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パラレル ライン;4

女賞金稼ぎの旅は、いよいよ終着点へ。


願い、求めて伸ばされた両手は何をつかみ取るのか……

chapter:4


the goal of journeys, or moon dance with you (1/2)




 路地に駆け込んだことりを、黒いオートマトンが追う。走りながら再度、三度振り返ってリベット弾を射かけるが、軍用コートをまとった義体は怯む様子もなく、赤いセンサーライトを光らせながら走り続けていた。


 黒い装甲に被われた手が迫る。ことりは短く罵ると、道の端に立てられていたゴミ箱をひっくり返した。巻き込まれて立ち往生したオートマトンに、手の中に握りこんだリベット弾を続けざまに撃ち込む。


「こいつも、おまけだ……!」


 マダラが用事していた“特製”弾丸も取りだして撃ち出した。赤色の弾はオートマトンの顔面に直撃すると大音量で炸裂し、灰色の爆煙を噴き出した。黒い義体は大きく姿勢を崩す。


「やった……!」


「『いや、まだだ! それはただの、目眩ましの爆竹だ!』」


 煙の中から再びオートマトンの腕が伸び、ことりの首を掴んだ。


「があっ……!」


「『ことり!』」


 ドローンが狼狽えるように、ことりの周りをふらふら飛び回った。


「はハ、はははハハハは……!」


 オートマトンは歪んだ音声で笑う。メンテナンスされないまま放置されていて、人工声帯のチューニングが変調をきたしているのだった。


「うう、ぐう……っ!」


 締め上げられたことりが軍用コートを着た腕を掴み、蹴りつけるがオートマトンはびくともしなかった。苦しむ赤い娘を見ながら、黒い義体は底意地悪く笑い続けている。


「くそ……!」


「ヒヒひ、イい眺めだナあァ、ことりィィ……!」


 ことりは歯を食いしばりながら、オートマトンを睨み付けた。


「離しやがれ! ……ヨシオカ!」


「アハッ! アハハハははハハハハハハ!」


 ヨシオカ、と呼ばれたオートマトンはいよいよ激しく嘲笑う。


「よクわカったなア、嬉しイよ……!」


 キスをせがむように近づく機械部品の頭を、ことりは必死で押し返した。


「やめっ……! やめろ、気持ち悪い!」


 赤いセンサー・アイがギラギラと光る。


「こノからだガもドかしいが、お前ノはんノウを見るのガ楽シクてなァ! このマま服ヲ剥いダら、どンなかオを見セてクれる……? そレトも、腕ノいっポんでも折ッテやろうカ……!」


