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特別編 劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー:16(エピローグ)

闘いが終わり、町には子どもたちの声が響く。


「文明崩壊した世界でヒーローたちが頑張る話」、特別編はこれにて完結です!

「“Sunlight Saber”」


 レンジの叫びに、ナイチンゲールの声が応える。“ソーラーカリバー”の刀身が一際強い光を放ち、アトミック雷電の変身ベルトを両断していた。


「コ……コレ、ハ……!」


「『D,D……DDDDDDDDANGERRRRRRRRRRRRR!』」


 真っ二つになった“リアクタードライバー”から火花が散り、ノイズの混じった人工音声が悲鳴をあげる。


「『雷電、もうダメだ、ベルトが……!』」


 アトミック雷電の全身に走っていた赤い光がベルトに収束した。爆発を予感したマダラが叫び声を上げた時、雷電は光を失った大剣を放り捨てて動き出していた。


「『何をする気だ!』」


 確信があるわけではない。けど、今、自分が取ることができる選択肢は、これしかない!


「オオオオオ!」


 肩装甲に固定していた黒いマント……“グランドマントル”を引きちぎるように脱ぐと、“リアクタードライバー”にかぶせ、包み込む。


「オラアアッ!」


 レンジはベルトのバックル部分を引きちぎると、マントに包んだまま地面に押し込むように抑え込んだ。


「『雷電!』」


 ズドン、と太い轟音が響き、衝撃が波となって大地と空気を揺らす。爆炎と爆風のエネルギーは、全て“グランドマントル”が受け止めていた。


「……ふう」


「お見事です、マスター」


 ため息をつき、風呂敷包みのように“グランドマントル”の端を結び合わせるレンジを、ナイチンゲールが労う。


「『やった! 爆発のエネルギーを抑え込んで、汚染物質の飛散も食い止めてる……! よく思いついたなぁ、レンジ!』」


 通信機のインカムからマダラが声をかける。雷電スーツを着たレンジは風呂敷包みをつまみあげ、自分のヘルメットに手を当てた。


「他の選択肢が見つからなかったからな。上手くいくかはわからなかったけど……」


「『ばっちりだよ! これで一件落着、だね!』」


「さて、どうだかな……」


 “アトミック雷電”のスーツからロングコート姿に戻ったドクトル無玄に視線を向ける。長身痩躯の老研究者は両手を広げ、仰向けに倒れて夜空を見上げていた。


「はは、ははは、はっはっはっは……!」


 パワーアシスト・スーツを着て長時間闘い続けた反動から身動きが取れなくなっていたが、ドクトルは楽しそうに笑っている。


「これで満足したかよ、おっさん」


「ああ、ああ!」


 ドクトル無玄は横になったまま、少年のように笑っていた。


「全力を出し切った! もう、指一本も動かせん! これで敵わなかった……それどころか、爆発まで抑え込まれては、私の完敗だ! さすがだな、ストライカー雷電!」


「そりゃあどうも」


 レンジは「はあ……」とため息をついて、ぱちりと指を鳴らす。 森の奥から無人の黒いバイクが飛び出すと、猛烈なスピードで砂埃をあげながら駆けよってきた。雷電は折れた“ソーラーカリバー”を拾い上げると、目の前で停まった愛車に飛び乗った。


「じゃあ、俺は行くよ」


「何だ、私を見逃すのか?」


 雷電は荷物をバイクに括り付けると、ドクトルを見下ろして首をすくめた。


「俺は保安官でも、軍警察でもないからな。そういうことなら適任が……ほら」


 エンジンの音が近づいてくる。“オーツ・ポート・サイト”と大きな文字が書かれたトラックが、黒いバイクの隣に停まった。 トラックから飛び降りてきたスーツ姿の女性はしなやかな手を伸ばしてドクトルの手首をつかむと、素早く手錠をかける。


「ドクトル無玄、あなたを逮捕します」


 にっこりしながら滝アマネ巡回判事が呼びかけると、ドクトル無玄はからからと笑った。


「はははは……!」


「それで、結局ドクトル無玄には逃げられたんだって?」


 そこそこの客入りながら穏やかな空気が流れる、昼下がりのミュータント・バー“止まり木”のカウンター席。 本日の日替わりランチ……カレーソース・ハンバーグ・プレートを前に、タチバナ保安官は模造麦茶のグラスを傾けた。


「ええ。ボディチェックは完璧だった……そうなんですが、手錠やら鉄格子やらの電子ロックが見事に、全て解除されていたそうで……」


 隣に腰かけたメカヘッド巡査曹長が自らの機械頭をコツコツ、と指でつつきながら答える。


「あのドクトル無玄って人は何者なんです? サイバネを仕込んでるとか、ミワ君みたいに、体の中に何かを隠すスペースがある、とか……」


「どうだろうなあ、そんな話は聞いてないが。だが、そんなことしなくても、ヤツなら電子ロックの解除くらい簡単にやるだろうな」


 気にしない様子で答えるタチバナに、メカヘッドは頭を抱えた。


「そういう事は、前もって言ってくださいよ。先輩、ヒギシャと付き合いは長いんでしょう?」


「付き合い“だけ”はなぁ……うん、うまい」


「うふふ、ありがとうございます。いつも通り、ミール・ジェネレータで出力したものですけどね」


 メカヘッドの愚痴を軽く流しながらハンバーグを一口食べたタチバナが、満足そうに声を漏らす。店の奥から出てきたチドリが、微笑みながらグラスに麦茶を注ぎ足した。


「いや、チドリさん、これはいつものじゃあないですな。なんとなくですが……うん、使ってる材料か、栄養素ペレットの質かな……」


 もう一口ハンバーグを食べ、味わいながらタチバナが考え込んでいる。メカヘッドも機械頭の下側パーツを引き下ろすと、開口部にハンバーグを放り込んだ。


「……うーん、俺にはいまいち、分かんないですねえ。先週のチーズハンバーグと、あんまり変わってないような……」


「うふふ、そうですね、基本的なレシピは変わってませんから。でも、そうね……あっ!」


「どうかしたんですか?」


 ニコニコしていた女主人が短い声をあげると、メカヘッドは慌てて立ち上がりかけた。チドリは恥ずかしそうに微笑んで、巡査曹長を座らせる。


「いえ、いえ、お気になさらず! そんな、大したことではないんです。ただ、ペレットを卸してもらっている会津商会さんのところで……今朝から、ペレットを作るためのジェネレータの調子がいいと、番頭さんが話してらっしゃったのを思い出して……。さすがタチバナさん、よくお分かりになるんですね」


