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サンダーボルト ブレイク ストーム;13

「レンジさん……」


 アカメ青年は携帯端末をポケットに仕舞いこむと、助けを求めるようにレンジを見やる。


「声がデカいせいで筒抜けだったよ。あの感じだと、何かやるつもりだろうな」


「僕は、どうすればいいんでしょうか……」


「それは、俺にはわからない」


「そんな……」


 レンジがあっさりと言い切ると、青年は頭を抱える。力なくうめくアカメにレンジは怒るでもなく、淡々と言葉を投げた。


「この町のことは、あんたがやらなきゃいけない。自分のためにも、子どもたちの“ストライカー雷電”でいるためにも、な」


「けど、僕にはそんな力は……」


「アカメさん、これ!」


 いつの間に持ってきていたのか、アマネは守衛室に置かれていたカゴを、ニコニコしながら青年に向かって突き出した。慌てて受け取るアカメ。


「おっと、っと……!」


「さっき、あんたは自分の事を偽物だと言ったが……それでも、この町の子ども達の“ストライカー雷電”はあんたなんだぜ」


「そう! だから、自信をもって、ね!」


「レンジさん、アマネさん……」


 カゴの中には“ストライカー雷電”の装甲が詰め込まれ、照明灯に照らされて銀色の光を放っている。


「外から来る“ブラフマー”は、俺が何とかする」


「わかりました。僕も、自分にできることを……! 行ってきます!」


 青年は手作りの“ストライカー雷電”が入ったカゴを抱えると、決意をこめて答えた。 顔を上げ、胸を張って、青年は勢いよく食堂の扉を開け……次の部屋で眠っている子どもたちの存在に気づいて、そうっと部屋の中に入っていく。 扉が閉じられると、青年の後ろ姿を見送っていたアマネが振り向いた。


「よかったね、レンジ君」


「ああ。これで……」


 窓の外に動く物の気配を感じて、レンジが視線を向ける。ピンク色の小さな光がゆらめく尾を引きながら、弧を描いて窓の周囲を漂っているのが見えた。光は数回、円を描いた後で窓枠の外に消えていく。


「……よし」


「レンジ君?」


 不思議そうにしているアマネに呼びかけられ、レンジは視線を戻す。


「いや、なんでもない。それじゃあ、俺はブラフマーの連中を何とかしてくるよ。アマネは、子どもたちを……」


「任せて!」


 親指を立て、白い歯を見せるアマネ。


「すまない、助かるよ」


「お礼なんて、言わなくていいよ。レンジ君も、アカメさんも、2人とも自分のできることをしに行くんでしょう?」


 申し訳なさそうに言うレンジに、アマネは胸を張ってみせる。


「それに、私の“役目”はもっと後だから、ね!」


「わかった。その時には、よろしく頼むよ巡回判事殿。……行ってくる」


 小さく笑って、レンジも食堂を出ていく。部屋の中が静まり返ると、アマネはソファの上で眠るアキとリンにふわりとタオルケットをかぶせた。そして、テーブルの上で沈黙を保っているぬいぐるみドローンを見やる。


「……マダラ、お待たせ」


「全くだよ! 三人とも、途中からオレのこと、すっかり忘れてたろ?」


 オレンジ色の毬のようにぽよん、ぽよんと弾みながら、抗議の声をあげるぬいぐるみ。アマネはぬいぐるみドローンの頭部を掴むと、テーブルにぐいと抑えつける。


「むぎゅう!」


「静かに、アキ君とリンちゃんが寝てるんだから」


「それはウカツだった。ごめん、ごめん……」


 ぬいぐるみドローンが小声で謝ると、アマネはそっと手を離す。


「まったく……それで、事情はわかった?」


「話を聞かせてもらったおかげで、なんとなく、ね。敵は“ブラフマー”と、その町のトップ。レンジがブラフマー、アカメさんが町のトップのとこに行っていて、アマネは子守りの留守番……ってことでいいよね?」