「ぐうう……っ!」


 首にかけられた手に力がこもる。もう一方の手がことりの左腕に触れようとした時、空から銀色の稲妻が落ちてきて、“ヨシオカ”の右腕を撃ち抜いた。




「ああアあ! があッ!」


 ことりを掴んでいた腕を砕かれた黒いオートマトンはもんどりうって転がった後、ゆらりと起き上がった。


「ひひヒっ! 痛クない! 痛くナいが……ナにしやガる、俺の手、手ガァぁぁ!」


 地に伏せたことりが顔を上げると、黒い装甲に被われた左手が転がっているのが目に入った。そして怒り狂う“ヨシオカ”の前に立ちふさがる、鈍い銀色のオートマトン……


「レンジ君、来てくれたんだ……!」


「……俺は、レンジなんて名前じゃない」


 サイバー雷電にかばわれたことりが立ち上がるのを見て、“ヨシオカ”は苛立ちに満ちた声をあげる。


「アアあああああアあ! キに入ラネねえナあ、何モんだてメえはァァあアアあ!」


 雷電は叫び続けるオートマトンを蹴り飛ばした。


「グはァ!」


「俺はただのオートマトンだ……お前と同じ、な」


 起き上がった“ヨシオカ”に、雷電は続けざまにパンチを撃ち込んだ。


「アっ! ガッ! があア! ……あははハハハハ! 痛くナい、イたクナいぞ!」


 片手をなくしたオートマトンは、笑いながら雷電に組み付いた。


「くそ!」


 “ヨシオカ”は組み付いたまま大きく体を振り回す。


「ほラ! お前ガ手ヲ離シタら、俺ハまタことりをおソウぞ! 今度ハひとオモいにくビをねじキってやロウか! そレトも、腹をさイてヤロうか? アハ! はハはは!」


「……くそ! ことり、逃げろ!」


 雷電は黒いオートマトンを抑え込みながら叫ぶ。


「けど……!」


「ハハ! ふははハハハ! 雷電! 必死にアがいて、俺をトめてみナ!」


 “ヨシオカ”は雷電と揉み合いながらも、時おり大きく腕や脚を振り回してことりを脅かす。


「くっ……! この……!」


「レンジ君……」


 拳を握りしめて二体のオートマトンを見守ることりのインカムに、マダラが話しかけた。


「『……ことり! 暴走したオートマトンを停めるには制御回路を壊すしかない! それは……』」


 話を聞いたことりは、雷電に向かって叫ぶ。


「レンジ君、背中を狙って!」


「だから俺は! ……それに、背中って言っても……!」


 “ヨシオカ”は嘲笑いながら、左腕で自らの背中をかばう。


「ひはははハハハハ! むダだあァァァ!」


「くそっ!」


 膠着する二機を前に、ことりは“特製弾”のポーチから、オレンジ色の弾丸を取り出した。


「レンジ君、目をつぶって!」


「おい! 俺は“まぶた”なんかないんだけど?」


 オレンジ色の“閃光弾”はグローブをから放たれ、真っ直ぐに飛んでいく。“ヨシオカ”の顔面で炸裂すると、昼かと思うほどの光が路地裏に満ちた。


「グはあああアア!」


 黒いオートマトンが顔を覆って立ち往生した一方、雷電はすぐに動き出していた。


「“音響ソナー”、“熱源センサー”、“赤外線ビジョン”展開……何だこの、気持ち悪い視界は!」


 僅かにふらつきながら、身動きが取れずにいる“ヨシオカ”の背後に回り込んだ。


「ウラァ!」


 背中を守る装甲板を力ずくで引き剥がすと、配線がのたうつ電子回路があらわになった。


「これか! やっていいんだな?」


「うん!」


 雷電が拳を叩きつけると、電子基盤は粉々に砕けた。黒いオートマトンは全身を震わせて手足を突っ張らせる。


「あががガガがががガガガガ!」


 断末魔の叫び声をあげると、“ヨシオカ”はアスファルトに倒れこんで動かなくなった。ドローンがオートマトンの残骸の上を飛び回り、細い作業アームを伸ばしている。


「レンジ君!」


 走り寄ったことりを、雷電は片手でとめる。


「……だから、俺はレンジなんかじゃない、って……」


「嘘!」


 顔を逸らす雷電を、ことりは涙を溜めた目で見つめた。


「“また”、ヨシオカから私を守ってくれた! どこからか来たのかは知らないけど、駆けつけてくれたんでしょう……?」


「それは……」


 言葉につまる雷電にことりが詰め寄ろうとした時、路地裏に光が射した。


「『ことり、気をつけて!』」


 インカムからマダラが警告する。走りこんできたのは軍警察の覆面パトロール・カーと兵員輸送車だった。


「『すぐに逃げられるようにしておくんだ……!』」


 車から武装した警官たちが降りてくる。先頭に立つのはメカヘッドだった。気取った足取りで靴を鳴らしながら、雷電とことりに向かって歩いて来る。


「雷電、用事は済んだみたいだな。お疲れ様」


「こんな時に……!」


