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3話 天才貴族様

 勉強が終わる頃には既に一時間を超えていた。


「こんなんで未来が変わるのかよ……。」


 あっさりと未来が変わった事により、ハルタは苦笑する。あれだけ苦労して変えようとした未来がこんな簡単に変わるのだ。笑うしかない。


 気を取り直し、ハルタは椅子から立ち上がり、指を天井に掲げ、声高らかに、


「よーし、勉強も終わった事だし、いっちょ魔獣駆除をやってみよーか!!」

「……わかったけど、本当に大丈夫?」

「ん?何が?」

「魔獣がいる森に行くんだよ?もし、前みたいにな事があったら……」

「うん。確かにそうだな…………。念のために未来を見ておくか。」


 ハルタは目を閉じ、「フィール」と唱える。


「–––––大丈夫。順調に魔獣を倒してたよ。主にアリーが。」


 ハルタが見た未来は、アリルが魔法で次々と魔獣を倒してる中、ハルタは剣をぶんぶん振り回して一匹づつ魔獣を倒している未来だった。


「あそこまで出来損ないの未来を見せられるとちょっと自信無くすよな……」

「どうしたの?」

「んや、なんでもない。それより、準備して行こうぜ。」

「うん。わかった。」




 ***


「ザ・異世界って感じ装備だよな。」


 今のハルタの服装は学校の制服なのだが、その上に、革のプレート、手には革のグローブ、足には革のブーツの革装備をつけている。


「序盤の装備みたいな格好だけど……結構硬いよな。」


 更衣室から出ると既にアリルが外で待っており、こっちを見る。


「どう?」

「おう。ばっちし。これならどんな攻撃でも防げる気がするよ。」

「そう。ならよかった。」

「………」

「何?」


 ハルタの視線に気づいたのか、アリルは不思議そうに見つめる。


「いや、アリーの服装にエロスを感じたもんでつい見惚れちまった。」


 アリルの白い服は動きやすくする為か、スカートの一部に切れ目があり、足がよく見え、袖無しで腕も露出し、白い肌が綺麗にでている。


「そう?」

「うん。」

「あんまり見ないで。」

「えぇ!?」


 ジト目で見てくるアリルに驚きながらも、仕方なく視線を離す。


「よ、よし、それじゃあ行くか。」


 ハルタはアリルをチラッと見てそう言った。




 ***


 魔獣駆除の依頼を受けるには市場の奥にある屋敷。魔獣駆除取り扱い本部に行き、そこで依頼を選び、受注するらしい。


 歩きながら教えてくれたアリルの話を聞き、ハルタはふと思った。


「今更だけど貴族様を森に……しかも魔獣討伐とかに連れてってよかった?」

「いいよ。私は。でももし他の貴族と知り合ったらあんまりそういうのは良くないと思う。」


「なるほど……まぁ、貴族と知り合いになる事は無いと思うけどね。」

「そうかなー?」

「アリーと知り合ったのは本当に偶然だろ?それに貴族の特徴も知ったし、多分自分からは近づかないよ。」


 話をしていると森の一本道からようやく出て、メルマに着く。


「さて、メルマに着いたし、今度は市場に向か––––」

「あら?あなたは天才貴族様のアリル・スーベル様じゎないですか。」


 高らかな声が聞こえ、その声の方へ向くと、赤髪青目の少女が3人いた。


「久しぶりですわね。卒業後から会いませんでしたけどお元気でしたか?」

「……えぇ。」


 苦虫を噛み潰したような顔でアリルは答える。


「まあ、幸運の加護を持っているアリル様ならのうのうと生きているでしょうけど。」


 少女の言い方はどこかアリルを貶するような言い方だった。

 そして少女の言葉に取り巻きの2人が同意して高笑いする。


 人を不快にする笑い声だ。


「また学園の時のように楽しくお話しをませんか?後、その才能を活かした芸をもう一度見たいですし。」

「うっ……」


 アリルは弱々しい表情を見せ、言葉が出せないでいた。

 あの表情から察するにアリルは早くここから立ち去りたいと、そう判断したハルタは、


「アリー。早く行こうぜ。」


 ハルタがアリルに声をかけると少し正気に戻ったのか、ハルタの方をチラッと見る。


「どちら様でございますか?」


 少女は不快そうな目でハルタを見る。

 ハルタはふっ、と笑みを浮かべ、


「俺……いや、私の名前はカイドウ・ハルタ。今は訳あってアリル様の屋敷に居候させてもらっています。……さっ、自己紹介も済んだし、早く行こうぜ。アリー。」

「う、うん。」


 ハルタとアリルは歩きだし、市場へと向かおうとする。


 その時、少女達が舌打ちをしたのを、ハルタは聞き逃さなかった。


 きっとアリルの才能を妬ましく思っていて、アリルに嫌がらせをよくしていたのだろう。アリルの反応を見たらすぐにわかる。

 彼女達以外もアリルに嫌味や嫌がらせをしていたのだろうか?


「––––クソっ」


 その時に俺がいてやれば。とハルタは自分を責める。だが、責めても何も変わらない。



 ––––だからせめて、今は君の近くにいる。



 それでアリルの気持ちが、少しでも楽になるのなら。

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