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北方元寇秘録  作者: 大澤伝兵衛
第3章「大陸侵攻戦」
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第49話「ニコーロ=ポーロ再び」

「くっくっく。ここまで上手くいくとは思わなかったぞ」


 時光は悪い顔で笑いながら、奪い取ったばかりのヌルガン城の中を見回りながら歩いていた。横には丑松やグリエルモの様な時光と個人的な繋がりのある人間、そしてアイヌの様な時光の指揮下で戦う民族の代表格達が並ぶ。


「まさか村の近くで火を付けて騒いだだけで、ノコノコと出撃してくるとは夢にも思いませんでした。見捨ててしまえば良かったものを」


「ふふ。考えてもみろ。この辺りが蒙古の支配下になったのは最近の事で、周辺の民は十分に心服していない。この様な状態で民を見捨てたら、悪くすれば反乱、そうでなくても今後の税の徴収に影響があるだろう。奴らはカラプトに遠征している最中だ。本拠地の経営を破綻させるような事は出来なかったのだろうさ」


 まるで、領地経営や作戦に影響がなければ民を見捨てるのが当然、と言わんばかりの鎌倉武士二人の会話に、純朴な北方の民達はドン引きだが、思考の範囲に冷酷・残虐な行為を含めているだけで、実際にそこまで酷いことはしないだろうとのある種の信頼はある。


「おっ。捕虜が大漁だな。どうしたものかな?」


 時光達は城の広場にやって来た。そこにはこの城を防護していた蒙古軍の兵士が捕虜として地べたに転がっていた。何人かを組として丈夫な縄で数珠つなぎとなっており、逃走がしにくくなるように処置されている。彼らの周りは武装したカラプト軍の戦士が警戒しており、もし逃げようとしたら武装解除された蒙古軍の兵士はたちまちに殺されてしまうだろう。


 その数は数百、時光達と同等である。


「少し数が多くないか? こいつらを管理するのは少し骨だぞ」


 ニヴフの代表格であるホトボンが心配そうに言った。逃走を防止する措置が取られているとはいえ、確かに味方とほとんど数が変わらないのは問題だ。何かあったらそれを防げたとしても被害が出てしまうかもしれない。それに多い捕虜は食料も大量に消費する。


「食料は十分のようですぞ。先ほど倉庫に行って確認しました。」


「数千の軍勢の本拠地だから、そういうもんかもしれないな。では問題は純粋に警備の話だな」


 捕虜たちの周囲を歩き回りながら少し考えた後に時光は、ぼそりと言った。


()()()か?」


 捕虜たちの多くに不安の色が広がる。わざわざモンゴル語で非道な内容の独り言を言ったのだから質が悪い。


「まあ、大人しくしているのであれば、そんなことはしないけどな」


 脅しの後に少し温情を見せることで、抵抗する気をなくさせようという作戦である。捕虜を皆殺しにするという行為は、一見後腐れが無いように見えるがそうとばかりは言い切れない。後に禍根を残すことになり、残った敵や一族による復讐を招くことにもなる。


 現在の情勢としては、蒙古軍は宋王朝の攻略や日本の九州方面への侵攻準備にその力を注いでおり、この地域における戦いは局地的なものである。無暗に争いの規模が拡大しないように、時光が注意を払ってきた成果でもある。


 もし、元王朝がその力の矛先をこの地域に向けたとしたら、カラプトや蝦夷ヶ島も一挙に攻め落とされてしまうだろうし、準備の整っていない北からの蒙古襲来に日本の武士は抗いきれないだろう。


 つまり、ここは穏便に済ませ、蒙古軍の本格的な軍事行動を招かないのが得策なのである。現在進行中のプレスター・ジョンと呼ばれる蒙古人による大規模な攻撃は脅威であるが、まだ元王朝の本気とは程遠いはずだ。


 加えて、捕虜の中にはこの地域で雇われた民族も混じっている。もし彼らを無残に虐殺すれば、この地域の民の容赦のない報復が待っているだろう。


 結論としては捕虜を皆殺しにするなどは兵法上あり得ないのだ。


 なお、ここまで皆殺しについて否定的な事を記述して来たことに水を差すようだが、この時代の鎌倉武士達は敵対した一族を何のためらいもなく()()していたりする。時光に従う丑松も元はれっきとした武士だったが、昔一門衆がほとんど殺された結果、撓気氏に使えるようになり、今は撓気氏の十四男である時光と行動を共にしている。


 それはともかく、時光はその様な行動はとらなかった。


「おや? そこにいるのはニコーロさんとマフェオさんでは?」


 捕虜たちの周りを歩いている時に、時光は見慣れた顔が混じっているのに気が付いた。この東方世界では珍しい赤毛と青い目、ヨーロッパ出身の人間であることが見てとれ、彼らはかつて時光と行動を共にした者達であった。


 ニコーロ=ポーロとその弟のマフェオ=ポーロである。


「久しぶりですね。ニコーロさん。マフェオさん。故郷の……ヴェネツィアに帰ったと思ってましたよ。あ、でもまたこちらに商売しに来るって言ってましたっけ」


「そうですよ時光さん。一旦故郷に戻った後、また色々と商品を仕入れて旅をしてきて、縁があってこの城にいたんですが、まあ巻き込まれてしまいまして」


「そうですか。戦の最中の事です。悪く思わないでください。ああそこの。彼らの縄を解いてやってくれ。知り合いなんだ」


 時光の指示でその場にいたアイヌの戦士がニコーロ達の縄を解いた。かつてアイヌの本拠地である蝦夷ヶ島においてアイヌの集落が危機に陥った時、時光と協力して西方の赤い髪をした人間が助けてくれたのはアイヌの間で知れ渡っている。習慣的に恩義に厚いアイヌの戦士は、丁重に縄を解いてやった。


 ニコーロ達はかつて時光と協力して蒙古の斥侯を打ち破った経験がある。また、つい最近大陸を東西に横断しており様々な情報を知っているはずである。彼らも交えて今後の方針について話し合う事になった。

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