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特別編 劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー:9

戦いの準備を進める"ストライカー雷電"。


一方、"アトミック雷電"の胸中は……


決戦の時が迫る……!

「戻ってらしたんですか、ドクトル」


 背中越しに声をかけられ、アトミック雷電は作業の手をとめた。振り返ると、横並びに敷かれたマットレスの中央が起き上がっていた。金色と銀色のオッド・アイがまっすぐに雷電スーツを見つめている。

 ドクトルはスーツのバイザーを開いて、アマネに向き直る。間接照明がぼんやりと輪郭を浮かび上がらせる中、金銀の瞳はわずかな光を集めて星のように輝いていた。針の穴のように絞られた瞳孔は、薄暗い中でドクトルの動きをはっきりと捉えていた。


「いいのかね、その目は……」


「私だって、寝る時には外しますよ」


 金銀妖瞳のミュータント・滝アマネは小さく微笑んで、枕元に置いていたケースを左右の目に当てた。ダークブラウンのカラーコンタクトレンズが瞬間的に装着される。


「ほら、簡単につけられるでしょう? ……本当は、外していた方がよく見えるんですよ、夜は特に」


「だが、君は……」


「ドクトルはご存じなんでしょう? “アレ”を取り上げたんですもの」


 すっかり開き直ってあっけらかんと言うアマネに、返答に困ったドクトル無玄が「そりゃ、そうだが……」とぶっきらぼうに返して背を向けた。

 アマネはするりと寝床から出ると、ドクトルの隣にやって来た。


「ドクトルは、何をなさってるんですか?」


 雷電スーツの背中越しにのぞき込むと、クロームイエローの籠手はミール・ジェネレータのコンソールに当てられていた。


「ジェネレータの調整だ」


 ドクトル無玄は、振り返らずに答えた。


「君の操作方法には、若干の癖がある。不具合を起こすほどでもないが、ペレットの消費が早まっていたのでね。機械の方をカスタムして、君の癖に最適化させようと思ってな……」


「ふうん……それなら、私に言ってくれればよかったのに」


「言っただろう、不具合を起こすほどの問題はない、と。それに、言わせてもらうがね、私が何をいじっているのか、君にはわからんだろう?」


 口を挟まれたドクトルが、白い目で新人巡回判事を見る。確かにアマネには、何をやっているのかはさっぱりわからなかった。


「まあ、そうなんですけどね……」


「すぐ終わらせて出ていくから、ちょっと待っていたまえ」


「もう出ていくんですか? 会いたがってましたよ、子どもたち」


 作業に戻ろうとした無玄は、驚いてアマネに向き直った。


「私に? 何故だね?」


「さあ、直接あの子たちに訊いてみたらいいんじゃないですか?」


 しかめ面がほどけて、ぽかんとしたドクトルの顔を見てアマネがクスクスと笑う。


「話の通じない敵から助けてくれて、食べ物の心配もない、シャワーも使える場所に匿ってくれて、大好きな“ストライカー雷電”の映像まで見放題ですからね。ものすごい量の映像データがあるから、あの子たちすっかり見入ってましたよ。……私としては、映像を見過ぎているのを注意したいくらいでしたけどね。他に退屈しのぎができるものがないから、仕方ないので諦めました」


