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スピンオフ;ナゴヤ:バッドカンパニー;13

ナゴヤ保安局・警ら隊チームと、反政府組織"明けの明星"……


全面対決の時が迫る……!

 ナゴヤ保安局が大攻勢計画を打ち出した翌日から、“明けの明星”は動き出していた。ヒサヤ・ブロードウェイの地表付近、旧文明期の“最終戦争”によって焼き尽くされた半地下部の遺跡に、巨大な構造物を作り始めたのだ。


 直方体のブロックが地上に顔を出さんばかりに積み上げられ、塔のような柱のような、城のような形をつくっていく。これまでは些細な活動の一つ一つにも律儀に声明を出していた“みかぼし”も、この要塞には沈黙を続けていた。




「ヒサヤ要塞はどうなっている?」


 朝の定例会議が始まるたびにそう尋ねることが、室長の日課になりつつあった。秘書官の一人が端末機を操作すると、ミーティング・ルームの壁に長く伸びた城壁が映し出される。


「監視カメラの映像によりますと、この数日間、外観には大きな変化はありません。しかし……これをご覧ください」


 映像が切り替わると画面の端に、黒い装束を身に着けたミュータントの一団が映りこんでいた。


「それは……コンテナか?」


 “明けの明星”の構成員たちは大きなコンテナを担ぎ上げている。映像の再生が始まると、灰色の大型コンテナはえっちらおっちらと要塞の中に入っていった。秘書官も映像を見て、そして手元の資料にも目を落としてから説明を続ける。


「要塞の建築が完了したとみられるこの数日間、コンテナが断続的に運び込まれています。内容物は不明ですが、相当量の物資が要塞に運びこまれているものとみられます」


「ふむ……続けたまえ」


「そして組織の幹部とみられるミュータント……“シルバースライム”、“アオオニ”と呼ばれる者たちが要塞に出入りしている場面も録画されています。裏付けは取れていませんが、何らかの作戦を進めているのではないかと」


 説明を聞きながら、室長は指先でコツコツとテーブルをつついた。


「組織の首領は?」


「未だ、姿は見えません」


「必ず現場に姿を現すものだと思っていたが、珍しいな……おそらくは、首領が現れた時が作戦決行のタイミングなのだろう。何をたくらんでいるのか、全く声明を出してこないところがいやらしい……」


 室長があごに指をかけて考え込むと、捜査官の一人が手を挙げる。


「室長、発言の許可を」


「構わん」


「それでは……オオス侵攻作戦はどうしますか? あの“ヒサヤ要塞”に運び込まれた物資の量からすると、反政府組織は要塞を拠点に、大規模な作戦行動に出ると思われますが……」


「確かに“ヒサヤ要塞”を無視することはできない。オオスを攻めたとして、挟み撃ちにされる危険もあるからな。だが……」


 言いかけて、室長はため息をついた。


「配備される予定の新兵器はどうなっている?」


 この数週間、“ヒサヤ要塞”と共に中央管制室を悩ませてきた、もう一つの懸案事項だった。秘書官は端末機の画面に目を落とす。


「ハーヴェスト・インダストリ本社からの報告では、発注までは予定通りに進んでいたそうです。ところが製造会社が動き始めた途端、機材が故障したり、原料が到着しないなどのトラブルが相次ぎ、作業が滞っている、と……」


「もう納品予定日は、とっくに過ぎているんだぞ! ……失礼、君に当たっても何も解決しないな。だが、ヒサヤ要塞も放置できない……」


 捜査官たちの視線を浴びながら、室長は腕を組んだ。


「仕方がない。反政府組織“明けの明星”攻略戦、目標地点をオオス地下寺院から、ヒサヤ城塞に移す。“トライシグナル”の新装備が完成次第、あるいは監視中の組織に大きな動きが見え次第、攻略戦を開始する。皆、緊急出動に備えてほしい」




 半地下となっているヒサヤ遺跡の上空は黒い闇に塗りつぶされ、砂粒のような星がちりばめられている。満点の星明りは、しかしネオンサインと立体広告の灯りに慣れたナゴヤ地下回廊の住人にとっては心細いものだった。


 黒々とそびえ立つ要塞から数百メートル離れた物陰に、監視カメラと周辺機器を仕込んだ偽装テントが張られていた。闇の中、黒装束に身を包んだ保安局員二人が、テントの中でうごめいている。