「まあ、大筋ではね。でも、私には他に、大事な仕事があるんです」


「大事な仕事だって?」


 怪訝そうな声で訊き返す、ドローンのオペレーター。アマネは気にしていない風で、ポケットから通話端末機を取り出して見せた。


「ドローンの広域通信ルーター、借りるよ」


「いいけど、どこにデンワするつもりなのさ?」


 滝アマネ巡回判事は、通話端末を操作しながらニヤリと笑う。


「忘れたの? 巡回判事は、ナゴヤ・セントラル保安局直属で……ちょっと偉いポジションにいる、ってこと」




 日没とともに降り始めた雨は、夜が更けるにつれて勢いを増していった。

 住民の避難が終わった後、取り残された灰色の工場建屋から漏れだす白い光が、黒々とした空から降り続ける雨を照らしている。

 雨粒は海から吹き寄せる風に煽られ、勢いよく工場群に打ちつけた。地下鉄道の終着駅も、路地も、工場の町並みも雨に打たれ、街灯の光でぼんやりと霞んでいる。

 海岸沿いに立った工場の一つ、一際背の高い建屋の上に、鈍い銀色の装甲を纏った人影。真っ黒な大型バイクに跨り、波が荒れ狂う夜の海を見つけていた。


「マスター、指示を受けていた作業が終わりました」


 海風に乗って飛んできたピンク色の光が、レンジの前にふわりと舞い降りた。左手を差し伸べると、光の球は掌の上に着地する。それは白磁色の装甲を備えた、機械仕掛けの小鳥だった。


「ありがとう、手間をかけたなナイチンゲール」


 機械仕掛けの小鳥はレンジの言葉を聞いて、ぴりり、ぴりりとさえずるような電子音をあげる。


「全くです。通信障害のせいでマスターとはぐれてしまい、必死に追いかけて、ようやく追いついたと思った途端、次の仕事をするようにと言われるのですから」


「もしかして、怒ってる?」


「怒ってません。疑似人格型1.5世代人工知能には、感情を出力する機能は搭載されていません」


 ぴしゃりと言い放つナイチンゲール。


「そうかなあ。まあいいか」


 レンジはそれ以上、追及することを諦めた。


「さて、それじゃあ……」


 海の向こうを見やる。ヘルメットの暗視スコープ機能を展開すると、嵐に煙り、荒波に揉まれる沖合に、船の影がいくつも集まっているのが見えた。


「行くとするか」


「かしこまりました」


 白磁の小鳥が翼を広げる。装甲スーツの手首を抱きしめるように翼を添わせると、白磁色の装甲はまばゆい光に包まれた。光が粒子になって消え去った後、ナイチンゲールは白い腕輪に姿を転じていた。 レンジは、ベルトのバックルにつけられているレバーに右手を置く。


「今夜は、俺たちはストライカー雷電じゃない……」


「『了解。といっても、マスターから指示された通り、外見を変更しただけですが』」


「それが大事な時だってある、ってことだ」


 ヘルメットのインカムから聞こえてくるナイチンゲールの声。レンジは軽口で言い返すと、変身ベルト“ライトニングドライバー”のレバーを引き上げた。


「姿を借りるぜ、ドクトル無玄! ……“臨界”!」


「『DANGER! Counting down!』」


 普段と違う音声コマンド。拳を叩きこむようにしてレバーを引き下げると、ナイチンゲールが、エフェクトをかけた音声で応える。激しくひずんだエレキギターの旋律が嵐を裂き、立体音響で響き渡った。


「『THREE……TWO……ONE……CRITICAL!』」


 装甲スーツを走り、闇の中に放たれる赤い稲妻。ハード・ロックのクライマックスと共に電光が散ると、雷電スーツはクローム・イエローの装甲に包まれていた。全身に走るラインとヘルメットのバイザーが、鮮血のように赤い光を放つ。


「『”ATOMIC Rai-Den”……starting up!』」


 エフェクトの効いたナイチンゲールの声が、“もう一人の雷電”の変身を高らかに宣言した。


「ヨシ、行クゼ! ……ウオオオオオオ!」


 レンジ……アトミック雷電はボイスチェンジャーによってひずんだ声で叫ぶと、バイクのエンジンを吹かす。そして海をめがけてフルスロットルで、工場の屋根の上から飛び出した。


(続)

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