 ことりが眼光鋭く睨み付けるが、機械頭の刑事はどこ吹く風で首をすくめた。


「あれ、タイミングはバッチリだったんじゃないか? 厄介なオートマトンも潰せたところだしな。……そうだろう?」


「……ええ、そうですね」


 ことりから背を向けたまま、雷電は車に乗り込んでいく。


「レンジ君っ……レンジ君!」


 雷電は応えない。数人の武装警官がゴム弾銃を向けて、ことりを制止した。メカヘッドのセンサーライトが緑色に光る。


「まずはその、オートマトンの残骸を回収させてもらおう。……そして君も、今度ばかりは我々についてきてもらおうか」


 メカヘッドが手で合図すると警官たちがことりを囲み、じりじりと輪を狭めはじめた。


「『ことり!』」


 マダラが叫ぶ声が聞こえる。ことりは握りしめていた“特製弾”をまとめて地面に叩きつけた。


 目を覆うばかりの閃光と爆発音、そして柱のようにもうもうと立ち上がる煙……


 ことりは煙に紛れ、警官の頭を踏み台にして跳び上がった。


「ぎゃっ!」


 倒れこむ警官の声にも構わず、ほとんどの住人が退去した再開発中の街並みに潜り込む。メカヘッドはすぐさま、パトロール・カーに走り寄った。


「追え! ……おい、雷電?」


「あー……ダメですね、これは」


 車内から、何ともやる気のない声が返ってくる。


「はあ?」


「さっき急に慣れない機能を使ってバテちまいまして……しばらく動けそうにないです~」


「おい! 何言ってんだ! ふざけんなよお前!」


 雷電は「スリープモードに入ります……」と言ったきり黙りこみ、動かなくなった。


 武装警官たちは赤毛の娘を見失っておろおろしている。黒いオートマトンの回収を追えた警官たちも戻ってきた。指示待ちの視線が、メカヘッドに集中する。


「あー! ちくしょう! 撤収だ、撤収!」


 メカヘッドは叫ぶと天を仰いだ。建物の狭間から、白く光る月の光が射していた。




 ことりが“止まり木”に戻った時には今夜最後のステージが終わり、女給たちがホールを片付けていた。


「ただいま……」


 ドアを開けると乾いたベルが鳴る。ステージ横のピアノの前で、三つ目の老ピアニストと話し込んでいたチドリが顔を上げた。


「ことりちゃん! お帰りなさい。怪我はない?」


「うん、大丈夫だよ。ありがとう」


 店の奥からマダラも顔を出す。


「お疲れ様、無事に戻ってこれてよかったよ」


「マダラのサポートのおかげ。……ありがと」


 ほほをうっすらと染め、目を逸らして礼を言うことりにマダラが目を丸くしていると、タチバナが後ろから顔を出した。


「お嬢、お疲れさん。帰ってきて早々で悪いが、訊かせてほしいことがあるんだ。あの黒いオートマトン、“ヨシオカ”と」


「アホ!」


 ことりが慌てて遮ると、目を白黒させながらタチバナは黙った。ちらりとチドリに視線を向けると、先ほどまでステージの余韻で高揚していた歌姫の顔は見る間に青ざめていた。


「チドリ姉さん!」


 ふらついたチドリを抱きとめたのは、女給に混じって片付けをしていたアオだった。


「チドリさん、大丈夫ですか?」


「ええ……ありがとう、アオちゃん。でも……ごめんなさい、ちょっと休ませてもらうわね」


「一緒に行きます!」


 アオが大きな両手で包み込むように、チドリの体を支えた。


「ありがとう。お願いするわね……」


 二人が奥の楽屋に引っ込んでいくのを見送り、タチバナが頭を掻く。


「すまんなお嬢、うかつなマネを……」


 ことりはぷいと顔を背けた。


「ホントにね! ……まあ、おっさんは知らないから、仕方ないことなんだけどさ」


「それで、“ヨシオカ”ってのはどんな奴で、なぜオートマトンになってるんだ? チドリさんとも関わりがあるようだが……?」


 ことりはタチバナに向き直り、険しい顔でため息をついた。


「なんで“アレ”がまた出てきたか、なんて私もしらないよ! ……それに、アレの話はここじゃできない。ツラを貸して」




 “止まり木”のVIPルームに入るなり、ことりは大股でどかりとソファに座り込んだ。


「おい……脚……」


 タチバナが目のやり場に困って顔を背ける。


「スカーレットの下はズボンだし、いちいち気にしなくていい」


「おいおい……」


 呆れながら正面を逸らして座るタチバナを一瞥すると、ことりは目の前のテーブルにぼんやりと視線を移した。


「それで、“ヨシオカ”のこと? どこから話したもんかな……」




 タカツキ・サテライト・コロニーの正保安官、ヨシオカは悪名とどろく腐敗保安官だった。横領、不当逮捕、不正の揉み消し……ありとあらゆる悪徳を寄せ集めて煮詰めたのがこの男であり、その極めつけがドラッグ取引の元締めだった。




