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サンダーボルト ブレイク ストーム;9

「挟まれてるよ、雷電!」


「わかってるさ……口を開けるな、舌を噛むぞ!」


 増援を呼んだのだろう、次々と現れる警備員たち。数を頼みに、狭い路地の中に突っ込もうとする……前に、雷電の装甲バイクが力強く唸った。車体がゴム毬のように、数回跳ねる。


「オラアッ!」


 叫び声とともに、バイクごと高く跳びあがった。装甲バイクは警備員たちの頭上を抜けると工場建屋の上に乗り上げた。

 屋根に貼られた板を踏みつぶし、破片をめくり上げながら疾走する、鈍い銀色の鉄馬。必死に口を閉じたアマネが目を白黒させながら「ヴヴヴ……!」と口の中で変な音を出して唸っている。激しい音を立てる屋根を、おろおろと見上げる警備員たち。


「飛び降りるぞ! ウオオオオ!」


 装甲バイクは火花を散らしながら建屋の上を突っ走ると、屋根から飛び出した。重苦しい雲がのしかかってくるような空の下、銀色の機体は緩やかな放物線を描きながら地上に落ちていく。


「……ラアッ!」


 雷電は装甲スーツのパワーアシストを目一杯稼働させ、ハンドルを引き抜かんばかりに引っ張り上げた。空中でふわりと浮かび上がる車体!

 時が固まりついたかと思う一瞬。目撃者の目にも、同乗者の目にも、そしてライダー自身の目にも全てがスローモーションのコマ送りに展開していく世界の中で、ウイリーになった後輪がアスファルトに食らいついた。

 着地の衝撃とともに、飛び散るアスファルトの細片。煙のような砂埃があがる中、二輪走行に戻った装甲バイクは弾丸のように走り出す。


「はーっ! はーっ! 死ぬかと思った!」


 息を止めていたアマネが、激しく呼吸しながら叫ぶ。


「ああ。けど、まだだ。こうも数が多いと……!」


 装甲バイクは稲妻のように曲がりくねりながら、灰色の町の路地を駆け抜けていく。積まれた箱を突き崩し、ゴミ箱を吹っ飛ばして。

 目まぐるしく走るバイクのハンドルを握りながら、雷電が後部座席に呼びかけた。


「アマネ、無線は?」


「やっぱりダメ、さっきと同じ!」


「参ったな、これじゃアキとリンの居場所もわからない……クソッ、危ないっ!」


 目の前の曲がり角から、不意に現れる警備員。相手もまさか、こんなところで侵入者と出くわすと思っていなかった様子で固まりついている。ヘルメットの隙間からはみ出した、四本の触角だけがピクピクと細かく動いていた。


「あっ、あ……!」


 目を丸くして突っ込んでくるバイクを見つめ、ぽかんと開いた口から間の抜けた声を出す警備員。雷電はハンドルを抑え込みながら斬りこんで、車体をうねらせるように急旋回した。


「オオオオオ!」


 火花を散らしながら回転するタイヤ。姿勢を崩しながらも猛然と突っ込む装甲バイクは、警備員のプロテクターを僅かに掠めて走り抜ける。


「ぎゃっ!」


 吹っ飛ばされた警備員が叫び声をあげた。雷電は暴れる車体を押さえつけながら路地を走り続ける。


「クソ、やっちまったか!」


「大丈夫、大したことない!」


 後ろを振り返ったアマネは、よろめきながら起き上がる警備員の姿を見て声を上げた。警備員は何やら喚き声をあげると、ホイッスルを咥えて思い切り吹き鳴らす。


「そんなことより早く逃げないと、人が来ちゃうよ!」


「いくらでも来やがるなあ!」


 狭い路地を抜けだして大通りに飛び出す。工場の町の中心街から少し外れたのか、ひとまず追っ手の姿は見当たらないが……追いかけてくるのは時間の問題だろう。


「さて、どこに逃げるべきか……」


「ストライカー雷電!」


 呼びかける声に、レンジはハッとして振り返った。立てかけられた搬送用パレットの後ろから、ツナギ姿の青年が顔を出している。彼もミュータントだった。赤い両目が、不安そうにストライカー雷電に向けられていた。走り回っていたのだろう、青年は激しく息を吐きながら、ほっと表情を緩める。


「よかった、追いついた!」


「何だ、あんたは?」


「あなたが探している子どもたちを、保護している者です」


「何ッ!」


 青年の発言に、レンジの首筋がひりついた。人質だと! 何を知っている? ブラフか? それとも……?

