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フィスト オブ クルーエル ビースト;7

 ドットがぴょんぴょんと跳びはねる。


「やった! “ストライカー雷電・ファイアパワーフォーム”、変身成功だよ!」


「これが、雷電の新しい姿……!」


 右腕の籠手をまじまじと見る雷電に、ミュータントが吼えたてた。


「あおおおおおおおう!」


 獣が走る。雷電も並んで走りながら、ドットに尋ねた。


「丸いの! この格好は、何ができるんだ?」


「ファイアパワーフォームは、腕力が強いんだ!」


 殴りかかったミュータントを、雷電が右腕で弾き返す。


「なるほど、シンプルでいい!」


 殴り返すとメタリックレッドの装甲から炎と熱風が噴き出した。“26号”が飛び退くと、ひび割れたアスファルトの隙間から伸び出ていた立ち枯れの草が燃え上がった。


「それと、炎の力が使えるんだ! 火と熱を起こしてベルトのバッテリーを充電するから、ドンドン攻撃して!」


「了解だ!」


 雷電はドットに返すと、殴りかかってきたミュータントの拳を受けとめた。左腕で払いのけ、右腕の拳を叩きつける。高熱を纏った打撃を受け、ミュータントは呻きながら後ずさった。


「“最終ラウンドだ! ここでカタをつけるぜ!”」


 スーツの自動発話機能がレンジの体を動かし、決め台詞を言わせる。“26号”も「うああああ!」と叫び、二人の拳が再びぶつかり合った。




 オールド・チュウオー・ライン、森の中を貫く瓦礫の道を、パステルブルーのスクーターが跳ねながら飛んでいく。立方体のバッグを背負ったアマネは、しがみつくようにハンドルを握っていた。


 更にスピードを上げる。景色の輪郭がかすれて緑色の波になり、後ろに駆け抜けていく。正面から飛び込んでくる影像は脳内で処理される前に目まぐるしく展開した。足元に伸びる瓦礫の道から逸れるまいと、視線を這わすのがせいぜいだった。


「あっ!」


 一際大きなコンクリートの塊が正面に横たわっていた。アマネは速度を落とさずに駆ける。礫塊を乗り越えようとした時、




 足下でボン、と破裂音が響いた。




「やった!」


 後輪がバーストしたが、スクーターの勢いは止まらない。コンクリートを越えて高く跳ね上がる。


 浮遊感は一瞬で、瓦礫の道に着陸するなり、激しい振動が襲った。スクーターはよろめき、大きく蛇行しながらスピードを落としていく。とうとう道の端にはみ出して伸びる茂みに突っ込み、枝や下草に絡めとられるようにして停まった。


 アマネはふらつきながらスクーターを降りる。


「あっちゃあ……」


 後輪の残骸を見た後、すぐさま背中の荷物を開けて無事を確かめた。しっかり包まれていたのが幸いだった。アマネは息をつく。




ーーしかし、これからどうしようか。




 腰に両手を当てて考えていると、胸ポケットの中に入れていたものを思い出した。


「……走るか」


 懐に手を入れて、ピンク色の筒を取り出す。アマネはうっすら頬を染め、咳払いしてから叫んだ。


「“花咲く春の夢みるドレス、マジカルハート、ドレス・アップ”!」


 ピンク色の筒、“マジカルチャーム”を掲げると、華やかな音楽と共にアマネの全身がピンク色の光に包まれた。光が花のドレスになり、髪も伸びて淡いピンク色に染まる。カラーコンタクトで隠していた、縦長の瞳孔を持った金銀妖瞳があらわになった。


 魔法少女“マジカルハート・マギフラワー”となったアマネは、バッグを背負い直して走り出した。


 瓦礫の上を跳ぶように走る。スーツを覆うナノマシンによるパワーアシスト機能のために、息も上がらずに走り続けられるのが幸いだった。




ーー早く、もっと速く!




 地を蹴るごとに加速をつけながら、マギフラワーは瓦礫の道を東に駆けた。




 オールド・チュウオー・ライン沿いの休憩所跡で、紅い装甲の雷電と青灰色のミュータントが殴りあっていた。


 血みどろのひび割れた拳と、炎を纏う拳が撃ちあう。先程まで雷電が押される一方だったが、“ファイアパワーフォーム”に変身すると両者の力は拮抗した。互いに打撃を受け合うこと数合、天秤は雷電に傾きはじめていた。


「ウラァ!」


 雷電の拳が“26号”を撃つと、溢れだした炎が草を焼く。高熱の打撃にミュータントは呻くが、体勢を立て直して殴り返した。


「ああああああああ!」


「シュッ!」


 メタリックレッドの腕甲がミュータントの拳を弾く。“26号”の打撃は少しずつ精彩を欠いていた。傷だらけの獣は追撃を諦め、距離を取って吼えた。


「あおおおおおおお!」


 日が傾きはじめている。絶え間ない激痛に苛まれながら、狂える獣は崩れはじめた体を突き動かしているのだった。筋肉は更に腫れ上がる。青灰色の皮膚は裂け目を拡げ、全身から血が滲み出ていた。


「アマネはまだ来ないのか!」


「ああああああああああ!」


 ”26号“は激しく吼えて突っ込んできた。体重をのせた体当たりに雷電は吹っ飛び、駐車場の端まで転がって受け身を取った。


「おおおおおおおん!」


 ミュータントは体勢を崩しながら雷電を追いかける。雷電も立ち上がり、右の拳を顔面に叩き込むと、青灰色の獣は仰向けに吹っ飛んだ。


 すぐに立ち上がろうとするが、“26号”は膝から崩れ落ちる。


「う、うううう、あああああああああああ!」


 ミュータントは唸り、雷電に吼えたてた。


「丸いの、もうじき日が暮れる! これ以上はこいつの体が持たないぞ!」


 身構えながら雷電が言う。火を避けて塀の上にのぼっていたドットがぴょん、と跳ねた。


「とにかく、彼の動きを止めるんだ! 必殺技の充電はできてるよ!」


「よし!」


 立ち上がった“26号”がよろめく体を投げ出すようにして駆ける。雷電は両足を踏ん張って、鬼気迫る獣に正対した。


「発動キーは“ファイヤーボルト”だ。右手から、一発しか撃てないから、気をつけて!」


「了解だ! “一撃で充分だ、決めるぜ”!」


 自動発話の決め台詞が口から出た後、雷電は右腕を引き絞ってすかさず叫んだ。


「“ファイヤーボルト”!」


「『Fire Volt』」


 ベルトの人工音声が応えると、右腕の腕甲が展開して排熱孔が露出した。全身のラインが白く輝き、吐き出された熱気が陽炎となってちらつく。雷電は右腕を振り抜いた。




 放たれた拳は炎雷を纏い、渾身の力で飛びかかってきた獣の右拳を砕いた。ミュータントはもう一方の腕で我が身を庇うが、炎雷は左腕も貫いて獣を吹き飛ばす。


「『……Discharged!』」


 ベルトの音声がバッテリーの放電を伝える。雷電のメタリックレッドの装甲から白い煙が細く、幾筋も立ちのぼった。


(続)

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