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第21話「聖女と四天王の仕事」


 魔王とバルコニーで話をした翌朝。


 ヌルがいつもと同じ時間に朝食を運んできた。いつもの挨拶、いつもの所作、いつもの淡々とした態度。ただ、いつもの無表情が少し違ってみえた。どこか冴えない表情。


「お加減が宜しくないのですか?」

「御心配には及びません」


 マリスの指摘をヌルは否定した。

 逆に、


「マリス様こそ、あまり眠れなかったのではありませんか?」


 と言われてしまった。

 事実、夜更かしはした。その後も寝つきは悪かったのだ。目の下に隈ができているのも知っている。寝不足で顔色はあまり良くないマリスだったが、気分は高揚していた。


「そうですね」


 ヌルの問いに肯定する声色は明るかった。

 やるべきことがはっきりしたからだ。

 昨夜のバルコニーで魔王から受けた仕事。


「ヌルさん、朝食はもうお済みでしょうか」

「はい」

「それなら良かったです。私も手早く食べますから、終わり次第外出します。一緒に来ていただけますか?」

「承知しました。今日はどちらへ?」

「昨日と同じです」

「……城下ですか」

「いいえ」


 マリスは否定し、はっきりと行き先を口にした。


「あの遺棄された地区です」

「……」


 ヌルの無表情が僅かに強張ったことにマリスは気付いていた。昨日の今日でまたあの場所に顔を出すのは気が進まないのだろう。自分がヌルの立場であれば同行を拒否するかもしれない。


「私も城下には慣れましたから、ひとりでも大丈夫ですよ」

「いえ、行き先がどこであれお供いたします」

「あの、無理しな――」

「大丈夫です。問題ございません。マリス様をお護りするのが私の仕事ですので」


 食い気味に言葉を被せられ、マリスはそれ以上は何も言わなかった。大丈夫だ、仕事だ、と告げるヌルが心配ではあったけれど。






 魔王の宮殿を出て城下を往くふたりの足取りはいつもより重たかった。

 マリスの少し前で先導するヌルの歩幅が狭く、速度も遅い。ほんの僅かな違いだった。おそらく本人は気付いていまい。


「ヌルさん」


 マリスは歩調を速めてヌルの横に並ぶ。

 こちらを向いたヌルににっこりと微笑みかけた。


「昨夜魔王様からお仕事をいただきましたのでお伝えしておきます。私の四天王としての最初のお仕事です」

「それは、おめでとうございます」

「ありがとうございます。そのお仕事をヌルさんにも手伝っていただきたいのです」

「私にできることでしたら、なんなりとお申し付けください」

「ヌルさんならそう言ってくださると思っていました」

「――仕事の内容をお聞きしてもよろしいですか?」


 マリスはヌルの問いかけに非常に端的に答えた。


「竜災によって遺棄された区画の再建です」

「え……」


 言葉を詰まらせるヌルに構わず、マリスは話を続けた。


「まずは施療院を建てようと思っています。城下には怪我や病気で苦しんでいる方が大勢いることはよくわかりましたので、需要はあると思います」

「あの……」

「本来であれば慈善として行うべきことなのですけれど、幾らかでもご寄付をいただければいいな、って。魔王様が『予算は無い』と仰ってましたから、自力で稼がないといけないのです」


 神の許しと民の寄進を期待してしまう自分はとても浅ましい。そうは思えど、やることにためらいはなかった。


「その……」

「そうそう! 施療院には孤児院も併設するんです! ビートさんたちに住んでいただけるように!」

「マリス様……!」

「あ、ごめんなさい。ひとりで盛り上がってしまって」

「そうではありません」


 ヌルは足を止めて、深々と頭を下げた。


「えっ、あの、ちょっとヌルさん?」

「ありがとうございます、マリス様。魔王様に雇われているこの身ではありますが、生涯をかけてご恩に報いる所存です」


 ヌルは震える声でそう告げた。内容の重さにマリスは慌てた。


「あのですね、このお仕事は魔王様からのご指示なので、恩に報いるだとかそんな風に思いつめなくて大丈夫ですから!」

「マリス様が魔王様に口添えしてくださったのでしょう」


 ヌルはきっぱりと断定した。実際のところはそんな恰好のいいものではなく、愚痴、泣き言の類だったのだと、マリスは昨夜の出来事を思い出し赤面する。


 往来の真ん中で頭を下げる魔族と、頭を下げられ顔を赤くした人間。そんなふたりが、通りすがりの者たちに好奇の視線を向けられていることに気付くまでもうしばらく時間が必要だった。


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