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特別編 劇場版ストライカー雷電:インフィニット エナジー ウォー;4

火・水・風の強化フォームを封じられた雷電を、圧倒的な性能で打ち倒した"にせ雷電"。


クロムイエローの装甲に身を包み、赤黒い電光を纏った"もう1人の雷電"の正体とは……?

 山から下ろす冷たい風が遺跡の町を駆け抜け、埃と乾いた木材の臭いをまとって吹き抜けた。犬耳のアキが鼻をひくつかせる。


「ふっ、ふっ、ふっ……ふぁっくしょい!」


「アキちゃん、大丈夫?」


 一緒に歩いていた鱗肌のリンが尋ねると、アキは自らの指で乱暴に鼻先を擦った。


「うん、大丈夫だよ。ちょっとホコリっぽかっただけだから。それより、“にせ雷電”の信号があるのは、この辺り?」


「うん、そうみたい、なんだけど……」


 リンはバンの後部座席からくすねてきた、アマネの携帯端末をアキに見せる。


「ほら、これ」


「うん、この辺り、だよね……」


 端末機の画面中央に光点が一つ。その右上に隣り合うように、もう一つ。アキとリンは顔を見合わせた後、周囲を見回した。


 立ち並ぶ、様々な時代に建造された様々な様式の建物たち。住民たちに放棄されて久しいはずの廃墟の町はミュータント化した生物から破壊されることも、植物に浸食されることもなく、往時の姿を保っていた。……自動運転の景観保護システムがいまだに稼働しているためだが、もちろん子どもたちには知る由もなかった。


「なんか、さあ……」


「うん……」


「……ひっ!」


 言いかけたアキは、街並みをすり抜けて吹いた冷たい風にぶるり、と身を震わせた。


「何よ!」


「ごめん、ちょっと風でびっくりしただけ! ……でも、その……何か、出そうだな……って……」


「アキちゃんったら、怖がりなんだから!」


 リンは呆れたように言いながら、アキの腕にくっついた。


「リンちゃんだって、びびってるじゃん!」


「うっさいなあ! これは、そういうのじゃ……ひいい!」


 言い返しかけた時、建物の影から転がり出た石が金属製の柱にぶつかり、甲高い音を立てた。

 リンは跳び上がって、棒立ちになったアキにしがみつく。


「ア、アアアアあアキちゃん! なっ、何か来る……!」


「リ、リリリリンちゃん! ぼ、ボクの後ろに隠れて!」


 アキは震える手を握りこぶしにすると、リンをかばって仁王立ちになった。


「出てこい、“にせ雷電”!」


 少年が呼ばわると、見知った顔が路地からするりと現れた。


「あなたたち……」


 スーツ姿の滝アマネが肩を怒らせて、子どもたちを睨んでいる。


「私のケータイを勝手に持ち出して、何をやっているのよ」


「ごめんなさい!」


「レンジ兄ちゃんが動けないから、ボクたちが代わりに“にせ雷電”を見つけようと思って……」


 リンとアキが縮みあがりながら答えると、アマネはため息をつく。


「はあ……あなた達を見逃した私にも、責任があるからなあ。ひとまず、無事でよかったわ。……ほら、ケータイ、返して」


 リンはアマネに端末機を渡すと、ぴったりとくっついた。アキもそっと、スーツの裾をつかむ。


「これが、“にせ雷電”についた発信機の信号ね。……すぐ近くにいるじゃない!」


 端末機の画面を検めたアマネは目を丸くする。


「うん! 頑張って、追いかけてきたんだ!」


「アキ、自慢してる場合じゃないでしょう! 二人とも、私から離れないで……!」


 子どもたちをかばって周囲を見回したアマネは、目をとめた建物の後ろから、細長い影が伸びていることに気づいた。


「そこにいる方! どなたですか? よろしければ、姿を見せていただきたいのですが!」


ポケットの中に手を入れたまま、影の主に大声で呼びかける。

 無言で現れたのは、覆面と装甲服に身を包んだ人物だった。アキとリンは、アマネにひしとしがみつく。

 巡回判事はポケットからIDカードを取り出し、小銃を背中に担いでいる装甲服の兵士にかざして見せた。


「驚かしてしまったようならばすみません。私はナゴヤ・セントラル保安部所属、滝アマネ巡回判事です。管区外ではあるのですが、こちらに調査のためにやって来まして。できればご協力を……」


 自己紹介を済ませたアマネが説明を始めると、装甲服はインカムを使い、小声で何やら話し始めた。


「ええと、あの……話を、聞いていただけますか?」


 アマネが更に声をかけようとした時、周囲の建物の陰から新たな装甲服たちが現れた。覆面で顔を隠し、小銃をアマネたちに向けて取り囲んでいる。


「ちょっと! どういうことですか、子どもや非武装の人間に、銃を向けるなんて!」


 装甲服たちは巡回判事の呼びかけに応えない。銃口を向けたまま少しずつ、包囲網を狭めはじめた。子どもたちが震えはじめる。


「くっ、そ……!」


――子どもたちの前だけど、変身するしかない、か。……けど、それでこの子たちを、守り切れるのか……?


