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特別編 劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー:15

闇夜を貫く、一条の光の奔流。


それに宿るは人々の思い。そしてヒーローの背中を押す、最後の一手……!

「何のつもりだよ、そんなところで……?」


 ストライカー雷電がインカム越しに尋ねると、マギセイラーは得意そうに胸を張った。


「『闘いは、こっちでも見せてもらっていたわ。エネルギーが足りないんでしょう? それなら……』」


 魔法少女が乗っていた、白銀のカイジュウ……特大型環境保全ドローン、“メカ・リヴァイアサン”が、名乗りを上げるように大きく吼えた。


「『このメカ・リヴァイアサンのビームを当てれば、エネルギー補給できるんじゃない?』」


「はあ、ビーム? 何をめちゃくちゃなことを……どう思う、マダラ?」


「『え、ええと……純粋な電気エネルギーを光に変換させて、大気中を飛ばす、それも長距離……となったら、ロスが大きすぎるけど、できなくなはない……』」


 あきれたレンジが尋ねると、先に通話回線を開いていたマダラはもごもごしながら答えた。


「『でも、そもそもそんな離れたところから、正確に雷電を狙い撃てるのか……?』」


「『マダラさん!』」


 マギフラワーが開いた通話回線から、可愛らしい声が呼びかける。考えこんでいたマダラは驚いて独り言をやめた。


「『ハゴロモちゃん!』」


「『通信回線の信号からたどった位置情報を使って、メカ・リヴァイアサンの照準を私が手動で合わせます。そのために、マギセイラーさんに海の外に連れてきてもらったんですから……!』」


 マギセイラーが抱えた水球の中を泳ぐ、ヒレの生えた水棲ミュータントの少女……“ハゴロモ”が、メカ・リヴァイアサンの操作端末を手に胸を張った。


「『わかった、やってみよう。オレもサポートするよ』」


「『はい! ……ふふふ、共同作業、ですね!』」


「『ま、まままま、まあ、そうなんだけど……』」


 嬉しそうに話すハゴロモに、マダラがどもりながら答える。レンジは通話回線のなかで繰り広げられるやり取りを聞きながら小さく笑っていた。


「はは、それなら俺も乗るぜ。やってみてくれ!」


――話を聞く限り、アマネの思い付きがうまくいくかはまだ、わからない。でも、皆がなんとかしようと、それぞれの全力で動いている……


 深呼吸をして、全身に意識を向ける。スーツに包まれた四肢は、丸一日闘い続けて痛めつけられ、筋肉や関節が悲鳴をあげていた。

 けれどもまだ、終われないのだ。疲労困憊になっても尚、腹の底から力が湧き上がってくるのを、確かに感じていた。

 ストライカー雷電は、真っ二つに折れた“ソーラーカリバー”の柄を拾い上げて、しっかりと握り込んだ。


「いくぜ、ドクトル無玄!」


「何ヲスルノカ分カランガ、モウ時間ハナイゾ。貴様ニモ、私ニモナ」


 折れた大剣を突きつけられたアトミック雷電は、ひずんだ声で応える。

 ベルトから鳴り続ける警告音は少しずつ頻度を増し、音量も上がっていた。スーツの限界が近づいているのだ。全身を走るラインは明滅を続け、仁王立ちになった全身から赤い火花が散り始めていた。


「何ガデキルトモ思エンガ……トメテミセルガイイ、デキルノナラ……ウオオオオオオ!」


「オオオオオオ!」


 二人の雷電が叫び、同時に走り出す。叩きつけるように振り下ろされた大剣を、ひび割れた拳が打ち返す。アトミック雷電はすぐさま拳を振りかぶった。


「遅イ! 弱イ! ソレデハ、ナニモカモ足リンゾ!」


「そうだろうなあ! 俺もそう思うぜ! ……よっと」


 赤い電光の走る拳を、ストライカー雷電はするりとすり抜ける。飛びのいて距離をとると、再び“ソーラーカリバー”を構えた。アトミック雷電は両の拳をきつく握る。


「グ、グググ……!」


 ドクトル無玄は歯ぎしりしながら唸った。戦闘補助プログラムによって補正を受けた打撃が右から、左からとめどなく降り注ぐ中、レンジはひたすら拳から身をかわし続けた。


「チョコマカト! 何故、マダソコマデ動ケル!」


「俺は変わってない。実際、全身ボロボロだし、スーツの性能はもう限界だ……けど、集中すれば避けることはできるぜ。どれだけ補助プログラムがあっても、使うアンタの動きが単純ならな!」


