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サンダーボルト ブレイク ストーム;8

「『クソッ、ここじゃなかったか!』」


 鈍い銀色の装甲スーツを着たライダーが叫ぶと、バイクは再び猛烈な爆音をあげた。フロントタイヤが床板を削りながら急旋回し、装甲バイクはあらゆるものを吹き飛ばしながら走り去っていく。


「『わっ、このっ! ……侵入者だ! 捕まえろ!』」


 卓上端末の画面には、めちゃくちゃに破壊された室内の映像が映し出されていた。駅員がわめく声が聞こえてくる。惨状を目の当たりにした工場長は、端末機のマイクに向けて怒鳴った。


「全ての出口を封鎖しろ! 駅員総出で侵入者を捕まえるんだ! さっさと動け、このボンクラどもめ! 取り逃がしたら減給だぞ、分かってるんだろうな!」


「『ひいい……! 了解しました、すぐに!』」


 慌てふためき、情けない声をあげて応える駅員。机の陰から這い出ると、大急ぎでデスクトップ端末機に手を伸ばした。“緊急事態コマンド”を入力しながら、備え付けられたマイクに向かって声を張り上げる。


「『緊急事態、緊急事態! 銀色のバイクに乗った二人組が、駅内部に侵入しています! 駅員の皆さん、なんとしても捕まえてください! これは訓練ではありません! ……繰り返します。銀色のバイクに乗った二人組が……』」


 駅員全員に呼びかけるアナウンスを背景に、端末機の画面が切り替わっていく。駅内各所に設置されたカメラの視界が現れ、そして次のカメラへ。

 いくつかのカメラは、銀色の装甲バイクが走り去っていくのを捉えていた。そしてバイクに弾き飛ばされ、床に転がっている駅員たち……


「『事務室前、突破されました! 貨物搬出口の防衛に成功! しかし負傷者多数……!』」


 連絡員が被害状況を読み上げていく。画面越しに惨状を見ていた工場長は、両手をきつく握りこんでいた。


「『工場長、申し訳ありません、侵入者を抑え込めません! このままでは……』」


「黙れ! 死ぬ気でやれ、死ぬ気で!」


 拳をテーブルに叩きつける。端末機のマイクが怒声と打撃音を拾いあげ、画面の向こうにいた連絡員は「ひっ!」と悲鳴をあげた。


「『そ、そんな! む、無理です……!』」


「市内にはこちらから警報を鳴らして避難命令を出す。貴様らは、自分の持ち場で最善を尽くせと言っているんだ!」


「『わ、わかりました! 自分も、行ってきます!』」


 状況報告していた駅員も慌てて飛び出していく。無言のまま切り替わっていく画面を見ながら、工場長は不機嫌そうにため息をついた。


「ああ、クソったれどもめ!」


 毒づきながら卓上端末機を操作する。相変わらず混乱し続けている駅内部の映像を画面の遠景に置くと、市内にアナウンスを流すためのアプリケーションを立ち上げた。息子の顔みることもなく、男は端末の操作を続けた。


「念のため、全部のゲートを封鎖だ。連中を町の外に逃がすわけにはいかん。……チクショウめ、“ブラフマー”で手一杯だというのに、ナゴヤからも厄介な連中が来るだなんてな!」


 苛立ちながら端末機の操作を続ける工場長。叩きつけるようにキーを打つと、けたたましいアラームの音が響き渡った。そこかしこのスピーカから。


「『従業員の皆さん、緊急避難命令です。先ほど工場敷地内に、2人組の不審人物が侵入しました。不審人物らは武装しており、大変危険です。一般従業員並びにその家族の皆さんは速やかに体育館に避難してください。警備部員は速やかに体育館の警備、並びに不審人物の逮捕に回ってください。繰り返します……』」


「……これでよし」


 人工音声による緊急アナウンスがあらゆる無線回線に流れていることを確認すると、工場長は「ふう」とため息をついた。そして、駅内部の映像に釘付けになっているアカメをじろりと睨む。