 アマネが再び自らのスーツのポケットに意識を向けた時、取り囲んでいた兵士の顔が、火花を散らして爆ぜた。

 襲われた兵士は倒れ込むと、両手で顔を覆ってもだえている。強烈な衝撃を放つ弾丸が、目の前で炸裂したのだった。


「何!」


 周囲を警戒しはじめた装甲服に、赤黒い稲妻が突き刺さる。電光を放つ拳が装甲にめり込み、兵士は銃を放つ前に崩れ落ちた。

 襲撃者はすぐさま、次の獲物に狙いを定める。強烈な裏拳を、装甲服のヘルメットに叩きこんだ。

 兵士たちも引き金に指をかける。乾いた音が立て続けに響き、アマネは子どもたちをかばいながら地に伏した。


「アマ姉ちゃん……!」


「じっとしていて……!」


 弾丸は全て、襲撃者に向けられたものだった。

 しかし当たらない。クロームイエローの装甲に身を包んだ人影は電光の尾をひきながら弾丸をかわし、次々に兵士たちを叩き伏せる。


「どうなってるの……?」


 発砲音が止み、アマネが恐る恐る顔を上げた。装甲服たちは気を失い、周囲に倒れこんでいる。

 立っていたのは、黄色い装甲を纏った襲撃者ただ一人だった。顔を上げた子どもたちは、目を輝かせて襲撃者を見上げる。


「雷電だ!」


「いつもの雷電じゃないけど……でも、雷電だ!」


 “にせ雷電”は子どもたちとアマネに顔を向けた。無機質なヘルメットのバイザーと全身に走るラインが、禍々しい赤色に輝いている。


「きょーとノ奥地ハ“ぶらふまー”ノあじとガ密集シテイル。実働部隊ガウロウロシテイテ、ドコノ保安局ノ権威モ役ニ立タン……」


 ひずんだ声が響く。赤く光るバイザーが、アマネの顔の前に突き出された。


「死ニタイノカ、子ドモタチマデ連レテ」


「ボクたちは、雷電を追いかけてきたんだ!」


 アキが立ち上がり、アマネをかばうように“にせ雷電”の前に立ちふさがった。リンも慌てて、アキに加勢する。


「そうよ! 発信機を頼りに、あなたを追いかけてきたんだから!」


「私ヲ……?」


 アマネがしっかりと握っていた携帯端末をちらりと見た“にせ雷電”は、「ふむ……」とため息を漏らす。


「ナルホド、アノ一瞬デ仕込ンダノカ。大シタモノダ。ダガ……」


 “にせ雷電”が指をぱち、と鳴らすと、端末機の画面がノイズで埋め尽くされた。

 アマネは目を丸くして端末機に指を当てるが、全く反応しない。


「えっ! 何、どうなってるの?」


「ねっとわーく回線モ、無線こんとろーるモ無駄ダ。私ハ全テ、打チ消ス事ガデキルノダヨ。ヤリ過ギルト逆ニ“穴”ニナッテ、捕捉サレテシマウノダガナ……ムウ」


 ものものしいサイレンの音が、遺跡の町に鳴り響いた。“にせ雷電”は周囲を見回すと、再び子どもたちとアマネに向き直る。


「コノ騒ギデ、警備しすてむガ動キ始メタ。直グニ増援ガ来ルゾ。付イテコイ。……死ニタクナケレバナ」


 そう言って歩き出そうとして、“にせ雷電”は振り返った。アマネと子どもたちは、困惑したように“にせ雷電”を見つめている。


「何ダ? ……ヤハリ、私デハ信用デキナイカネ」


「それは……」


「そりゃそうだよ、怖いよ!」


 アマネは言い淀むが、アキは両手を握りしめて“にせ雷電”の前に立った。


「でも、ボクたちを助けてくれた。……だから、今は信じるよ、“にせ雷電”でも!」


「ちょっと、アキ君!」


「私も! だから、また助けてください、黄色い雷電!」


「リンちゃんまで……!」


 子どもたちのまなざしを受けて、“にせ雷電”は自らのヘルメットに手を当てた。


「ヤレヤレ、コノすーつハ“にせ雷電”デモ、“黄色い雷電”デモナイノダガナ。ソレハ、追々説明スルトシテ、ダ……」


 ヘルメットを操作すると、“にせ雷電”のバイザーが開く。白髪が混じった男の、少し戸惑いの混ざった仏頂面が現れた。