「アアアアア! フザケルナ、姑息ナ時間稼ギヲおおおおおおおお!」


 歪みが増し、割れた声でアトミック雷電が叫ぶ。ストライカー雷電は動じず、“ソーラーカリバー”を天に向けて掲げていた。


「確かに、俺がやったことはただの時間稼ぎだった……けど!」


「『ストライカー雷電!』」


 インカムから、ハゴロモが呼びかける。バイザーに投影された画面の中で、メカ・リヴァイアサンが大きく口を開いていた。


「『準備できました、いつでもいけます!』」


「よし、やってくれ!」


「『はい……マダラさん!』」


「『ああ、位置データから照準を修正、エネルギー効率の最適化、排熱機構……全てよし!』」


「『イオン・コンバータ、起動します。3……』」


 メカ・リヴァイアサンのセンサーアイと口内から、黄色い光が溢れる。真っ黒な海の中で、巨獣は灯台のように煌々と輝いた。


「クソ、何ヲスル気ダ……!」


「2、1……撃て、メカ・リヴァイアサン!」


 アトミック雷電が駆けだそうとした時、水球の中でハゴロモが叫ぶ。機械カイジュウの口内から一瞬、光が消えたかと思うと、太く眩い光の帯となって、雷電に向かって真っすぐ放たれた。


「グ、コレハ……!」


 海中から丘の上へと突き刺さる光の柱に、ドクトル無玄はたじろいで立ち止まる。光の中央に立つストライカー雷電は、折れた“ソーラーカリバー”にメカ・リヴァイアサンから放たれるビームを受け止めていた。


「うおおお……!」


「『や、やった! 少しずつだけど、充電されていってる……!』」


 雷電スーツをモニターしていたマダラは、驚きながらも嬉しそうに声をあげた。


「『でもやっぱり、エネルギー変換効率が悪すぎる! このままじゃ、発電が終わる前にメカ・リヴァイアサンのエンジンがあがっちゃうよ!』」


「くそ、何とかなんないのかよ!」


「ハハ! ハハハハ! 無駄ナ足掻キダッタヨウダナ、すとらいかー雷電!」


 焦るレンジの声を聞いたドクトルは、体を震わせて大笑いした。


「ソノびーむゴト、無防備ナ貴様ヲぼこぼこニシテクレルワ!」


「畜生、これじゃ、ヘタに動けない……!」


「『ストライカー雷電! ああ、もう少し、もう少しだけでも、パワーを上げられたら……!』」


 ハゴロモが悔しそうにつぶやいた時、足元の水面から雄たけびのような声が上がった。


「『えっ、何、何?』」




 警戒を怠っていたマギセイラーが跳び上がると、慌てて辺りを見回す。

 ぼんやりした光の点が、線のようにつながって海上に揺れている。カイジュウがレーザービームを放つ轟音に紛れて小型ボートが何挺か、連なるように近づいてきていたのだった。先頭のボートに乗っていた人影が立ち上がり、メガホンを使って叫んだ。


