第13話「聖女の人生」
カメリアのサンルームを辞した後、マリスとヌルは三人目の四天王――ジュウベイを探して宮殿内を彷徨したが、結局見つかずじまいだった。
「……」
「ジュウベイ様はどうやら外出なさっているようです。――マリス様?」
「あっ、はい!?」
マリスは心ここにあらずといった様子でヌルの言葉を聞き流してしまっていた。
「ジュウベイ様は外出中のようです」
「そうなのですね」
マリスはシャルムとカメリアの仕事ぶりを反芻していた。ふたりはやるべきこととやりたいことを見定めて、自分の意志で働いていた。表情には自信とやる気が満ち溢れていた。
自分とは違う、と強く感じた。
それぞれが選び決めたことに全力を傾ける姿勢は、マリスには無いものだった。
マリスにも力はある。マリスの持つ癒しの奇跡はおそらく地上唯一の、最高レベルの、神に連なる力だ。だが、これまでほとんど無自覚にその力を行使してきた。聖女の務めというお題目に流されるまま、言われるままに日々を過ごしてきた。
人々に癒しの奇跡を施すという行為自体は正しいものだ。
今でもそう思う。
人々の役にたっただろうし、実際感謝もされた。
だが、自分の選択の結果ではないのだ。人々を癒したことも、感謝されたことも。いずれも自分の意志よりも先に自分の立場があった。
今になって、
魔界に来て、
はじめてマリスの中で魔界に来て、疑問が募る。
疑問は言葉を紡ぎ、吐きだされた。
「私の人生って正しかったんでしょうか……」
「重っ……んんっ、失礼しました」
ヌルは強めの咳ばらいをして誤魔化した。
無表情のヌルがそのまま本音を漏らしてしまうほど、マリスの発言は重かった。ヌルは動揺する気持ちを辛うじて抑え込みつつ、記憶している側付きメイドの作法を総ざらいした。
中途半端な慰めは無意味。
叱咤激励は現状不適当だ。
甘やかすのは得意でない。
なので、
「――気分転換をなさってはいかがでしょうか」
比較的安易な、現実逃避を提案することになった。
だって重いんだもの。ヌルも年若い少女なのだ。人生の正しさ、みたいな話には対処しきれるほどの人生経験は備わっていない。そもそも正しい人生とは一体なんなのだろうか、とすら思う。
「ジュウベイ様を探しがてら、城下をお散歩なさっては?」
「……それは、良いかもしれませんね」
やや薄い反応ながらもマリスの承認を得て、内心ほっとするヌルなのだった。
すみません。今回短めです。