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第22話「聖女の施療院」



 一日と空けずに訪ねてきたマリスに子供たちは概ね好意的な態度をしめしてくれた。少し離れた場所で控えているヌルの姿を見つけたビートが僅かに体を固くした程度。


「ねーちゃん、毎日暇なのかよ」


 緊張をほぐすかのように軽口を叩いてくる少年の頭をつい撫でてしまう。「な、なにすんだよ!」と払いのけられてしまったけれど。


「これからすぐに忙しくなりますよ」


 マリスはにっこりと微笑んだ。


「なんでさ?」

「施療院を建てます」

「は?」


 ビートは「何言ってんのこいつ」みたいな顔をしてマリスを見た。


「施療院ですよ。私の治癒の力を使う場所です」

「ねーちゃん、治癒魔法なんて使えるのか?」

「魔法ではないのですけれど……」

「マリス様は魔王様より四天王に任じられた治癒の聖女様なのです」

「は?」


 ビートは再び「何言ってんのこいつ」みたいな顔をして、今度はヌルを睨んだ。


「魔王サマの配下が今更こんなとこに来るわけねえだろ。ずっとほったらかしだったのに。お前だってそうじゃないか……うわっ!?」


 喚くビートを横からマリスが抱きしめた。


「もうほったらかしになんてしませんから」

「はっ、離せよねーちゃん!」


 暴れるビートを押さえつけるように、けれど優しくマリスは力を込めた。意外な腕力に驚いたビートがおとなしくなるまでそれほど時間はかからなかった。


「ヌルさんの仰った通り、私は魔王様の四天王のひとりです」

「マジなのかよ」

「マジですよ。最近は城下でも結構認知されてきたと思っていたのですけれど、自惚れが過ぎましたね」

「四天王で、聖女様のねーちゃんは俺たちがかわいそうだから施しをしてくれるってか?」


 憎まれ口などマリスは一顧だにしない。彼の今日までの苦労を思えば罵倒されるくらいどうということもない。マリスは自身をもはや聖女だと思っていなかったけれど、彼女の有り様は聖女として模範ともいえるものだった。


「しませんよ」

「あん?」

「施しなどしません。タダで与えてあげられるほど私も余裕があるわけではないのです」

「四天王なのに?」

「四天王も大変なんですよ」


 と笑った。四天王の立場を魔王から授かったものの、何をすべきなのかどうあるべきなのか、マリスはわからないでいた。「好きにしろ」「自由にしていい」と言われても、彼女の聖女としての経験の中にはそんなモノは存在しなかった。


「……はじめてのことなので上手にできるかわからないのですけれど」


 不安と期待が胸中で混淆している。

 マリスはヌルやビート、子供たちに頭を下げた。


「手伝っていただけませんか?」





 こうして子供たちの協力を得て、マリスの施療院は竜災の被害地区の中ではまだしもマシな場所に設けられた。「院」とは名ばかりの、崩れた建物の基礎部分を利用して柱を立てて天幕を張っただけの粗末な作りではあったが、ともあれマリスの四天王としての仕事ははじまったのだった。


 たとえ貧相な設えの施療院であっても、魔王の病を快癒せしめ空席だった四天王の座についた聖女の名前に惹かれ足を運ぶ者はいた。

 かつて歴代最高峰とまで謳われたマリスの治癒の力は紛れもない本物であっただけでなく、傷や病の大小に関わらず献身的な対応をする姿に感銘を受けた魔界の住人は家族や知人に聖女の話を伝えた。



 施療院の前に列ができるようになるのに、然程(さほど)の時間は必要なかった。


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