「ニルヴァーナ、ってドラッグは知ってる?」


「ああ、聞いたことがある。強烈な依存性と中毒症状があるという……西の方で出回っていると聞いたが……」


 タチバナの言葉に、ことりは頷いた。


「そう、それをオーサカ・セントラル・サイトの北側で売りさばいていたのがヨシオカ、というわけ」


「なるほど。……では、そのヨシオカと、チドリさんの関係、というのは?」


 ことりはタチバナをじろりと睨む。


「ヨシオカはね、チドリ姉さんの常連客だった。姉さんは殴られたり罵られたり、散々な扱いを受けてきたけど耐えていた。……でもある時、ヨシオカがニルヴァーナを使うように脅してきた。チドリ姉さんが断ったら、ヨシオカが店で暴れたの。他のお客さんが取り押さえてくれて、奴は出禁になったけど、姉さんもタカツキにいられなくなって町を出た……」


 タチバナは「ふうむ……」と言ってことりの正面に座り直した。


「話してくれてありがとう。……すまんな、チドリさんの前で」


「仕方ないよ、知らなかったんだし」


「じゃあ、その……言いにくいかもしれんが、もう一つ。ことりとヨシオカ、それにレンジ君……だったか? 何があった?」


 ことりは姿勢を正して座り直し、「ふう」と息をついた。


「……ヨシオカはチドリ姉さんがいなくなってから、私につきまとうようになってね。私はレンジ君と一緒だったし、客を取るつもりもなかったんだけど。……でもヨシオカはエスカレートしていって、銃で脅してきた。レンジ君が守ってくれたけど、撃たれて……そして銃を奪って、ヨシオカを撃った……」


「ありがとう。すまないな、君にとっても、つらいことを……」


 ことりは脚を組んでそっぽを向く。


「気にしなくていい」


「そうか……さて、それじゃあこれからの話をしよう」


 タチバナは腕を組んだ。ことりも再び、タチバナに向き直る。


「“サイバー雷電”にはレンジ君の脳が使われている。そこまではまず、いいとして……では、あの黒いオートマトンは何だったんだ? メカヘッドの奴も受け取った“脳髄回路”は一基だけだと言っていたんだがな……」


「言っておくけど、ヨシオカは頭のど真ん中を撃ち抜かれて死んでる。それで脳ミソが使い物になるかどうか、私は知らないけど」


「そうか……なあマダラ、専門外かもしれんがお前はどう思う? ……マダラ?」


 返事はなかった。タチバナが視線を向けると、マダラは端末機の画面とにらめっこしていた。


「何やってんだ? 話聞いてたか、お前?」


「え、ええと……すみません、あのオートマトンから抜いてきたデータが妙で……」


「妙?」


 二人もマダラの後ろから画面を覗きこむ。真っ黒な画面に、延々と文字と数字の羅列が表示され続けていた。


「……何だ、これ?」


「何かの数式……というか、電気信号を数値化したものみたいなんですけど、何のためのものやら……」


「よくわかんないけど、オートマトンを動かすためのデータなんじゃない?」


「そりゃ、そうなんだろうけど……でも、こんな数値は見たことないよ。まるで機械を動かすための信号には思えない……いや、これ、どこかで見たような……そうか!」


 ことりの言葉にハッとしたマダラが端末機を操作すると、画面が切り替わって波打つグラフが表示された。


「……やっぱりか! 道理で、健康診断を手伝った時に、見たことがあったと思ったんだ!」


 一人でしたり顔のマダラの頭をタチバナがぐいと押さえつけた。


「ぐえっ!」


「それで、これは結局何なんだ?」


 タチバナの手をそっとどかして、マダラが振り返る。


「……人間の脳を走る、微細な電気信号の波形だよ。多分、ものすごく精密なやつ。実際の人間からデータを取ってるんじゃないかな……けど何で、オートマトンから人間の脳のデータが出るんだろう?」


 タチバナは画面の向こうにある何かを睨んでいたが、ハッとして声を上げた。


「……そうか、“ペルソナダビング”……!」


 マダラとことりは、呟くタチバナの表情が強ばっているのを見た。


「……ペルソナ、何?」


「お前、言っただろう、実際の人間からデータを取ったんじゃないか、って。……“ペルソナダビング”ってのは人間の脳に小型チップを埋め込んで、脳波の精密なデータを取るんだ。そして、こいつを他人の脳にぶちこむ……」


