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9話 変えなければならない未来

 次の日になり、昨日と同じく朝の筋トレをやった後、シャワーを浴びて、リビングへ向かう。


「まだ寝てるか。」


 リビングにはまだアリルの姿が無く、ハルタは1人でソファーに寝転がる。


「異世界に来て4日目。この屋敷に来て3日目か。早いもんだな。」


 そしてこの4日間だけで忘れられない経験と思い出が出来た。

 二度の死とアリルとの出会い。

 異世界に来なかったら二度も死ぬ事もなかっだろうが、アリルとも出会う事も無かった。


「運命ってやつなのかな……?」


 天井を見つめ、1人呟く。

 呟きの後、後ろの方から足音が聞こえ、振り返ってみると、あくびをしたアリルがハルタのいるソファーに向かって歩いていた。


「おはよう––––」


 まだ完全に目が覚めていないのか、声が小さく、目も細めている。


「おはよう。アリー。」


 挨拶を交わし、アリルはソファーに寝転がる。

 今のアリルは髪がボサボサで、目を細め時々あくびをしている。今の姿じゃ貴族には見えなかった。

 ハルタはその姿を見て、貴族と言う遠い存在では無く、一個人として身近に見れた。それが何よりハルタは嬉しかった。


「今日は何すればいいよ?」

「んー、私が朝食作るからハルタは洗い物をやってくれる?」

「オッケー。洗い物のプロに任せな。」


 親指を上げ、キッと微笑み、白い歯を見せる。


「うん。ありがと。」

「あれ?俺の渾身のスマイルを無視?」




 ***


 朝食を終え、現在ハルタは食器を洗っている最中だった。


「2人分の洗い物なんかお茶の子さいさいよ。」


 故郷の日本にいた頃は家族全員分の洗い物を洗っていたハルタにとってはこの数は大した事は無かった。

 そんなハルタが食器を落としてしまった。


「うっ–––!?」


 突然の頭痛がハルタを襲ったのだ。

 頭が割れそうなほどの痛みを感じ、自然と目を閉じてしまう。


 目を閉じたはずだったのだが、目の前には背景が映し出されていた。


 場所は屋敷のどこか。床に座り、ハルタは何かを抱えていた。

 下を向くと、口から血を垂れ流し、腹に穴が空いているアリルがいた。ハルタが抱えていたのは死亡したアリルだったのだ。


そして周りには魔獣達がハルタとアリルを囲っていた。


「ああああぁぁあぁっっ!!?」


 目を開けたハルタにはすっかり頭痛は無くなっていたのだが、理解不能の出来事と、閉じた先に見た絶望を見て、吐き気が襲って来た。


「な、何なんだよ……っ!今の!」

「ハルタ!?大丈夫?」


 食器が割れた音とハルタの声に気が付いたアリルはキッチンに入り、ハルタに寄り添う。


「大丈夫って言ったら嘘になるけど……多分平気。」

「どこか具合でも悪いの?」

「悪いってか、突然頭痛がして目を閉じたらいやな光景を見て……」

「光景……? ちょっと待ってて。」


 アリルはキッチンを飛び出しどこかへ行った。


 しばらくした後、アリルはキッチンに戻り、手には、屋敷の初日に見た便利な魔道具があった。

 虫眼鏡のような魔道具でハルタを覗き込むと、アリルは「やっぱり」と呟く。


「ハルタに新しい魔法が使えるようになってる。」

「えっ?」

「オートフィール。危険な未来を予知する魔法ね。」

「………」


 あれは起こるべき未来なのか。俺は死んだアリルを抱える事になるのか。


 絶望がハルタを包み込んでいく。これまで二度も未来を見たが変わる事が無かった。変えられないかもしれない未来がただただハルタを恐怖に突き落として行く。


「何を見たの?」


 アリルの言葉に意識が引き戻される。


 言わなくてはならない。あの未来を変える為に。


「アリルが……死んでた。」

「えっ」


 ハルタの発言により、アリルは戸惑いを隠せない。

 それはそうだろう。そんな現実味が無いことを突然言われたのなら。


「俺はアリルを抱えてた。屋敷の中で。」

「……屋敷で殺されたってこと?」

「多分。アリル。フィールとオートフィールの時間は一緒なのか?」

「ん。そう聞いてるけど。」

「ならこの未来が起きる時間は一時間後だ。一応、戦闘準備して屋敷から出よう。」

「わかった。」


 そしてハルタとアリルは準備を始めた。



 –––––俺がアリルを救ってみせる。あんな未来にさせてたまるかよ。

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