第15話「聖女と貢物」
その日、魔王の宮殿に届け物があった。
一階広間にうず高く積み上げられたのは大量の果物であった。
慶事を祝うかの如き量。門番の兵士や小間使いがどんどんと届けられる果物を受け取り続け、今やちょっとした山のようになっている。
山ができていく様子を目の当たりにして、魔王は絶句していた。
丁度通りがかったカメリアを捕まえて、
「カメリアよ。一体何の騒ぎだこれは?」
「貢物が沢山届いているみたいですよ~?」
「……貢物だと?」
一瞬「儂の快癒祝いか?」と口にしかかった。
「正確には御礼みたいですけどね~」
「御礼……?」
「マリスちゃんが、城下で病人を治療したとかで~。その御礼みたいです~」
「ほ、ほう」
自意識過剰なことを口にしなくて良かった、と魔王はこっそりと胸を撫で下ろす。
「当のマリスはどこにいるのだ?」
「マリスちゃんなら今日も城下にお出かけみたいですよ~」
「護衛はつけておるのか?」
魔王はやや食い気味に過保護な発言をした。
カメリアはにんまりと相好を崩して、
「ヌルちゃんが一緒です~。ご安心くださいな~」
「ならばよいか」
「マリスちゃんってば真面目よね~。四天王としてやるべきことは何かとか考えてるみたいで~。私やシャルムのところにまで話を聞きに来たんですよ~」
「もっと太平楽に過ごしておればよいものを……」
「魔王様がそう言ってあげればいいのに~」
「過干渉なのもよくなかろう」
おっとお父さんかな、と思ったが口に出さない程度の分別はカメリアにもある。あはは~と笑うに留めておいた。
「四天王の役職など与えるべきではなかったか。だが、恩には報いねば他への示しがつかぬしな」
「信賞必罰ですか~。魔王様も真面目ですね~」
「カメリアはもう少し真剣であるべきだろうな」
「あら~?」