだろう、ミュータントの応援なんて」


 人垣の中から声が飛ぶ。ボートの中のマダラは顔色が悪いまま、黙っている。


「妨害電波は海中から来てるんだ、奴らもグルに決まってる!」


「この町にはミュータント・バーもないぜ! どこに泊まるっていうんだよ、ミュータントがよ!」


 “バーに泊まる”とは“女給を買う”という事だ。底意地の悪い罵倒にも、マダラはうつむいたままだった。


「大体、何なんだよその、ミュータントに、オートマトン人間に……その、何? 青い……鎧?」


「ヒーローです」


 大真面目な声でレンジが返す。漁師たちは声を上げて笑いだした。


「ヒーロー! なんだそりゃ?」


「ガタイはあるのに、中身は子どもかよ!」


「大人の大事な話してるんだ、引っ込んでな!」


 嘲笑い、罵る声を一身に受け、雷電スーツのレンジは黙っていた。


「君たち、いくらなんでも……!」


 耐えかねたメカヘッドが立ち上がり、陸に上がって漁民に食いつこうとした時、




 けたたましいサイレンの音が近づいてきた。


「ごめんなさい、通してください! カガミハラから来た一団を探しています! 緊急事態です! ごめんなさい、通して!」


 重なってがなる、スピーカー越しの声。


 メカヘッドが持ち込んでいた“緊急車両セット”、すなわちサイレンと、スピーカーと、警告灯を載せた“オーツ休暇村”と描かれた二台目のバンが、猛烈な勢いで走り込んできたのだった。


「おっ! こっちだ! こっち!」


 メカヘッドが立ち上がる。バンは砂煙を巻き上げ、アスファルトを激しくこすりながら停まった。


「高岩巡査曹長!」


 アマネが運転席から身を乗り出して大きく手を振っている。


「滝アマネ巡回判事! 親しみをこめて“メカヘッド”と呼んでもらえませんかねぇ! だがまあ、いいタイミングだ! どうしました?」


「皆さんを、迎えにきたんですよ! さあ、乗ってください!」


 メカヘッドは、マダラの背中をバシッと叩いた。


「行くぞマダラ君、運転を頼む。それとも、巡回判事殿の運転で行くかね?」


 マダラは苦笑いした。


「冗談にしてもタチが悪いですよ」


「はあ? 冗談じゃない!」


 腹をたてるアマネに構わず、鈍い銀色のスーツに戻った雷電はバイクに跨がっていた。


「それでアマネ、どこに行こうっていうんだ?」


 アマネは得意そうに胸を張る。


「へへーん、何と……ミュータントの隠れ里! 怪獣事件の真相を、知ってるんだって!」


(続)

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