「……できたか? まったく、いつまでこんなところにいないといけないんだよ……」


 モンスター化した野生動物を警戒しながら、護衛役の局員が相方に声をかける。


「仕方ないだろ、この辺りには、電気は通ってないんだから。動作チェックも兼ねて、これだけは、人間が何とかしないと……」


 相方のメカニックは機材の前にしゃがみ込んで、暗視スコープを頼りに配線を一つずつ確かめていた。


「それは、分かってるんだけどさあ……」


「もう、ちょっとだから。あとはバッテリーを……よし!」


 メカニックは機材の大型バッテリー・パックを交換すると、古いバッテリーを掲げてみせた。


「交換できたぞ!」


「よし、今回も無事に作業完了だな」


 小銃を持った護衛役が息を吐きだすと、使用済みバッテリーをケースに収めていた相方が顔を上げた。


「おいおい、保安局に帰るまでが任務だろ。帰りも気を抜かないでくれよ」


 メカニックにとがめられて、護衛役は肩をすくめる。


「わかってるさ。けど、下の階層に降りるのに、そんなに時間はかかんないだろ?」


「まあ、そうなんだけどね……あ」


 立ち上がりかけたメカニックの目は、監視カメラの画面表示に釘付けになっていた。


「どうした?」


「……これ」


 護衛役も画面をのぞき込む。3つに分割された暗い画面のそれぞれに、ヒサヤ要塞が映し出されている。一つは遠景で要塞全体を、一つはシャッターが下ろされた入り口付近を、そして最後の一つは星空の下まで伸びる要塞の天辺を、それぞれ切り取っていた。


 メカニックが指さしたのは、要塞の屋上を映した画面だった。


「誰か……いる……?」


 平らな屋根の上に、小さな影がちょこんと立っている。人影の頭とおぼしき部分から、小さな妖しい光が放たれていた。


 護衛役は立ち上がって暗視ゴーグルを脱ぐと物陰から銃を構えて、暗視機能付きの望遠スコープを覗き込んだ。照準器の中央に光の粒を納めて、ひと思いに拡大ツマミを回す。


「何がいる?」


 望遠スコープがオートフォーカスで焦点を合わせていく。スコープから目を離さない護衛役に、メカマンが尋ねた。


 狙撃手は目を見開いていた。暗視スコープは要塞の天辺に立つ人物をはっきりと捉えている。丈の長いマントに身を包んで、軍帽をかぶった華奢な少女の姿を。彼女こそが恐るべき反政府組織の首領、“みかぼし”……。


「どうしたんだ? 狙撃できそうか?」


「……いや」


 スコープ越しに、女首領と目が合っている。“みかぼし”は凶星のように妖しく光る両目で保安局員を射抜き、楽しそうにクスクスと笑っているのだった。


「見られている……! 俺には、撃てない……!」


「ええっ! ここをか?」


 “みかぼし”は保安局員たちの出方を待つように、狙撃手のスコープを見つめている。




――引き金を引けば殺せる? ……いや、何故か弾が当たる気がしない。それに俺が、殺してしまっていいのか……? 殺してしまっても、殺し損ねても、ミュータントたちがどんな手に出てくるかわからない……。それにそもそも、奴らはこのカメラのことを知っている? 何故俺たちを泳がせているんだ……?




 狙撃手が固まりついていると、“みかぼし”は小首をかしげた「なぜ撃ってこないのかな?」と言わんばかりに。そして口の端を釣り上げてにやりと笑うと、狙撃手に向けてひらひらと手を振った。


「ご、き、げ、ん、よ、う」


 口を動かしてあいさつすると、女首領はマントを翻して夜闇の中に消えていった。




 翌朝早く、朝陽が遺跡に差し込む前に、警ら隊が要塞の周囲を取り囲んでいた。日が昇り、吹き抜けから見上げる白んだ空がオレンジ色に染まり、少しずつ薄青に戻っていく。


 晩秋の乾いた陽光がナゴヤの地表を照らし、半地下の旧ヒサヤ・ブロードウェイにも光を落とす。城壁を遠巻きに囲む、警ら隊の盾の壁がピカピカと輝いた。




「『反政府組織“明けの明星”に告ぐ!』」


 警ら部隊の列の前に立った赤池ソラが、拡声器を口に当てて声を張り上げる。


「『あなた方には武装拠点の建設、並びにテロ行為を計画しているという疑いがあります! 直ちにこの建築物を解体し、組織の代表以下、主要構成員は保安局に出頭して取り調べを受けること! さもなければ、ナゴヤ保安局は実力行使に移ります! 保安局からの通達は以上! 速やかで誠実な応対を求めます!』」