「いやあ、なんとなくですよ」


 話を聞いていたメカヘッドは「ああ……!」と何かをひらめいたようで声をあげる。


「そういえば、カガミハラの都市ネットワークが今朝から妙にスムーズだって、電子セキュリティの管理者が言ってましたよ、“ちょっと、信じられないくらいだ”って。もしかして……」


「ああ、これは間違いないだろう。ドクトル無玄の仕業だろうな」


 メカヘッドはため息をつくと、模造麦茶を機械頭の中に流し込んだ。


「はあ……罪滅ぼしのつもり、なんですかねぇ。脱走した上にあちこちに不法侵入されたら、こっちのメンツが……反省しているなら、それはそれで良いことなんでしょうけど……」


「どうだろうなあ。大方、遊びに付き合ってくれた礼をしてるだけのつもりだろうよ」


 タチバナは模造麦茶のグラスをくゆらせる。カラン、と氷が音を立てた。


「そう簡単に反省するような“タマ”じゃないよ、あいつは……」


「その方の事、よくご存じなんですね」


「ええ、まあねえ。色々ありましたから。まだメカヘッドと知り合う前だから……思い返すとずいぶん昔のことになるな……」


 呟くように独り言つタチバナを見て、チドリはカウンターの反対側に座った。


「よかったら、私にもその人のことを教えてもらえません?」


「えっ? まあ、構わんが……面白い話になるかどうか」


「いいえ、いいえ……なんだかタチバナさん、話をしたいようでしたから。その方の事を」


 ミュータントたちが暮らす山あいの村、ナカツガワ・コロニー。春の陽射しが注ぐ中、子どもたちが歓声をあげて走り回っていた。


「ヒーローごっこやろうよ!」


 犬耳のアキが声をあげると、散らばっていた子どもたちが集まってくる。


「じゃあ今日は、オレが雷電やる!」


「ええーっ、嫌だよ! 僕は昨日も我慢したんだから!」


 少年たちがヒーロー役を取り合って小競り合いを始める。呼びかけたアキはニヤニヤしながら、皆のやり取りを見ていた。


「何だよアキ、いつもは真っ先に雷電をやるって言うのに……」


「ふふふ……今日のボクは違うんだぜ!」


 クチバシの生えた少年が不思議そうに声をかけると、アキは胸を張って名乗りを上げた。


「ボクはフォームチェンジしないままの雷電よりもずうっと強い、もう一人の雷電……“アトミック雷電”だ!」


「ええっ、何だよそれ!」


「くそっ、負けないぞ、ならファイアパワーフォームだ! “重装変身”!」


「ぶっぶー! “アトミック雷電”がいる限り、フォームチェンジは出来ないんですぅー!」


「ずるいーっ!」


 子どもたちが一斉に声を上げると、アキは声色を作って笑う。


「ハッハッハー! ソレデモ、本物ノ雷電ハ、コノ“あとみっく雷電”ヲ打チ倒シタのだーっ! オ前タチニ、私ガ倒セルノカナ? ハハハ、ハッハッハッハッハ!」


「なんだとう! くそっ、やっちまえ!」


「『みんなーっ!』」


 もみくちゃになっている男の子たちの耳に、音が割れたメガホンの声が突き刺さる。皆がぴたりと止まって振り返ると、鱗肌のリンがメガホンを持ち、あきれ顔で立っていた。


「『何やってんのよう、みんなして』」


「ヒーローごっこをやろうとしたら、アキがずるい役をやるって言うから……」


 メガホンから飛んでくる大音声に耳をふさぎながら、一つ目の少年がこぼす。


「ずるい役?」


「“アトミック雷電”とか言って、雷電より強いとか」


「雷電はフォームチェンジ禁止とか言ってさぁ」


「そんな奴、いるわけないじゃん!」


 男の子たちの不満を聞いて、リンもニヤリと笑った。


「ふふふ……!」


「リンまで、アキと似たような顔になってる……」


 たじろぐ少年たちに、リンは再びメガホンを向けた。


「『マダラからの伝言よ! “ストライカー雷電”の新作ができたって! 今度の敵は、ストライカー雷電よりもずっと強い、もう一人の雷電! “今からウチのお店でかんせいひろうししゃかいをするから、ぜひ見に来て!” だって!』」


「おおーっ!」


 アナウンスを聞いた子どもたちは口々に歓声をあげ、ランチタイム営業を終えた酒場“白峰酒造”を目指して駆けだす。アキは立ち止まって、先を行くともだちの背中を見ていた。


「ね、アキちゃん、私たちも行こうよ」


「……うん!」


 リンに声をかけられたアキはうなずいて、二人で手をつないで駆け出した。


「無玄のおっちゃんも、見てくれるかな?」


「うん、どこかで見てくれてるよ、きっと!」


 青空の向こうから、ボイスチェンジャーを当てたドクトル無玄の高笑いが聞こえてくるようだった。


(劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー 了)

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