「マギセイラー! 僕たちも闘いを、見せてもらってました!」


「オノデラ保安官! どうして、ここに……?」


 オノデラの乗ったボートは激しく波に揺れながら、更にメカ・リヴァイアサンに近づいていく。

 ボートの中央には、極太の送電線が載せられていた。後ろのボートへと数珠繋ぎになり、岸辺の変電施設から洋上へと渡されているのだ。


「僕たち、オーツ港の人間も力を貸します。オゴトの皆さんと、ストライカー雷電たちにここまで恩を借りっぱなしでは、メンツが立ちませんからね。……これを!」


「おおっ、と。……これは!」


 投げ縄よろしく、接続端子が取り付けられた送電線の先端が放り投げられる。魔法少女は片手で水球を支えると、もう一方の手で送電線を受け止めた。


「メカ・リヴァイアサンに、早く!」


「オッケー! ……ハゴロモちゃん、どこに繋げたらいい?」


 マギセイラーは確認を取りながら、大急ぎでメカ・カイジュウの首筋に端子をさし込んだ。


「できた! できました、オノデラ保安官!」


「よし、送電!」


 オノデラが緑色のペンライトを掲げてサインを出すと、連なった船が地上に向かって、次々と光をリレーした。

 すぐさま送電が始まり、メカ・リヴァイアサンの両目が一層激しく輝く。カイジュウを見上げたマギセイラーは力強く拳を握りしめた。


「これは……!」


「ええ……ハゴロモさん!」


「はい! ありがとう、オノデラさん、オーツの皆さん……お願い、メカ・リヴァイアサン!」




 身動きの取れないストライカー雷電を殴りつけようと、アトミック雷電は手を伸ばす。しかし拳は輝きを増した光の柱に焼かれ、弾かれるように引き戻された。


「グッ! コレハ……威力ガ増シテイル……!」


 アトミック雷電は光の柱を睨みつける。拳は焼けて煙をあげていたが、頭上に掲げると水晶状の追加装甲が展開し、グローブのように腕甲から手先までを包み込んだ。


「ダガ、ソノ程度……!」


「『雷電、充電完了! いや、これは……』」


 水晶のグローブで再び殴りかかろうとした時、光の柱が粒子となって消え去った。


「ナニ……?」


 オーツ・ポート・サイトを見下ろす丘の上は、再び夜闇に包まれていた。折れた大剣を掲げたままの雷電が、ぼんやりと浮かび上がって立っている。


「待たせたな、ドクトル無玄」


 ストライカー雷電が顔を上げると、バイザーが緑色の光を放ってアトミック雷電を捉えた。装甲を走るラインも、緑色に輝いている。充電を終えた雷電の全身は、うっすらと光を帯びていた。

 雫を払うように“ソーラーカリバー”を振り抜くと、折れた剣の先から真っすぐに光が伸びる。眩い光は刃となって、失われた切っ先を補うように刀身にまとわりついた。


「『エネルギー残量、160%だ!』」


「フルパワーだ、行くぜ! ……ウオオオオオ!」


 ストライカー雷電は、更に勢いを増して駆ける。全身に青い電光をまといながら、光の剣を振り抜いた。


「オラッ、オラアッ、オラアアアアアアッ!」


 光の尾を引きながら“ソーラーカリバー”が奔る。稲妻のように鋭く、しかし舞うような緩急をつけて。

 アトミック雷電は攻勢をはじき返そうとして押し切られ、かわそうとして追いつかれ、受け止めた痛打によろめいた。


「ガアッ! コレハ……!」


「オオオオオオッ!」


「グッ……速イ、強イ! ……隙ガ無イ……!」


 斬撃の嵐が滅多矢鱈と打ち付ける。アトミック雷電は体勢を立て直そうとするが、激流のような連撃にのみこまれ、なすすべもなかった。


「ダガ、ソレデモ……マダ、マダダ! マダ、コノ程度……!」


 アトミック雷電の装甲が崩れ、警告音はいよいよけたたましく響く。しかしドクトルは、痛みと衝撃に耐えて立っていた。


「マダ、あとみっく雷電ハ耐エテミセル! ソシテ……コノママ、時間切レダ!」


「くそ、本当に、しつこい! ……マダラ!」


 相手の動きを封じるために攻撃を続けながら、レンジがインカムに叫ぶ。


「このフォームには、必殺技はあるか?」


「ある! “ソーラーカリバー”からエネルギーを、一気に放つ必殺技! 剣が折れたからもう使えないと思ってたけど、今なら、きっと……!」


 アトミック雷電を殴り飛ばして距離をとると、ストライカー雷電は光の剣を構えた。


「それに賭けるぜ!」


「グ、グググ……!」


 苦悶の声を漏らすアトミック雷電の全身が、いよいよ破滅的な赤い光を帯びる。

 レンジはバイザー越しに、相手の腰に巻かれた変身ベルト……“リアクタードライバー”に狙いを定めていた。


「『雷電、コマンドを送ったよ! ……やっちゃえ!』」


 バイザーの中央に、“必殺技”を起動させるための音声コマンドが表示される。レンジは“ソーラーカリバー”を構え、


「“サンライトセイバー”!」


 “必殺技”の発動コマンドを叫びながら、光の刃を振り抜いた。


(続)

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