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ウェイク オブ フォーゴトン カイジュウ;4

ヒーローは新たな姿・ウォーターパワーフォームでビワ・ベイの海に繰り出した。


それはそれとして、水着回ですよ、水着回!

 レンジはバイザー越しに、自らの両手をまじまじと見た。左手に握っていた丸盾は一回り大きくなって、籠手にとりついて一体化している。


「これが、新しい雷電の姿……!」


「そう、“ウォーターパワーフォーム”は水を操るし、水の中でも自由に動き回れるんだ。さあ雷電、潜ってみて!」


 変身が成功したことに興奮しているマダラは、すっかり恐怖心も忘れているようだった。うきうきしながら雷電のヘルメットに有線カメラと通信装置を取り付ける。


「了解。このまま潜っていいんだな……」


 どぶん、と音をたて、水しぶきを上げて雷電は海に入った。白い泡に視界が包まれた後、真っ青な空間が一面に広がった。


 底の見えぬ暗い足元からは細かい泡が筋のように連なって立ち上がる。小さな魚が鳥のように群れをなして泳ぎ去った。


 透明度がさほど高くないのは、海が豊かで栄養分に満ちているからだ。ところどころに海藻が漂い、視界の果てには大きな魚の影がゆったりと泳いでいるのが見える。雷電はスーツの重さの割にゆっくりとした速度で、海底に向かって沈んでいた。


「『雷電、状況はどうだ?』」


 通信装置を通して、メカヘッドが船上から尋ねた。


「スーツの異常はなさそう……ゆっくり沈み続けていますが、どうすれば水中で動けるんですか?」


「『雷電、そのスーツは、背中に水中用ジェット・パックがついてるんだ』」


 通話を交代したマダラが答える。


「『脳波操縦で動かすんだ。ジャイロで姿勢を安定させてるから、基本的に前後左右の意識でいいよ。潜る時には“下”、浮かび上がる時には“上”の意識だ。やってみて』」


 レンジが背中に意識を向けると、体が海中で静止した。バイザーの中ほどに“Jet-pack on”、上下の端にそれぞれ“UPSIDE”、“DOWNSIDE”と表示される。


「これか、よし……うおっ!」


 前に進むように念じると、ジェット・パックが猛烈な勢いで水を噴き出した。雷電スーツが魚雷のように水中を飛ぶ。


「『雷電、カメラの映像はばっちり届いてるよ。ジェットは無事に動いてるね』」


 マダラは嬉しそうだが、雷電は手足をばたつかせながら飛び、水中で大きな輪を描いた。


「動いてるけど、速すぎる! どうすりゃいいんだ!」


「『もっと具体的に、速さをイメージするんだ。歩く速さ、走る速さ……って』」


「了解。歩く、歩く……」


 メタリックブルーの雷電はスピードを落とすと、海の中を歩くような速さで進みはじめた。泳ぎながら、きょろきょろと周囲を見回す。


 上下に視線を向けると、“UPSIDE”、“DOWNSIDE”の表示がその都度切り替わった。海面は明るく輝き、真っ黒な海底へと光のカーテンを落としている。


「凄い景色だな、これは……!」


 スピードを変えるように念じると、少しずつ加速していく。レンジは思いきって、“バイクで走る速さ”をイメージした。スーツが風をまとうように、身軽に海中を飛び回る。


「おお、これは楽しい!」


「『いいぞ、いいぞ! 起動実験は成功だ!』」


 小魚の群れを追い散らし、海藻の塊を避けて自在に飛ぶ雷電に、メカヘッドが話しかけた。


「『二人とも、楽しそうなところ悪いが、そろそろ仕事に移ろう』」


「了解。このスーツで海の中を泳ぎ回って、怪獣を捜すんですね?」


「『いくらなんでも海の中を人の目だけで捜すのは無理がある。そこで……これだ』」


 バイザーに円形のレーダーサイトが表示された。


「これは?」


「『都市警備システム“ドミニオン”を君にケチョンケチョンにされてから、うちの新しい技術開発部が燃えていてね。俺にも新しいヘッド・パーツを作ってくれたのさ。名付けて“ソナーヘッド”だ』」


