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エントリー オブ ア マジカルガール;11

「“アイビーウィップ”!」


 アマネが叫ぶと、パワードスーツの腕に刺さった杖がムチに変形した。ムチの先が魔法少女に向かって飛ぶ。


「やああっ!」


 自らの腕にムチを巻き付けると、マギフラワーは思い切り引っ張った。倒れかけるパワードスーツと引き合い、ついに左腕の肘関節が砕ける。巨大な拳がアスファルトに落ち、巨人は膝をついた。


 装甲バイクはドリフトし、火花を散らしながら停まった。後部座席からプロテクター姿のアオが降りると、負傷兵たちを両肩に数人ずつ抱えあげ、駆け足で立ち去った。


 マギフラワーがムチを引き寄せて杖に変形させると、鈍い銀色の装甲を纏ったヒーローがバイクから降りてやってきた。魔法少女の足元に転がり込んでいたドットがぴょんぴょんと跳ねる。


「ストライカー雷電! よかった、間に合ったんだね!」


「ずいぶん待たされたけどな」


 雷電は言うなり、跳ね回るドットを掴んだ。


「むぎゅっ!」


「お前、マダラだろ。……何やってるんだ、そんな格好で?」


 オレンジ色の丸いものは、雷電の手の中でもぞもぞと動いた。


「今のボクは“ドット”って呼んでよ!」


「あなたは、ナカツガワのヒーロー?」


 マギフラワーが声をかけると、雷電は手を離した。ドットが地面に落ちて「ふみゃ!」と声をあげる。


「ああ、“待たせたな! 電光石火で、カタをつけるぜ!” ……すまん、勝手にやっちゃうんだ、これ」


 ポーズを取りながら雷電が言うと、アマネは小さく笑った。


「わかる!」


「君もか。その丸いののせいだろ?」


「まあね」


 ドットが勢いよく跳ねる。


「二人とも、来るよ!」


 片腕をもがれ、前半身のカバーが吹き飛んだパワードスーツが、残された右腕をアスファルトについて起き上がる。剥き出しになった操縦席には、ところどころの装甲が継ぎはぎされた戦闘用オートマトンがおさまっていた。


「あのスーツ、オートマトンが動かしていたんだ!」


「あいつは……!」


 オートマトンのアイカメラがマギフラワーと雷電を捉える。センサーライトがオレンジ色の光を明滅させた。


「Ooオoooh……!」


 機械人形は背中に張り巡らされた配線でパワードスーツにはりつけられていた。


「ウウuuh…… UvaaaああああaahAaah!」


 露出した両腕を突き出し、ひしゃげたスピーカーから悲鳴のような叫び声をあげる。パワードスーツの右腕をハンマーのように振り回すと、先ほどまで負傷兵が身を隠していた瓦礫の山が突き崩された。マギフラワーが杖を構えた。


「また来る!」


「やるぞ! 丸いの、充電はどれだけ残ってる?」


 拳を握りこみながら雷電が尋ねると、ドットは大きく跳びはねた。


「二人で一緒に戦おう! ボクの作戦を聞いてほしいんだ!」




「大丈夫かな、その作戦。僕にできるだろうか……?」


 テロ鎮圧作戦本部がおかれている大会議室の大型モニター前。ショッピングモール“インパルス”の大駐車場で繰り広げられる激闘の映像を背に、十人余りの捜査官が整列している。一般捜査課のイチジョー課長が列の前に立ち、額を伝う汗を拭きながら作戦内容を聞いていた。


「課長が適任なんです。私じゃ階級が低すぎるし、クロキ本部長では別のトラブルが起きかねませんから」


 堂々と言い放つメカヘッドに、数人の捜査官が声を潜めて吹き出した。クロキは「ふん」と不満そうに息を漏らす。


「確かに、イチジョーさんの方が向いてるだろうな。俺だって、自分が喧嘩っ早いことはわかってるつもりだ。……イチジョーさん、私からもお願いします」


 クロキ副署長が頭を下げると、イチジョー課長はあたふたと手を動かした。


「副署長、頭を上げてください! ……わかりました、私がやります」


 イチジョーが背筋を正して言うと、捜査官たちが安堵の息をついた。


「ありがとうございます。会議室の外に“イレギュラーズ”8名が控えていますので、同行させてください」


「了解した。……君の上司になってからずいぶん経つけど、振り回されてばかりだよ。今日ほど予想外の事が続くのは、初めてだけど」


 メカヘッドは愉快そうに「はっはっは」と笑い、クロキは深いため息をついた。イチジョーは苦笑いする。


「……君は信用ならない人だけど、信頼しているよ。この老いぼれが役に立つなら引き受けよう。若者たちばかりに無理をさせるわけにはいかないからね」


 そう言って頭上の画面に目を向ける。“ストライカー雷電”が巨大な異形めがけて走っていた。大腕をすり抜け、オートマトン本体の腕に捕まる寸前でとんぼを切る。三本腕の戦闘機械は宙を掴み、歪んだ叫び声をあげた。


「……さあ、出発だ。メカヘッド君、通信は入れたままにしておくから、サポートはよろしく頼むよ」


「承知しました。お気をつけて」


 メカヘッドとクロキが敬礼すると、イチジョーと捜査官たちも敬礼を返して会議室を出発した。


 会議室に残った捜査官たちは、再び大型スクリーンに目を向ける。クロキは一人、メカヘッドを見ていた。


「メカヘッド、今回の一件は貴様が動かなければ大変な事になっていただろう。だが……貴様は勝手に動きすぎた」


 メカヘッドもクロキを見た。緑色のセンサーライトが微かにまたたく。


「ええ、いつもの事ですけどね」


「それにしても、だ。このヤマは一線を越えてる。首が飛ぶかもしれんと、貴様もわかってるだろう?」


「……覚悟の上です」


 クロキはメカヘッドのセンサーライトをじっと見てから、視線を逃がすように画面を見た。


「俺は間違いなく降格だろう。……まあ、いくらあの人に出世欲がないにしても、イチジョーさんをさておいて俺が副署長になったのがおかしな話だったからな。そこに不満はないさ」


「クロキ副署長」


「貴様の立場が悪くならないように、俺もできる限りのことをしよう」


「ありがとうございます……!」


 メカヘッドが礼を言うと、クロキは口を“へ”の字に曲げ、「ふん」と息をついた。


「貴様みたいなはみ出し者がいることも軍警察のためになると判断したからだ。勘違いするな。だいいち、まだ作戦は終わっちゃいないんだぞ!」


「はい!」


 メカヘッドもスクリーンにセンサーを向けた。“パワードオートマトン”とでも呼ぶべき異形の機械人形が、雷電を追いかけて巨大な右腕を振り回している。クロキは画面から視線を外さず、メカヘッドに尋ねた。


「彼らは、あの化け物をとめてくれるだろうか……」


「今は、彼らだけが頼りです。……我々は手を尽くしました。後は運を天に任せて、ヒーローに望みをかけるだけです」


「うむ……」


 クロキ本部長はスクリーンに映る雷電を見ながら唸り、両手の拳を強く握りしめた。


(続)

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