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第19話「聖女と過去のいきさつ」


 マリスはビートと並んで大きめの瓦礫の上に腰掛けた。

 少し離れたところで他の子供たちが遊び始めたのを眺める。


「ビートさんは、ヌルさんとはどういったご関係なのですか?」

「あいつも昔は……ここに住んでたんだ」


 ビートは足元に視線を向けたまま小さな声で呟いた。


「ヌルさんも、ですか?」

「うん……。竜災に遭った時、俺はまだ全然小さくて、気が付いたら親は死んでて、家もなくなってた。でも、そんなヤツはいっぱいいたんだ。あいつも俺たちと同じだった」


 マリスの竜災に関する知識は書物と伝聞しかなかった。今、目にしている廃墟さながらの遺棄された区画の光景こそがもっとも確かな情報なのだ。


「あいつは、俺や俺と似たような状況のガキを集めてまわったんだ。そんで一緒に暮らし始めた。何もかも無くしたやつらはみんな、あいつを頼りにしてた」

「そうだったのですね」


 ヌルも竜災の被害者だったのか。このビートたちと身を寄せ合って暮らしていた。彼女がこの子やこの区画に詳しいわけがやっとわかった。けれど、まだわからないことがある。ヌルがここからいなくなった理由がわからない。


「なのにあいつはいなくなったんだ」

「……いなくなったとは、どういう意味なのですか?」

「そのまんまさ。あいつは魔王様の宮殿に召し上げられたんだよ。もう何年も前にな」


 ビートは下唇を噛んでいた。


「……あいつは、ココと俺たちを捨てたんだ」

「捨てただなんてことはないと思いますよ」

「ねえちゃんに何が分かるんだよ!」

「私の知っているヌルさんはそんな薄情な方ではありません」

「……」

「先程、ビートさんに財布を渡そうとしていましたよね」

「それは――」

「ビートさんたちを捨てるような人でしたらきっとそんなことはなさらないですよ」

「知らねーよっ!」


 ビートはマリスの横から離れ駆けていってしまった。

 手を伸ばそうとして、やめる。

 ビートは遊んでいた子供たちの輪の中に入っていった。子供たちが彼のしがみついたりよじ登ったりしているのを邪険にしつつも受け入れているのを、マリスは微笑ましく見守っていた。優しい子だな、と思う。


「私は、余計なお節介をしてるんでしょうか」


 ぽつりと呟き子供たちを眺めていると、いつの間にかヌルが帰ってきていた。


「ただいま戻りました、マリス様」


 ヌルはパンや果物を抱えきれないほど買ってきた。


「いっぱい買いましたね」

「申し訳ございません」

「私がお願いしたことですから」


 マリスは半分受け取ると、子供たちの輪へと近付いていった。

 立ち尽くしているヌルに振り返り、


「ヌルさんも来てください」

「――はい」


 ふたりは手分けをして子供たちに食べ物を配った。少し離れた場所でそっぽを向いていたビートも、マリスが近付いて差し出すと躊躇いがちに受け取ってくれた。


「……ねーちゃんだから受け取ったんだからな」

「はい。ありがとうございます」


 マリスが満面の笑顔で礼を述べると、ビートは鼻を鳴らした。

 唇を尖らせて、


「変なねーちゃんだな。食いモン渡した方がどうして礼を言うんだよ」

「ふふふ。どうしてでしょうね?」

「……ありがとう、ねーちゃん」

「いいえ」


 沢山あった食べ物はすぐに配り終えた。受け取った子供たちもあっという間に食べてしまっていた。食後の運動とばかりに遊び始めている子もいた。


「マリス様」


 マリスと同じくすべて配り終えたヌルがやってきた。隣を見ると既にビートの姿は無かった。少し残念に思った。


「買出しありがとうございました」

「いえ」

「あの」


 マリスはやや躊躇いがちに切り出した。


「ヌルさんは、あの子たちと一緒に暮らしていたんですね」

「はい」

「ビートさんが話してくれたのです。黙ったままでいるのは良くないと思って、お伝えしました」

「お気になさらず。そうですか。ビートはそんなことまで話しましたか」


 ヌルの無表情が揺れているように、マリスには見えた。

 感情の見えにくい彼女だが、感情がないわけではないのだ。


「マリス様には人の心を開かせる何かがおありのようです」


 ヌルがポツリと呟いた。


「私とは違います」

「そんなことないですよ」

「いえ、ビートが私への態度を変えることはありません。ええ。私がここを、彼らを、見捨てたのは事実なのですから」

「見捨てたなんてことはないのではありませんか? 今日だって財布を渡そうとしていたじゃないですか」

「受け取ってはもらえませんでしたが」

「今日だけではなく、ずっと子供たちの援助をしているのではないですか?」

「……」


 マリスは確信を持って尋ねたが、ヌルは無言を返すだけだった。

 しばし見つめ合ったのち、ヌルはくるりと背を向けた。


「帰りましょう」


 何も言葉を返せず立ち尽くすマリスに、ヌルは言葉を重ねる。


「さあ、日が暮れる前に。帰りましょう」

「……はい」


 マリスは先にゆっくりと歩き出したヌルを追った。

 廃墟同然の遺棄された区画から魔王の宮殿へ、とぼとぼと帰途についた。

 


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