「成る程、ソナーで探ってもらって、怪しいところに俺が突っ込むわけですね」


「『その通り! それじゃ、早速始めよう!』」


「了解」


 雷電は速度を落として、オーツ・ビワ・ベイの海中を探り始めた。




 からりとした夏空の下、水しぶきとはしゃぐ声があがる。チェックインを済ませて軽い昼食をとると、子どもたちは海水浴場に繰り出した。


 エメラルドブルーの海は細かい波を寄せては返しながら、陽光に照らされて輝いている。穏やかな海の沖にはブイが浮かび、モンスター避けのネットとロープが巡らされていた。白い砂浜には南国の花を思わせる赤い大きなビーチパラソルが開いていて、監督者詰所になっていた。




「ネットのあるところまでは、泳いでいっていいからね」


 水着の上からウインドブレーカーを羽織ったアマネが言うと、アキたち数人の子どもは「やった!」「きょうそうしよう!」などと言い合いながら海に入っていく。入れ替わりで上着を羽織った子どもたちのグループがやってきた。


「ねえ、アマネお姉さん、“きゅーかむら”の中を探検してきていい?」


「いいけど、管理人さんたちからダメって言われたところには、入らないようにね」


「はーい」


 子どもたちがぞろぞろと宿舎に向かっていくのを見送ってから、アマネは浜に目を向けた。波打ち際を駆ける子ども、砂浜でボールを打ち合う子や、砂を掘って遊ぶ子たち。浜の近くの浅い海を浮き輪でふわふわと漂う子ども……


「みんな、楽しめてるみたいでよかったですね」


 冷えた模造麦茶の水筒とコップを持ったアオが戻ってきた。


「そうね。見回り、お疲れさま。トラブルはなかった?」


 アオは滴を散らしながら、黒いセパレートの水着姿でアマネの隣に腰掛けた。


「はい。みんな気をつけて遊んでいますから。私もちょっと、一緒に泳いできちゃいました」


 シートの上に畳んでいたタオルを取りだし、長い髪を拭きながらアオが笑う。ナカツガワ工房、今年の新作水着は黒地に白いラインが入ったシンプルなデザインで、長身でスタイルのよいアオの魅力を引き立てていた。


「仕事だから仕方ないんだけど、レンジ君に水着を見せられないのは残念だったね」


 アマネがいたずらっぽく笑って言うと、アオは真っ赤になった。


「そんな、そんなことはっ……!」


「やっぱり、一緒に海で遊びたいな~って思ってた?」


「ううう……!」


 アオは大きな両手で頭を隠して丸くなった。


「あはは、ごめんね。アオちゃんの反応が可愛くて、つい……」


 アマネが謝ると、アオは顔を上げた。長い前髪の下で、可愛らしい目が睨んでいる。


「もう! ……アマネさんはどうなんです?」


「えっ、私?」


「アマネさん、マダラ兄さんと仲がいいじゃないですか」


 アマネはぽかんとしてアオを見ていたが、すぐに吹き出した。


「あっはっは! ないない! マダラだって、そうなんじゃない?」


「えーっ?」


 ばっさりと否定されて面白くないやら、自分から話題を振っておきながら兄の浮いた話を聞かなくて済んでほっとするやら、曖昧な表情のまま声をあげるアオを尻目にアマネは立ち上がった。


「それじゃ、私もちょっと泳いでくるわ。しばらく交代、よろしくね」


 ウインドブレーカーを脱ぎ捨てると、アオと色違いの白い水着を纏って、引き締まった体が露になる。


「はーい、行ってらっしゃい」


 模造麦茶のグラスを傾けるアオに見送られたアマネは裸足で砂を踏みしめながら、大股で波打ち際へと歩いていった。




(続)

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