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サンダーボルト ブレイク ストーム;14

 沖から吹きつける暴風に煽られながら、大型バイクが宙を舞う。浮遊感と、黒い車体を覆う光の粒子。


「行ケェエエエエエ!」


 ツイン・エンジンが唸り、激しいドラムロールを奏でる。光の粒子が飛び散った後、バイクはメタリック・ブルーの装甲に包まれていた。機体下方に仕込まれたジェット・エンジンが起動すると青い装甲バイクは落下速度を徐々に落とし、やがて水飛沫を噴き上げながら海面に降り立った。

 白く尖る波を浴びながら、機上の“アトミック雷電”は沖合を見やる。重く垂れる黒雲の、隙間を縫って走る稲妻。紫がかった電光に照らされて浮かび上がる、武装船団のシルエット。

 ヘルメットの内側から、ナイチンゲールの声が話しかけてくる。


「『装甲バイク“スプラッシュパフィン”に追加搭載した予備バッテリー4基、正常に稼働しています』」


 バッテリーを沿岸の工場からくすね……借りることができてよかった。これだけあれば補給が無くても、海の上で思うまま暴れられるというものだ。


「『現在充電率、累計495%。敵艦隊は現在、機雷海域に接近中……侵入しました!』」


 轟音とともに、海を割ったかのような勢いで立ち上がる水柱。


「『マスター、今です!』」


「ヨシ。……オオオオオオ!」


 雷電は装甲バイクのアクセルを解き放つ。バイク後方のジェット・エンジンが火を吹いた。

 装甲バイク・“スプラッシュパフィン”は荒波を切り裂いて走り出す。ホバー移動の水上バイクはぐんぐんと加速をつけ、とうとうメタリック・ブルーの弾丸のように飛び出した。




 トバ・プラント・サイトに向けて海を行く武装船団。ミサイル艇4隻、駆逐艦2隻という構成は文明崩壊後の時代においてはまぎれもなく大編成と言える。それは一つの町を一夜にして、跡形もなく消し去ってやろうという“ブラフマー”加盟各社の意志の表れであり……また、この任務は容易く達成できるだろう、という乗員たちの自信にもなっていた。

 実際に、オーサカ・セントラル・サイト外縁部の拠点から出港して以来、ミュータントたちが仕掛けていた自動防衛設備をいずれも容易く打ち倒してきたのだから。


 艦隊を先導してきた“旗艦”、テンノウジ級駆逐艦“サウス”のブリッジ。艦長はもはや肉眼で捉えられる程に接近したトバ・プラント・サイトの町並みを双眼鏡越しに眺めた後、満足そうに「ふむ」とため息をついた。


「通信士、艦対地ミサイルが射程圏内に入るまでの所要時間は?」


 視線も向けずに言葉を投げると、コンソールを睨みながらヘッドセットで通話していた航海士が顔を上げた。


「ミサイル艇船隊、一番艇の作戦開始まで約150秒です!」


「よろしい。……本部隊は間もなく、地上攻撃作戦を開始する!」


 艦長はブリッジクルー一同に向けて声を張り上げる。


「だがその前に、周辺海域に敵側の防衛装置が展開している可能性が高い。本艦、並びにもう一隻のテンノウジ級“ノース”の任務はミサイル艇船隊の護衛であり、敵側が仕掛けた機雷群の掃海、並びに自動機銃ブイの掃討である」


「この海域に配備されているのはどちらも、我が社が開発した物です。廉価モデルの上に数世代前のものですから、テンノウジ級駆逐艦なら大した脅威にはならないかと思いますけどね! ま、詳しくは皆さんのコンソールにお送りしたカタログデータをご参照ください! 一緒に、最新モデルのカタログもお送りしていますので、ご入用の際には是非ウチにご注文いただければ、と……」


「私語を慎みたまえ! 貴殿は企業から派遣された監査員ではあるが……それと同時に、この船においては何の役職も持たない乗組員に過ぎぬということを自覚することだ!」


 得々とまくし立てる兵器メーカーのエージェントに、艦長がぴしゃりと一喝した。エージェントの男は肩をすくめた後、嫌みたらしい身振りで敬礼した。


「了解しました艦長」


「よろしい。それではソナー班、機雷の索敵と掃海作業を続けろ。航海士、これより本艦は機雷源を進み、後続するミサイル艇の安全を確保する。万全を期して操舵を取れ! 戦闘班は銃座に就き、自動機銃ブイへの警戒を……」


 艦長の命令を遮るかのような轟音。船が向かう先の海面が小山のように盛り上がったかと思うと、極太の水柱が海中から噴きあがった。水中を走る衝撃波に、艦が大きく揺れる。ソナーのオペレートを担当していた男が、コンソール画面を見ながら叫んだ。


「爆発です!」


「わかっているそんな事は! 何の爆発だ! 機雷か?」


「いてて……あり得ない、爆発が大きすぎる……! ウチが売った機雷の威力じゃないですよ!」


 衝撃波に吹っ飛ばされ、床を転がっていたエージェントが腰をさすりながら言う。


「武器屋は黙っていろ! ……ソナー班、海中の反応は?」


「爆発の原因は不明です。機雷にしては反応が遠すぎて……」


 艦長の命令を受け、ソナー係がためらいがちに答える。


「けど、この爆発の仕方は、機雷の他には説明が……」


「だとしたら、敵側は我々が把握していない兵器を運用しているということか? ……クソ、ぬかった! 戦闘班、第一種戦闘配置につけ!」


 艦長が叫ぶ。船員たちが慌ただしく動き始めた時、目の前から飛んできた青色の矢がブリッジの真横を横切り、船尾方向へと駆け抜けていった。


「何だ、今のは……?」


 後方から轟く爆音。先ほどよりも、更に大きな衝撃。


「うわあああ!」


 やっと立ち上がった矢先、再び床を転がるエージェント。艦長も吹き飛ばされそうになりながらも、座席にかじりついて踏みとどまった。


「機雷か? ……ソナー班!」


「いえ、違います! これは……」


 状況を分析していたソナー係が、声を震わせながら告げる。


「後続のミサイル艇、一番艦が突然爆発……轟沈しました!」


「何?」


「映像、出ます……!」


 ブリッジ内のスクリーンに大写しになったのは、駆逐艦の照明に照らし出された、ミサイル艇の残骸が漂う海原だった。


「何だ、あれは……?」


 艦長が信じられないものを見たかのように呟く。

 斜めに降りしきる雨の中。海原に浮かぶ一際大きな残骸の上に、異様な風貌の人影が、一つ。クローム・イエローに輝く装甲を纏い、全身を走るラインは鮮血のように赤い。


「まさか、アレが……!」


 おそるべき戦士は装甲から赤黒い電光を迸らせながら、嵐の海上に悠然と立っていたのだった。


(続)

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