 遠くから足音や、人々が何やら言い合う声が聞こえてくる。目の前の相手が臨戦態勢に入った事にも気づかないまま、アカメ青年は慌てて周囲を見回した。


「そんなことより、警備員たちが来ます! 案内しますから、こちらに! 早く!」


「くっ……!」


「行ってみよう、雷電」


 レンジとアマネは青年の気迫に押されて、裏路地に消えていく彼の背中を追った。




 再び静かになった工場長室。工場長は5つの目玉を小刻みに動かしながら、卓上端末機に向かい合っていた。頭の中では、先ほど追い出した息子の声が、反響しながらグルグルとループしている。


「チクショウ、どいつもこいつもコケにしやがって! 俺にだって何か……何か、できることが……!」


 住民たちをメインプラントの地下室に避難させる……地下室がシェルターとしては脆弱すぎる、再避難にかかる時間を考えるとコストの方が大きすぎる。カット。

 地図を改めて見回すことで、町の外につながる旧時代のトンネルが……そんなものがあれば、はじめから苦労はしない。カット。

 ナゴヤから来る捜査官たちに協力を要請して、一緒に“ブラフマー”を追い払う……ナゴヤの保安部が味方になる保証はないし、それで武装船団を撃退できるだけの戦力を確保するのは不可能に近い。カット。

 上手くいく見込みはないが、こうなったら、海上ブイに設置している自衛装置で……


 殊更に不安を煽りたてるような、物々しいアラート。


 “自動警戒装置、不許可船舶の接近を確認。監視体制に入りました”

 “不許可船舶、海上警戒網第5層を通過しました。これより防衛体制に移行します”

 “海上警戒網第4層、臨戦態勢に移行しました。接敵まで約1200秒”


 端末機の画面に、次々とオレンジ色のウインドウが飛び出す。オーサカ方面から南下してきた“ブラフマー”の武装船団は半島の突端を通過して北上、少しずつ町に近づきつつあるようだった。

 とてもじゃないが、大したカネをかけたわけでもない自衛装置だけで、なんとかなるなどとは思えなかった。工場長は自らの頭に手を置く。


「ちくしょう、ちくしょう! どうすりゃいいってんだ!」


 町への攻撃が始まるまで、まだ、まだ時間はあるはずだ。しかし、どうすれば……。

 頭を掻きむしり、机に拳を叩きつける。


「俺の町だぞ! 俺が育てて、守ってきた町だ! 何で! 何で真人間どもに、こうも簡単にメチャクチャにされなければならんのだ!」


 卓上の通話端末に目がとまる。

 防衛装置の内側まで入って来たのなら、広域通話回線が開くはずだ。相手が、取引に乗る保証はないが……


 自動防衛装置の奮戦を伝えるアラートが、工場長室の中に鳴り響いている。卓上端末の画面に、緊急事態を告げる赤色のウインドウが次々と飛び出した。


 “海上警戒網第4層、損害50%……75%……機能停止!”

 “不許可船舶、海上警戒網第3層を突破しました!”

 “海上警戒網第3層、接敵まで約600秒!”

 “不許可船舶を侵入者と認定”

 “最大限の警戒を:拠点への破壊行為・侵略行為に及ぶ恐れがあります。”


「あああああ!」


 工場長は両手をテーブルに叩きつけた。乾いた音を立てて飛び跳ね、床に転がる通話端末。


「ちくしょう、ちくしょう……!」


 男は顔を上げると、卓上端末機に手を伸ばした。緊急アナウンスの発信プログラムを停止させると、通話端末を手に取った。5つの目を吊り上げながら素早く操作して、通話回線を開く。


「モシモシ、こちらトバ・プラント・サイト。応答願う。……モシモシ!」


 呼びかけた相手は、町に近づきつつある武装船団の一つ。先ほどまで工場長を散々せせら笑った、“ブラフマー”のエージェントが所属する兵器メーカーだった。


(続)

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