 要塞は静まり返っている。ソラのインカムに通話回線が開き、保安局本部に詰めている室長が話しかけた。


「『私だ。どうだ、相手の反応は』」


「はい、赤池です。反応は……今呼びかけたばかりなので、なんとも……」


 拡声器を下ろしたソラが直立して答える。


「『そうか。いつでも踏み込めるように、準備をしておくように。それで、だな……配備予定の新兵器は……』」


 話しかけた通話口から、室長の深いため息が聞こえてきた。


「『各部の製造を請け負ったプラントが、一斉に正常稼働をはじめたという知らせが入ってきた。……このタイミングで、だ』」


「そうでしょうね。間違いなく、“明けの明星”が関わっています。クラッキングされていたんでしょう」


 ソラは要塞を睨みながら返した。


「『そうとしか考えられんが……信じられん、これだけの規模に一斉攻撃を仕掛けるなど……』」


 室長は困惑した声を漏らすが、ソラは確信を持っていた。一緒に通話回線を開いて話を聞いていたキヨノもヤエも、引き締まった表情で要塞を見上げている。




――間違いない、彼らだ。“みかぼし”の仕業だ。今も視線を感じる。こちらを見ている。様子をうかがっている? それとも何か、目的が……?




「『奴らがどういう目的を持っているのか、何をするつもりなのか、私にはまったく想像もつかない。……現場での作戦行動は、交戦経験の多い“トライシグナル”の戦術をすべてに優先するものとする。中央管制室本部は警ら隊の統率と、なるべく早く、新兵器を君たちに送り届けることに全力を注ごう。……“トライシグナル”、よろしく頼む』」


「了解!」


 三人娘が敬礼した途端、雷のような金属質の低音が遺跡の広間に響いた。


「『何だ?』」


「これは……?」


 室長が困惑する。ソラも驚いて、辺りを見回した。キヨノは冷静に、響き渡る音色に耳を傾けていた。


「銅鑼のようね」


「ドラ? あの、楽器の?」


 要塞を見上げていたヤエが目を見開いて、城壁の天辺を指さした。


「ソラちゃん、キヨノちゃん、あそこ!」


 青空に向かって伸びる太い柱の上に、長いマントの人影がぽつんと立っている。保安局員たち全てを捉えんと、凶星のような瞳を妖しく輝かせて。


「……“みかぼし”!」


「『あれが……か。報告では聞いていたんだが、本当に若いんだな』」


 これまでは“ニューロウェイブ”のハッキングにより正体を知ることができなかった室長が、感心して声をあげた。


「外見に騙されてはいけません。彼女こそが、“明けの明星”のボスです」


「『しかし、何故勿体つける? 連中も追い詰められているのか……?』」


「そんなこと、ありえません。間違いなく裏があります」」


 ソラは断定的に返して、“トライシグナル”変身用のIDカードを取り出した。


「この要塞も、警ら隊に包囲された状況も、全て彼女の策略の内です。絶対に何か、企んでいる……!」


「『それほどなのか……?』」


 キヨノも、ヤエもIDカードを構えて“みかぼし”を睨みつける。女首領は三人娘の視線を受けとめて見下ろし、口の端を持ち上げて笑った。口をパクパクと動かすと、同時にソラ達のインカムから涼やかな声が入り込んできた。


「『あら、あなた方が方針を決めるまで、待っていて差し上げたのだから、感謝してほしいぐらいですのに』」


「『保安局の通話回線に侵入されている! こちらの通話内容も、傍受されているだと……!』」


「驚くに値しません。きっとこちらの作戦をすべて聞き出そうとしていたんでしょう。室長、クラッキングには細心の注意を払ってください!」


 ソラは室長に向けて話しながら、IDカードを“変身用リストバンド”にセットしていた。キヨノとヤエも並んで、変身準備を済ませている。三人はカードを装着した手首を、天に向かって高く掲げた。


「変身!」


「『承認。変身シークエンスを開始します』」


 リストバンドから電子音声が応えるとポップな音楽が流れだし、瞬く間に三人娘の全身を、目がくらむような光が包み込む。音楽が終わるとともに、娘たちはぴっちりとしたスーツとヘルメットに身を包んでいた。


「『変身完了』」


「“赤い閃光、シグナルレッド”!」


「“黄色い電光、シグナルイエロー”!」


「“緑の燐光、シグナルブルー”!」


 電子音声が告げると三人は“みかぼし”に向かってそれぞれ名乗りをあげ、大振りのアクションでポーズを決めた。


「私たちはナゴヤを守る、三つの光! “警ら戦隊、トライシグナル”!」


(続)

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