「それで、お前はいつまでそこで突っ立っているつもりだ」


「えっ」


「お前も早く、避難誘導に回れ! 状況はわかっているはずだ。ブラフマーの連中が来る。おまけにナゴヤの保安部からも、やっかいな連中が来やがった!」


「でも、避難したって……」


「それでも、何もしないまま殺されるよりも、少しはマシだ!」


 青年の目に映る、銀色の装甲スーツ。モニターの中のバイクはついに非常扉にぶち当たり、ドアを吹き飛ばして駅の外に飛び出していった。


「いや、でも、地下鉄道を通ってナゴヤから来た、あの人たちは……」


「なんだ、あの銀色のスーツの……?」


 アカメはツナギ上から、自らの太腿を握りしめる。手汗が滲み、触れたところにジンジンと熱が帯びるような感覚があった。


「あの人たちは、僕たちの味方になってくれるかもしれない……!」


「はあ? あんな珍妙な恰好をして、バイクで暴れまわってる連中がか? ……いや、待てよ、あの恰好……ああ!」


 工場長は息子の発言に呆れ、少し考えた後、ポンと手を叩く。


「お前が遊んでた、ヒーロー何とかだな! ハハハ! 確かにヒーローなら、死にそうになっている俺たちを助けてくれるかもしれん。ハハ、ハハハハ……」


 軽薄な調子で笑った後、工場長は5つの目を剥いて息子に凄んだ。


「いつまでくだらないことを言っている! ヒーローなんていない、連中はただの犯罪者だ! わかったら、とっとと貴様の仕事をしに行け!」


 青年は俯いて、無言のまま工場長室を後にした。




 地下鉄道の駅を脱出した後、灰色の町並みを走る銀色の装甲バイク。


「『先ほど工場敷地内に、2人組の不審人物が侵入しました。不審人物らは武装しており、大変危険です。一般従業員並びにその家族の皆さんは……』」


 街中のあらゆるスピーカから、人工音声によって避難を命ずるアナウンスが流され続けている。インカムからも同様のアナウンスが延々と流れてくる。

 装甲バイクは隠れるように工場建屋の隙間に飛び込み、裏路地で停まった。


「おおい、アキ、リン、どこにいるんだ? ……クソッ、通じない! おい、マダラは? ……ダメか!」


 雷電スーツをまとったままのレンジが、ヘルメットの中のインカムに呼びかけるが返答はない。通話回線のチャンネルを手動で切り替えてみても、流れてくるアナウンスは同じだった。


「『警備部員は速やかに体育館の警備、並びに不審人物の逮捕に回ってください。繰り返します。従業員の皆さん、緊急避難命令です……』」


「ダメだ、どのチャンネルも反応は同じだ」


「私の方も一緒!」


 バイクの後部座席に陣取り、同じくインカムのチャンネルを手動でいじっていたアマネが、“お手上げ”というように両手を上げて言う。


「レンジ君、どうなってんのコレ?」


「俺にも分からない。こういうことはマダラの仕事だしなあ。……でも、どのチャンネルでも同じようなことが起きてるってことは、この避難命令を全部のチャンネルが拾うようにしてる、ってことかも」


「私たちの通話回線も乗っ取られちゃった、ってこと?」


「そうなるな」


「それじゃあ、無線を使ってアキ君とリンちゃんの居場所を探す作戦はできなくなったんじゃ……?」


「このままだとな」


 レンジの言葉に、ヘルメットの中のアマネの顔が青くなる。


「ど、どうしようレンジ君! 早く2人を見つけなきゃいけないのに! ねえ、レンジ君! 何でそんなに落ち着いてるの!」


「落ち着いてるわけじゃないさ」


 アマネから責められても、レンジは動じる様子はなかった。少ない動きで周囲を見回す。雷電スーツに搭載された集音センサが、周囲の物音をマッピングしてバイザーに表示している。


 落ち着いているのではない、落ち着けているのだ。素早く判断できるように、いつでも動けるように。


 集音センサに頼るまでもなく、先ほどから、周囲に隠れながらバイクを取り囲む人の気配があった。不安、敵意。追い詰められた草食獣のような、我武者羅な攻撃性……


「あいつらのことも何とかしなきゃいけないけど、今は……っ!」


 四方から石が飛んでくる。雷電はバイクの前輪を持ち上げ、ウイリーのまま急旋回させて礫を弾き飛ばした。


「きゃっ!」


「しっかりつかまってろ!」


 短い悲鳴をあげるアマネに告げると、装甲バイクは猛然と走り出した。


「何? 何が起きてるの?」


「わからん、でも、さっきの連中と同じだ! ……クソ、囲まれたか!」


 タクティカルベストと警棒で武装したミュータントの警備員たちが物陰からぞろぞろと現れる。

 隊列を組んだ警備員たちは狭い路地の左右を封鎖して、雷電とアマネの乗る装甲バイクを取り囲んだ。


(続)

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