「悪かったな」


 ドクトル無玄は再びムスッとした顔になると、作業中だったコンソールに視線を戻した。


「他に、子どもが喜びそうなものが見つからなかっただけだ」


「……本当に?」


「なに?」


 アマネの声にハッとして、無玄は再び作業の手をとめた。


「私たちの雷電……レンジ君が変身する“ストライカー雷電”の映像だって、たくさん入ってましたよ」


「カガミハラのネットワーク・チャンネルに公開されているだろう」


「それに、この前の態度……ドクトル、あなたは本当は、“ストライカー雷電”の」


「何のつもりだね!」


 雷電スーツを着たままの無玄が声を荒げるのを、アマネは表情を変えずにじっと見ていた。


「ドクトル、子どもたちが起きます」


「ぐっ……」


 奥歯をかみしめた時、もぞり、と寝床が動く。


「アマ姉ちゃん……? あっ、雷電のおっちゃんだ!」


 起き上がった犬耳のアキが目を丸くして叫ぶと、鱗肌のリンも目を覚ます。


「何よう、アキちゃんうるさい……」


「リンちゃん、雷電のおっちゃんが帰ってきたよ!」


「えっ……あっ、ほんとだ! おじさん、お帰りなさい!」


 子どもたちはマットレスをはね飛ばして駆け寄ってくる。ドクトル無玄はため息をつくと、ぱちりと指を鳴らした。

 地下研究室が、照明灯の白い光に包まれる。


「わっ、まぶしい!」


「フン……」


 ドクトル無玄は手早く作業を終えると、子どもたちに振り向かずに立ち上がった。


「ジェネレータの調整は終わった。私はそろそろ出る。君たちはもう少しで解放するから、もうしばらく待っていたまえ」


「ドクトル!」


 アマネがとがめるように声をあげるが、無玄は応えなかった。扉に手をかけていたドクトルに、アキが声をかける。


「雷電のおっちゃん!」


 ドクトル無玄は、扉に当てようとしていた手を下ろして振り返った。


「私のことは、ドクトル無玄と呼ぶように言ったはずだが……」


「うん、無玄のおっちゃん!」


 アキは白い犬歯を見せて笑っている。ドクトルは眉間にしわを寄せ、「はあ……」とため息をついた。


「ああ……まあ、それでいい。それで、どうしたかね、少年」


「その……無玄のおっちゃんに、お礼が言いたくて」


「お礼?」


「うん! 助けてくれて、ありがとう!」


 まっすぐ目を見て礼を言うアキ、そしてニヤリと笑っているアマネ。


「あっ、ちょっと、アキちゃん、一人で先に言わないでよ!」


 リンも慌てて、ドクトルの前に走ってきた。


「無玄のおじさん、私からも、ありがとう!」


 子どもたちがぺこりと頭を下げる。

 ドクトル無玄はニヤニヤしているアマネを軽くにらんだ後、自らがかぶっているヘルメットの縁をコツコツと指先でつついた。


「あー……と、まず、こどもたち、頭を上げなさい」


 アキとリンは顔を上げると、目を輝かせてアトミック雷電を見上げた。無玄は「おほん!」と咳払いする。


「その、私はストライカー雷電と対立しているんだが……」


「たいりつ?」


「アキちゃん、仲が悪い、ってことだよ」


「そうか、ありがとう!」


 リンが小声で耳打ちするとアキは明るく返し、ドクトル無玄を見上げた。


「でも、ボクらとはタイリツしてないでしょ! 助けてくれたし」


「まあ、そうだが……怖くはないのか?」


 無玄は返答に困ってモゴモゴと返す。リンも「はい、はい!」と声をあげた。


「怖くないよ! だっておじさん、ストライカー雷電のことが好きでしょ!」


「それは……」


 リンの言葉にドクトル無玄は黙り込む。


「ドクトル、あなたは……」


 アマネが声をかけようとした時、地下研究室全体が大きく揺れた。サイレンが鳴り、子どもたちが固まりつく。


「何だ!」


 ドクトルの声に反応するように、壁からモニターがせり出した。暗視カメラによる暗緑色のフィルターがかけられた画面の中を、重装備の兵士たちがひしめいて歩いている。……地表をうろついている、ブラフマーの私兵部隊だった。