「そこまで言われると、素顔を隠し続けるのも気が引けるな」


「わあ、おじさんだ!」


「雷電の中身が、おじさん!」


 偏屈そうではあるが、どこか人の良さそうな風貌をした男だった。子どもたちがホッとしたように“おじさん”と連呼すると、黄色い雷電スーツを着た男は眉間にしわを寄せる。


「どうにも座りが悪いので名乗っておこう。私の事は“ドクトル無玄”とでも呼んでくれたまえ。……ひとまず、私のラボに案内しよう。ついてきてくれ」




 “にせ雷電”の猛攻に敗れた雷電たち一行は、全速力で東へと引き返していった。

 山あいの街道を駆け抜け、補給もそこそこにオオツ・ポート・サイトを通り過ぎ、往路の半分ほどの時間をかけてナゴヤ・セントラル・サイトへとたどり着いた時には、行く手に朝陽が昇り始めていた。


 入管ゲートを抜けたバンの前に、機械部品で頭を覆った男が立ちふさがる。輝く朝陽を背中に受けながら、男は芝居がかった身振りで両手を大きく広げた。


「皆さん、大変お疲れ様です! 思いの外、お早いお着きで驚いておりますよ!」


 バンが停まり、運転席の窓から苦虫をかみつぶしたような顔のタチバナが身を乗り出した。


「随分な挨拶だな、メカヘッド。そんなことより、そっちの首尾はどうなってる?」


 機械頭の男はタチバナの顔色を気にする素振りも見せず、ヘラヘラしながら答える。


「ええ、ええ! マダラ君から送ってもらった映像を持って、ナゴヤ保安局に掛け合ってみたんですよ。……なんですが、さすがに軍警察の巡査曹長レベルでは、大したこともできず……」


「そりゃあ、済まなかったなあ。こっちもイチジョーさんやクロキ君に動いてもらえるほどのネタを持ってなかったから」


「いえ、いいえ! それでも俺は、先輩に頼ってもらえて、嬉しい限りですよ! ……なので、できる限り頑張ってみました!」


 カガミハラ軍警察一般捜査課所属、自らを“メカヘッド”と人に呼ばせる機械頭の巡査曹長はタチバナに胸を張った。


「お前の持って回った言い方、分かっちゃいるんだが、疲れてるときには割とアタマに来るよな。……それで、結論は?」


「ナゴヤ保安局とセントラル防衛軍を動かすことはできませんでしたが、『“ストライカー雷電”の戦闘活動、並びにナカツガワ保安官事務所の限定的な捜査権を認める』って言質を取りました」


「ほう……」


 感心した声をあげるタチバナを見て、メカヘッドはうやうやしく両手を揉み合わせる。


「それと、マダラ君から送られてきたデータ……俺にはよくわからなかったんですけど、雷電の強化ギアの設計図だったそうです。ウチの技術開発部に見せたら連中、大喜びで作業を始めましてね。あっという間に仕上げて、なんと、今! 持ってきてますよ、ここに!」


「大したもんだな、助かったよ……ああ、ふ」


 メカヘッドの報告に感謝したメカヘッドは、大きく口を開けて欠伸した。


「それじゃ、まあ、明日見せてもらうことにしよう……」


「あれ、すぐ見に行ったりはしないんですか?」


 意外そうにしているメカヘッドに、タチバナはひらひらと手を振る。


「勘弁してくれ。ここまで四人がかりで、交代しながら車を走らせ続けてきたんだからな。他の連中はぐっすり寝てる。俺がアンカー、ってわけだ。……ふわああ!」


 再び大あくびをすると、タチバナは窓から突き出していた顔を引っ込めた。


「ひとまずは、ぐっすり休ませてもらうよ」


「はあ、お疲れ様です……」


 メカヘッドに見送られ、バンはゆっくりとナゴヤの地下階層に向かうスロープに吸い込まれていった。


(続)

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