 ことりはぞわり、とした不気味な予感に身を震わせた。


「……そうすると、どうなるの?」


「元の人格が消えて、チップに記憶された人間の人格に上書きされるんだ。もちろんこれは、人間の脳の話だ。けど、オートマトンの電子頭脳にも同じことができるんじゃないか……どうだ、マダラ?」


 話を振られたマダラは、「うーん……」と言って再び画面を睨む。


「確かに、不可能じゃない……と思う。電子頭脳は人間の脳ほど複雑じゃないから、コピー元の人間を完全に再現するわけにはいかないだろうけど。……でもおやっさん、俺、“ペルソナダビングな”んて、初めて聞いたんだけど」


「そうだろうな。タブーになってる旧文明の技術だし、そもそも失敗作だと言われているから」


「タブーは分かるけど、失敗作……?」


「コピー先の人間は、遅かれ早かれ人格崩壊を起こすからだ。廃人になるか、獣みたいに暴れまわるか……どうやってもうまくいかなくて、技術は封印された……」


 ことりは腕を組み、「ふん」と息をついた。


「……なるほどね、それでヨシオカのデータを取っておいて、オートマトンにぶちこんだんだ」


 マダラが顔を上げる。


「でも何で、そんな事を?」


「あのクソは、闇取引シンジケートの構成員だった。……バックアップを取るために、組織が用意したんじゃないかな」


「バックアップ……」


 そう言って考え込むマダラに、タチバナが模造麦茶のグラスを渡す。


「今回みたいにポックリ死んじまったら、取引相手の情報も裏金も全部おじゃんだからな。確実な情報源が欲しかったんだろうよ。データになれば、いくらでも手を入れて素直にしゃべれるようにできるだろう?」


 受け取った麦茶をすすり飲んでいたマダラは、顔をしかめてグラスを置いた。


「確かにできると思うけど……想像するだけで恐ろしいな……」


 ことりは再び、どかりとソファに腰かけた。


「死んだらみんなが喜んだクソヤロウだったし、ざまあないな、って感じ」


 タチバナは視線を逸らして麦茶のグラスを傾ける。


「……まあ、ひでえ奴だったってことはよく分かったよ。だからってこんな扱いをされていい、ってわけじゃないと思うがな」


「おやっさん、オートマトンを持って帰ったメカヘッドさん? にも、伝えた方がいいんじゃない?」


 タチバナは再びマダラに向き直る。


「いやダメだ。これ以上騒いでこのヤマがオープンになったら、俺たちもマズいことになる。軍警察のシマで他所の保安官が軍の粗探しするなんざ、本来越権行為もいいところだからな」


「そうかあ……まあ、向こうにも技術者はいるんだし、後は任せるしかないかな」


 マダラはぎしり、と椅子に背をもたれた。




 白い壁に囲まれた実験室に、銀色のオートマトンが置かれていた。全身にコードを挿され、壁際のコンピュータに繋がれていた。


 分厚いガラスの向こうで、白衣の研究者たちがモニターを見つめ、細かく変動する数字とグラフを観察している。


「……よし、接続完了だ。予備のボディが残ってて助かったよ」


「お疲れさん。……しかし、何なんだろうな、あの黒いオートマトン。“脳髄回路”は入ってなかったんだろう?」


「ああ……でも、残っていたメモリチップにきっと手がかりがあるさ」


 男たちはガラス越しに、ハンガーにかけられてうつむく義体を見た。


「このボディに入れて、どう反応するか……だな。……何にせよ、明日には結果が出るさ」


「そうだな」


 計器を操作していた男は、スイッチを一つずつ切っていった。


「よし、終わりだ。……飯にしよう、この辺りには飯屋がないのがよくない」


「仕方ないさ、人目を避けるには……」


「それもそうなんだけどな……」


 研究者たちが照明を落として部屋を出ていくと、稼働停止していたはずのオートマトンが微かに指先を動かす。センサーアイが妖しく、うっすらと赤い光を放ち始めた……

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