「くそ、バレたか!」


 無玄は悪態をつきながら、壁際のコンソールを操作した。地下通路のシャッターを次々と落としていく。モニターが暗転すると、アキとリンに向き直った。


「すまない、こどもたち。この研究室を放棄して脱出する」


「やっつけないの、雷電なのに?」


「連中にこの研究所がバレてしまった以上、今いる奴らを何とかしても、すぐに次が来る!」


 アキの質問に答えながら、ドクトルは室内の機材を次々に停止させていった。照明も消え、赤く点滅する非常灯に切り替わる。


「それに、君たちを守りきって闘うことなど、私にはできん!」


 壁に拳を叩きつける。透明のカバーを叩き破ってスイッチが押されると、部屋の奥のシャッターが下りた。黒々とした非常脱出口が露わになる。

 ドクトルは壁に作られた棚からポーチを取り出し、装甲スーツの腰に括り付けると、子どもたちに向き直った。


「こどもたち、脱出するぞ! ここまで巻き込んで済まなかった。せめて君たちは、アカオニのところまで、無事に送り届けてみせる」


「わかった!」


 アキが、リンの手をしっかりと握りしめる。


「うん、おじさん、お願い!」


「よし……!」


 ドクトルは子どもたちを抱きかかえた。ヘルメットのバイザーが降りると、全身に走る赤いラインが鮮やかに輝く。


「あまねクン、君モ巻キ込ンデ済マナカッタナ」


「構いませんよドクトル。それも、私の仕事ですから」


 点滅する非常灯の光を受けながら、アマネは動じない様子で微笑んでいた。


「私が最後に出ます。子どもたちを、お願いしますね」


「アマネお姉さん!」


 リンが声をあげる。アキも不安そうに、アマネを見つめていた。


「大丈夫。何とかする。……それよりドクトル、お預けしていたものを、返していただけますか?」


「ソウダッタネ……ホラ」


 ドクトルは片手で腰のポーチからピンク色のスティックと携帯端末機を取り出すと、アマネの手のひらにのせた。


「軽ク調ベテ、多少えねるぎー効率ガ上ガルヨウニ、めんてなんすサセテモラッタ。セメテモノオ詫ビダ」


「ありがとうございます。確かに受け取りました」


 アマネは感触を確かめるように、自らの変身装置、“マジカルチャーム”を握りしめた。


「攻めてきた連中は、私が何とかします」


「ワカッタ、有難ウ。……コドモタチ、シッカリ捕マッテイタマエ」


 アトミック雷電が地下室の床を蹴る。両脚に赤い電光が走ると、クロームイエローのパワーアシスト・スーツは吸い込まれるように、非常脱出口の中に消えて行った。


「アマ姉ちゃん……!」


「お姉さん……!」


 子どもたちの叫び声も、黒い穴の中に消えていく。部屋の外からは、扉をこじ開けようとする重い音が響く。


「今は……もう、陽が昇りはじめる頃か」


 携帯端末機の時刻表示を見たアマネはニヤリと笑って、握りしめたピンク色の筒を頭上に掲げた。


「好都合じゃない、いくよ! “花咲く春の夢みるドレス、マジカルハート……ドレス・アップ”!」


 ポップな音楽が、立体音響で響き渡る。赤い非常灯が鋭く点滅する室内を、ピンク色の光が埋め尽くした。




 オレンジ色の朝焼けに包まれたキョート・ルインズ、旧サッキョー・ディストリクト。廃墟となった研究所の建屋を、重装備の兵士たちが取り囲んでいた。隊長らしき兵士のインカムに、通話回線が開く。


「『突撃班、目標地点に到達しました。扉が封鎖されているので、実力行使で突破します』」


「了解」


「『3……2……1……。うわああ!』」


 扉をこじ開けたはずの兵士の叫び声が、隊長の耳に突き刺さった。


「どうした! 突撃班、無事か?」


「『無事です、ただ、強烈なピンク色の光が……ぎゃあああ!』」


「何、ピンク色の、何だって?」


 隊長が訊き返した時、研究所建屋近くのアスファルトが轟音をあげ、噴火する火山が溶岩を飛ばすように残骸を巻き上げた。


「今度は何だ! ……あれは!」


 砂煙があがる中、黄色い装甲スーツが飛び出した。廃研究所の建屋に跳びあがると、キョート遺跡の屋根をつたうようにして走り去っていく。


「くそ、逃げるぞ、撃て!」


 隊長の声に、地上で待機していた兵士たちが銃を構えた。すぐさま引き金に指をかける。

 引き金を引こうとした時、装甲スーツが逃げ出した穴の中からピンク色の光の柱が、朝焼けの空に向かって立ち上がった。


「何? どうなってる、突撃班! ……おい!」


 返事のないインカムに向かって隊長が叫ぶ。


「何が起きている、おい! ……あ」


 視界がピンク色に染まり……隊長は意識を失った。


「隊長!」


 隊長とその周囲の兵士たちが倒れ伏すのを見た兵士たちが駆け寄ろうとした時、地下研究所の脱出口から人影が飛び出した。


「くそ、なんなんだよ……!」


「撃て、撃てっ!」


 銃口が新たに現れた人影に向ける。一斉に銃弾が放たれるが、その全てがピンク色の光のムチに叩き落とされた。


「作戦本部、隊長がやられた、援軍を頼む! 新しい侵入者だ、急に現れて……!」


「なんなんだよアレは、聞いてないぞ……!」


 一人の兵士がインカムに向けて怒鳴る。兵士たちの中には動揺が走っていたが、無理もない。目の前に現れたのが……


「ピンク色の、女の子……?」


 花びらのようなドレスが春風に揺れる。おとぎ話の魔女のようなとんがり帽子に、金色の花飾りをあしらった杖を持った魔法少女が、兵士たちに銃口をむけられてなお仁王立ちになっていた。


「『黒雲散らす花の嵐! マジカルハート・マギフラワー!』」


 淡いピンク色の髪の下から金銀妖瞳を輝かせ、魔法少女が名乗りを上げる。マジカルハートが杖を構えると、周囲にピンク色の爆煙が噴きあがった。


「爆発した!」


「立体映像だ、怯むな! ……くそ、やれ、やっちまえ!」


 何振り構わず突っ込んでくる兵士たちを見て口の端を持ち上げ、マギフラワーは笑う。


「かかって来なさい! 私も、暴れたりなかったところよ!」


(続)

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