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ヒートウェイブ オン ダイアモンド;13

「パワードスーツがなくてもポリ公だ、ナメるなよ!」


「囲め! 腕を抑えるんだ!」


「やめて! 来ないで!」


「触るな、ゲスども……!」


 怒鳴る声にどやされて、男たちがヤエとキヨノに迫る。まとわりついてくるような視線と無数の手のひら。娘たちが身体を強ばらせた時、


「二人とも、頭を下げて!」


 頭上から降ってくる、若い女性の声。ヤエとキヨノは、尻餅をつくようにしゃがみ込む。


「“ブルームアロー”……シュート!」


 叫び声とともに、娘たちの頭上を飛んでいく薄ピンク色の光線。光の奔流は夜闇を照らしながら暴漢どもを貫き……


「ぎゃあああ!」


 男たちは大きく吹っ飛ばされ、木の葉が散るように路上に転がった。


「いてえ、いてえよぉ……」


「いやだ……死にたくない……!」


 青白い非常灯に照らされながら、のたうち、悲痛なうめき声をあげる男たち。頭上から「はははは!」と高笑いが降ってくる。


「安心しなさい、非殺傷設定よ! ……ま、とんでもなく痛いと思うけど。あっさり逝くのと、どっちがマシかしらね? あっはっはっは!」


 容赦なく降り注ぐ、残忍な宣告。


「ひいい! た、助けて……!」


 辛うじて直撃を免れた男が、片足を引きずりながら走り出す。


「シュート」


 薄ピンク色の光線が男の後頭部を貫いた。逃げようとしていた暴漢は崩れるように倒れ込み……動かなくなった。


「逃がすワケないじゃない」


 気を失った男に向かって言い放つ、頭上からの声。ソラは顔を上げ、思い切って声を投げた。


「あの! ありがとうございます!」


「いいのよ、これもお仕事の内だから」


「お仕事? あなたは一体……?」


「あっ、ごめん、ごめん。名乗ってなかったわね……」


 キヨノも声をかけると、頭上の声はハッとした様子で謝った。そして防犯灯の上から二人の前に、ふわりと降り立つ人影。


「よ、っと」


 目の前にいるのはとんがり帽子にひらひらのドレスを纏い、花飾りのついた杖を手にした、若い娘だった。その姿は魔女か、あるいは文明崩壊前に放送されていた女児向けアニメーション番組に登場する“魔法少女”そのものだ。

 とんがり帽子の下から両目が金色と銀色に輝き、ソラとキヨノに向けられる。助けられた娘たちが目を丸くしているのを見て、金銀妖瞳の魔法少女はにっこり微笑んだ。


「自己紹介がまだだったわね。私の名前は……」


 言いかけてピタリと固まった後、魔法少女は杖を構えて、大仰な身振りで“キメポーズ”を取ってみせた。


「『黒雲散らす花の嵐! マジカルハート・マギフラワー!』」


 口上を言い放つとともに、マギフラワーの背後に噴きあがるピンク色の爆発。娘たちはぽかんと口を開け、目の前で大見得を切る魔法少女を見つめていた。


「マジカルハート?」


「マギフラワー……?」


 マギフラワーはソラとキヨノの反応を見て、困ったように笑う。


「ごめんね、自己紹介しようとすると、勝手にこんなポーズを取っちゃうんだ! びっくりしたよね。私は……“マジカルハート マギフラワー”!」


 杖を構えると、再びピンク色の爆発が舞い上がる。爆風が飛んでこないことから、実際の爆発ではなく、投影された立体映像のようだ。マギフラワーは見得を切るポーズをして見せた後、杖を下ろして肩をすくめた。


「ね、名乗ろうとすると、毎回こうなの。……もう、名前は大丈夫よね?」


 ぶんぶんと頭を縦に振るソラとキヨノ。


「それで、さっきの光は? 何故私たちを助けてくれたんです……?」


「光? ああ、これ?」


 ソラの問いかけに、魔法少女は手に持った杖を取り上げてみせる。その時、転がっていた男の一人が逃げようともがいた。


「た、助け……」


「シュート」


 マギフラワーの一言で、手にしていた杖の先から薄ピンク色の光線が放たれる。腹ばいになっていた男の頭を、光線が打ちぬいた。


「ぎゃっ」


 断末魔の短い叫び声とともに突っ伏し、男は動かなくなった。魔法少女は杖の先にふう、と息を吹きかける。


「……と、まあ、こんな感じ。もちろん、これも非殺傷設定にしてるから、安心して」


 ぴくりともしない暴漢を見下ろしながら、にこやかに言うマギフラワー。ソラとキヨノは青くなりながら、一層激しく首を縦に振る。


「それで、あなた達を助けた理由、だっけ? ……困ってる女の子を助けるのは、当然のことでしょう?」


「……でも! だからって、そんなビーム銃を使って……それに、そのドレスだって、パワーアシスト・スーツのたぐいなんじゃないんですか? オーサカ・セントラルの保安局の人じゃなさそうだし……それにその目、ミュータントですよね? なんで、そんな物を使って、私たちを……?」


