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北方元寇秘録  作者: 大澤伝兵衛
第1章「安藤五郎討伐」
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第12話「イクスンペツの黒い石」

 宴が終わった翌朝、時光達はすぐに次の目的地であるイクスンペツに旅立った。


 イクスンペツはイシカリの集落(コタン)から東へ、約二日進んだところである。その地で昨晩見た竜の顎が見つけられたらしい。


 蝦夷代官職という地位にありながら、国を守るどころか蒙古に寝返った安東五郎は、イクスンペツの地で蒙古と共に行動しているはずである。時光達としてはそれを阻止、更には蒙古を殲滅するとともに安藤五郎を討ち果たさねばならない。


 なお、今回の出撃は昨日のテイネ金山に向かった時とは違い、アイヌの戦士団を引き連れている。テイネ金山の場合は、情報収集が主たる目的だったので、必要最小限の人数で行動したのだ。もっとも、敵の数が少なかったこともあって、最終的には殲滅戦になってしまったのだが。


 今回も当初は偵察なのだが、予想される敵は騎乗している武士である安藤五郎に加え、蒙古が三十人であり、昨日の五人に比べると格段に多い。少数では勝利を望むのは無謀であろう。


「エコリアチよ。こっちだ。この川がイクスンペツの川でこれを遡って行くと見ての通り山になっている。あの山のどこかに、その竜の顎とかいう物が埋まっていたんだろう」


 アイヌの戦士団の中には、このイクスンペツの出身の者がいたので案内役になってもらった。地理に詳しい者がいるのは非常に助かる。異国からやって来た蒙古は当然蝦夷ヶ島のことは良く知らないだろうし、蝦夷代官職の安藤五郎ですら彼の勢力圏である箱館周辺外の知識には乏しいだろう。地形について熟知しているというのは、戦いにおいてはその勝敗を左右する重要事項である。これは今後蒙古とやり合うことになってもある程度有利に事を進めることが出来そうだ。


 当初、イクスンペツのコタンに寄ってみるという事になった。イクスンペツの辺りで蒙古が活動するという事は、テイネ金山で付近のイシカリのコタンから労働力を徴発したのと同じ状況が生起している可能性が高い。逆に集落で何も起きていなかったら、目的地をこのイクスンペツに設定したこと自体が間違っているので、再度目的地を変更して蒙古の足取りを追わなくてはならない。


「もぬけの殻だな……」


 イクスンペツのコタンにたどり着いた時、オピポーが静かに言った。オピポーの言う通り、コタンには人っ子一人いない。これはイシカリのコタンの時と同じような状況である。


 このコタン出身の戦士は、イシカリのコタンの事を聞いていたのである程度覚悟していたようだが、実際に変わり果てた自らの故郷の姿を見て茫然となった。エコリアチが彼の肩を叩き、少しでも不安を解消させようとしている。自然とこういう行動がとれるあたり、やはりエコリアチは次代の長になるべく研鑽を積んでいるのだろう。


 とりあえず、当座はこのコタンを拠点にしようという事になった。これから山の方に偵察を複数の組に分けて出さなければならないし、コタンに戻って来た蒙古に襲撃される可能性がある。


 コタンが蒙古の気まぐれで焼き討ちに合っていなくて本当に良かった。


 偵察を出している間、イクスンペツの長の家が臨時の指揮所になり、時光はそこに位置することにした。本当は直接偵察に行って、自分の目で確かめたいところなのだが、戦いの規模が大きくなればなるほど大将格は後ろにいるべきである。


 指揮所で待機しているのは、時光、エコリアチ、丑松、オピポー、それに加えて異国の旅人であるニコーロ=ポーロ、マフェオ=ポーロ、グリエルモである。


「皆大丈夫かな? もしも蒙古に見つかったらとてもじゃないが、勝てないだろう」


 時光の心配は確かにその通りである。アイヌは男の大半が狩猟に長けている。そして、狩猟に長けているという事は戦士に向いているという事だ。しかし、蒙古も同じく大陸で狩猟生活を送っており、戦士としての資質はアイヌを上回っているだろう。ならば双方がぶつかった場合、どうなるかは火を見るよりも明らかである。


「安心してください。トキミツさん。モンゴルは草原での戦いに慣れていますが、この様な山の中では我々の方が有利です。必ずや無事に戻って来てくれるでしょう」


 エコリアチの自信たっぷりな言い方に、時光は自分を安心させることにした。


 そして、心に余裕が出来たため、改めて自分たちが拠点を設けている家の中を見回すことが出来た。


 このイクスンペツのコタンも外部と盛んに交易をしているため、それを統括する長の家の中には様々な物品が所狭しと並んでいいる。


 その中に、妙な物が置いてあった。それは、人の頭位の大きさの石なのだが、その石の形は巻貝の形をしている。果たしてこのように巨大な巻貝は、今現在日本の周りに生息しているだろうか。


「もしかして、竜が生きていた時、この貝を食べていたんだろうか?」


 様々な想像をしながら、時光は更に辺りを見回した。並ぶ物品の中には、和人から購入したとおぼしき鉄製の刀等が置いてある。その他の物品も、時光の生まれ育った相模の国ではお目にかかれないような異国情緒あふれる品揃えだ。


「何だこれ? 石……なのかな?」


 家の中を見て回っている時、数々の綺羅星の如き品々に混じって妙な、そして小汚い物が置いてあることに気が付いた。


「石……? いや、どっちかって言うと……炭?」


 時光が発見した物は、黒い石の塊だった。


 この黒い石はその形状から、未だに日本では燃料として最も使用されている、木炭によく似ている。軽く叩いてみると、かなりの強度がある事が音や感触で分かった。


 強度がまるで違うが、よく似ているという事は、この黒い石にも火が付くんだろうか?


 時光がそんなことを考え、もしもこの石に火を付けたらどうなるのかなどと考え始めたころ、最初の偵察が帰還した。

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