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北方元寇秘録  作者: 大澤伝兵衛
第1章「安藤五郎討伐」
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第11話「竜の顎」

 テイネ金山での戦いが終わった後、時光達は拐われていたアイヌを連れて、彼らの住処であるイシカリの集落(コタン)に立ち寄っていた。


 連日の採掘作業で疲労しているものの、普段の狩猟採集生活で体は女子供に至るまで鍛えられているためか、命に別状がある様な者はいなかった。


 敵の中で生き残った安藤正之は、コタンまで引っ立てる事になった。この者は今回の件では人を殺していないので、処刑まではしなくても構わないというのがアイヌ側の意見であった。和人との今後の付き合いを考えての事かもしれない。


 収穫は他にもある。


 第一に蒙古が本国に送ろうとしていたであろう報告書を入手することが出来た。


 残念ながら時光一行にモンゴルの文字を解する者はいないので、内容の解読は後回しだが、大きな成果である。


 安藤正之によると函館にはモンゴルの文字を読める者がいるという事なので、今後翻訳を依頼する事になった。


 第二の収穫はテイネ金山で採掘された金である。


 この採掘にはアイヌの血と汗によるもので、喜ばしいものではない。しかし、手に入った物は有効活用すべきとのアイヌ側も含めた総意により、対蒙古の戦いで活用することになった。


 第三に馬が手に入った。


 時光は徒歩でもかなりの戦闘力を誇っているが、武士としての本分はやはり重装弓騎兵なのだ。更には丑松も今では撓気(たわけ)氏に仕えているが、元は独立した御家人の生まれである。彼も立派に馬を乗りこなすことが出来る。


 蝦夷ヶ島に馬を持ち込めずにいたのだが、これで武士としての真価を発揮することが出来るだろう。


 イシカリのコタンに帰ると、先ずは無事に戻れた事を祝って宴会になった。アイヌはなにぶんしばらくコタンから強制的に引き離されていたためあまり豪華な食材は出なかったが、交易で入手したであろう日本や大陸の酒が振る舞われたので、満足できる宴会であった。


 また、宴会の内容に関わらず、その感謝の念が時光にとっては嬉しかった。


 宴会もお開きになった後、今後の方針について話し合うことになった。会議に参加するのは、時光一行に加えてイシカリのコタンの長もである。彼はエコリアチの父親である。今では年老いて痩せこけているものの、若い頃には偉丈夫であった事は骨格から察せられる。しゃべり方も矍鑠(かくしゃく)としていて、流石一つの集落を治め、和人などのアイヌ以外の勢力と対等に渡り合ってきただけの事はあると思わせられる。


 エコリアチも数十年たてば長のように年老いて行くことだろう。


「それでは、安藤五郎や蒙古どもがどこに行ったのか、特に情報はないのですね?」


「うむ。すまないが見当がつかぬ」


 主要な議題は、安藤五郎と蒙古が今、何処にいるのかである。


 安藤正之が吐いた情報によると、安藤五郎は蒙古についてきた漢人が見つけた、「金よりも興味深い物」を探しに三十人の蒙古勢を連れてどこかに行ってしまったという。


 漢人が見つけた物は何なのか、何処にあるのかは聞かされていないとのことだ。蒙古兵の新鮮な血がこびりついたモーニングスターの(とげ)を見せつけながら問いただしたのだ。これ以上は知らないだろう。


 何処に行ったのか分からなければ、安藤五郎達を倒しに行くことも出来ない。函館の港で待ち伏せていれば戻ってきたところを襲撃できるかもしれないが、函館は安藤五郎の勢力圏だし、蒙古は取り逃がしてしまうかもしれない。そして、彼らが探している何かを見つけた時点で手遅れになってしまう可能性だってある。


 となると、やはり捜索と撃滅のために行動することが必要なのだ。


「何でもいいんです。何か奴らに聞かれたりしたことはありませんか?」


「とは言ってもな……ん? 待てよ」


 長は何かを思い出したらしく、家の外に出て行き、しばらくすると何かを抱えて戻って来た。


「親交のあるコタンから送られたものでな。オヤウカムイの頭蓋骨だと彼らは言っておったよ」


「これはまさしく、竜の(あぎと)!」


「ドラゴンですかな?!」


 時光とグリエルモはそれぞれ長の持ってきた物を見て、印象を口にした。


 長が持ってきた物、それは一抱え程もある大きさの動物の石化した頭蓋骨で、その大きな口は人間の頭を一口で喰らってしまいそうなほど巨大だった。また、その口に生えている歯は子供の掌ほどもある。そして頭蓋骨はどことなくトカゲに似た雰囲気をしている。


 これぞまさしく、洋の東西を問わず伝承され、崇敬を集め、または恐れられてきた竜と言っても良いだろう。


「竜? ああ、そうですな。オヤウカムイは我々アイヌに伝わる竜の姿をしたカムイですよ」


「この竜の顎が蒙古達と何か関係があるのですか?」


「ええ。奴らの中には漢人が混じっていましたが、このコタンを襲撃して来てあちこちを漁った時にこの骨を見つけて、この骨をどこで見つけたのかとしつこく聞かれました」


「それで、どう答えたのですか?」


「答えても問題ないと思いましたし、集落の者が危険に曝される危険もあったので、正直にこたえました」


 時光は目の前に置かれた竜の顎を見ながら考え込んだ。どう考えても安東五郎や蒙古が探しているのは、この竜の顎に関する何かである。しかし、一体何に使うのであろうか。それは金よりも価値があることなのだと言う。


「もしかしたら、奴らは竜を目覚めさせて戦いに利用しようとしているんじゃないか?」


「ふーむ? これが竜なのかはともかく、こういう動物がいることは確かですな。こいつを使役できれば象兵のように強力な戦力になるでしょう。言わば竜兵ですな」


「ドラゴンはサタンの化身であり手先でもある邪悪な存在。是非滅ぼしましょう」


 時光の意見は突拍子もないものであったが、商売のために世界を旅して様々な知識のあるニコーロは、それがあり得るかもしれないと賛意を示した。


 グリエルモが言っている()()()なる存在は時光には理解できなかったが、恐らく釈迦の修行を邪魔しようとしたマーラの様な存在を言っているのだろうと自己補完した。


 サタンもマーラが釈迦にしたのと同様、若き日のイエスを誘惑したと伝えられているので、実際時光の考えていることは偶然にも真実に近い所であった。


 もっとも、グリエルモがそれを聞いたら邪教と一緒にするなと激怒したことであろうが。


 結局、竜の顎が見つかった場所に行って、安東五郎と蒙古を探すことに決まった。安東五郎と行動を共にする蒙古は三十人とかなりの数である。安藤正之の証言によると安東五郎以外は馬に乗っていないので、騎馬民族としての真価は発揮できない。しかし、十分強力な相手であることは間違いないので、エコリアチと一緒に戻って来たアイヌの戦士達も今回は行動を共にすることになった。


 向かうその先はイクスンペツとアイヌに呼ばれている地である。

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