 疑問を浴びせかけるが、魔法少女は黙っていた。

 急に非常灯のライトがオレンジ色に点滅し、驚いたソラは言葉を切る。遠くから近づいてくるサイレンの音に、気付いたのはキヨノだった。


「ソラ!」


「ようやく来たみたいね。通報しといてよかった」


 マギフラワーも近づいてくるサイレンに気付いて、音のする方向を見やる。そして再び、ソラとキヨノに振り返った。


「じきにオーサカのお巡りさんたちが来るし、あなた達は早く帰った方がいいわ」


「待ってください、あなたは……!」


 諦めきれずに呼びかけるソラの腕を、キヨノが引っ張る。


「……ソラってば! 行きましょう!」


「あなたは、何者なんですか?」


「詳しくは言えない。でも私は、あなた達ミュータントじゃない人と、ミュータント……アオが、一緒に頑張っているのを応援している。あなた達“セキュリティズ”の活躍を良く思わない人たちから、あなた達を守るのが、私の役目」


 魔法少女の答えに、キヨノが目を見開いた。


「……それでは、この男たちはただの性犯罪者ではない、と?」


「よく考えてみて。ここは“選手コロニー”……“セントラル・ダービー”参加者のために作られた町よ? とても安全なはずのこの町で、女の子二人を襲うためにこんなに沢山の男が集まるかしら? それも前もって徒党を組んで?」


 固まりつく娘たち。サイレンの音が随分と大きくなっている。


「ほら、二人とも早く行きなさい!」


 マギフラワーに急かされ、追い立てられるように並木道を逃げていくソラとキヨノ。

 二つの背中が小さくなっていくのを見送ってから、魔法少女は周囲を見回した。


「さて、これで……ん」


 並木の陰から、こちらの様子を窺っている人影に気付く。相手も、魔法少女の視線に気づいた様子で、するりと木立の奥の闇に溶けていった。

 マジカルハート・マギフラワーは近くの防犯灯から這わせていた電源ケーブルを引っこ抜くと、ひょいと街灯の上まで跳びあがる。

 取り残されたのは、倒されて路上に転がる男たち。


「『オーサカ保安局です! 喧嘩ですか? 事故ですか? 全員、動くのをやめなさい……!』」


 サイレンを鳴らしながらやって来たパトロール・カーの前照灯に照らされ、襲撃者たちの無様な姿が夜闇に白く浮かび上がった。




 防犯灯が照らす道を離れて、路面に散らばる枯れ葉を踏みながら、大股で歩く人影。暗闇の中、両目に当たる箇所が赤い光を放っていた。


「シュート」


 声に気付いて人影が立ち止まる。足を止めた先に薄ピンク色の光線が落ち、樹々の黒々とした枝を浮かび上がらせた。

 闇の中にいた人影……全身をサイバネティクス義体で固めた人物は顔を上げ、光線を発射した相手を探す。


「マジカルハート・マギフラワー……!」


「ここよ」


 サイバネティクスの人工声帯から漏れる、魔法少女を呼ぶ声。魔法少女は応えるように、大木の上からひょう、と飛び降りた。サイバネ義体の前に降り立つと、杖を構えて身構える。


「お久しぶりね、フルサイバネの殺し屋さん」


 にこやかに、しかし決して隙は見せない。……こいつはこれまで闘ってきた相手の中でも、一、二を争うほどに危険な相手なのだから。

 マギフラワーは金と銀の瞳をギラリと光らせながら、サイバネ傭兵を見据えた。


「……さっきの騒ぎは、やっぱりあなたの仕業?」


「私は独立傭兵だ、マジカルハート・マギフラワー」


 サイバネ傭兵が返す。抑揚のない声だったが、言葉の端にはあからさまに不満そうな響きがこもっていた。


(続)

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