表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びろ世界、俺が無双する  作者: ぞの
第一章『破綻した零番目』
5/20

七夕の願い


「…………チッ」


 朝から気分が悪くて、俺は舌打ちする。

 結論から言って、世界は滅んでいなかった。


 SNSでは『勇者』のハッシュタグがトレンド一位に。なにやらとんでもないスキルを持った人間が、それも全国に三人いるようで、彼らは一晩中人々を救うために奔走していたらしい。


 なんでも、称号に【勇者】とあるのだとか。


「やっぱりいたか。定番だもんいるよなー。勇者になった奴が。気に食わねえー……けどまあ、そりゃそうだよな」


 世界は俺を中心に回っているわけじゃない。これだけ様変わりしても、ここは現実でしかない。都合がいいのが自分だけ、なんて虫のいい話は物語の中にしかないわけで。


 俺はベットに身を投げると、興味本位で添付された映像を再生する。勇者とは果たしてどんなものか。


 場所は東京。光属性のスキルを駆使する青年が格好よく魔物を切り伏せる。背後の駅前には守った大勢の人々、大歓声に応えて挙げた手には光り輝く剣が――、


「ってこいつ、最近テレビでよく見る男性アイドルグループのリーダーじゃねえか」


 名前は知らねえけど。


 場所は大阪。ビルの中から撮ったのだろう。眼下の地上では猛々しい炎が吹き荒れ、魔物の大軍を焦げ炭にする。たち続けに上がる爆炎の中から姿を現したガタイのいい男――、


「いや待てこいつ、最近テレビでよく見る総合格闘技のチャンピョンじゃねえか」


 名前はしらねえけど。


 場所は――っておいこ、この人!


「最近テレビでよく見る大人気女優じゃねえか! めちゃくちゃ可愛いし同い歳だから勿論知ってるやっぱ可愛いな花梨ちゃん。名前は甘蜜花梨(あまみつかりん)ちゃん戦ってる姿も可愛いな花梨ちゃん。何を喋ってても言葉が勝手に可愛いに収束する可愛さだ可愛いな花梨ちゃん」


 ちなみに京都である。

 アイドル顔負けの愛嬌を振りまきながら、押し寄せる魔物を文字通り吹っ飛ばしてる。スキルは……風属性か?


 その他にも、魔物に立ち向って倒す人々の動画や画像があれよあれよと。昨日はあれだけ絶望に満ちていたSNSの場が、一致団結して滅亡に抗う感じになってる。命懸けだからか、オリンピックに勝る熱量だ。


 三人の勇者は見るものに希望を与えたのだろう。ステータスが認知され、戦えるスキルを保持している事に気づいた人は、徒党を組んで魔物に立ち向かっているようだ。


 それから建物の中にいれば魔物に襲われにくいらしく、今のところ比較的安全なのだとか。これも世界存続の一助になっている。


「今いる魔物はゴブリンとかコボルトとか、雑魚ばっかだもんな。巨大な魔物が現れれば歩くだけで死ねるから、一時しのぎにすぎないけど……意外としぶといな世界」


 まあいい、在り方が変わったのが重要だ。一番恐れていた夢オチは回避出来たわけだし、今もほらカーテンを開ければちらほらと徘徊している魔物が見られる。


 でもなんだ、釈然としないなおい!

 勇者なんて選ばれし者感あって羨ましい!!


「くっそ。俺は絶対この三人を超えてやる。ぜーったい負けたくねえ。花梨ちゃんのピンチに駆けつけて無双するのは俺だ。そして惚れられる。主人公の俺に相応しい、完璧な作戦だ……」


 戦慄く身体をベットに投げ出し、ふうと一息ついた。さて、これからどう動くかだが、


「スキルの練習もしたいけど、まずはそうだな。情報収集だ」


 情報収集と言う名のゴロゴロである。

 腹ばいになってだらしない格好で携帯を弄る。


 いやしかし、さすが現代だな。こんな非常時でも、いやむしろ大災害が起きているからこそ、こういうネットやSNSの場が活発になるのだ。


 ちなみに『異世界戦線』のハッシュタグがトレンド二位。三位と四位は『ステータス』と『魔物』だ。


 なんでも『異世界戦線Phase1がスタートします』っていう例の無機質な声、ほとんどの人が聞いたらしい。いやほんとにゲームかよってね。


 テレビをつける。悲惨な光景や最悪の状況を悲観的に伝える報道よりも、むしろ立ち向かう人々の勇姿を涙ながらに伝える報道が多い。


 とあるチャンネルでは『危険ですので絶対に家の外には出ないで下さい』と報道している。政府はどう対処するか検討中で、全国各地の自衛隊は出動済みらしい。


 ぴ、ぴ、ぴ、とリモコンをいじる。現状確認されている魔物についてや、希望となりうるステータスについて議論しているチャンネルもあった。


 台風が来た時みたいに色つきの外枠で速報が流れる。ちょうど今、東京タワーが倒壊したらしい。いくら待ってもCMが流れないってなんか変な感じだ。


 日本はこの未曾有の事態にどう対処するのか、見ものである。俺に世界を救う気なんかさらさらないからな。他人事のようにごろごろと寝返りを打って仰向けになった。


 色々なまとめサイトをハシゴしていく。


「ふむ、ふむふむふむ……ステータスオープン」


 眼前に薄青の文字列が現れる。


――――――――――――――――――――――――

 名前:葛原 玲太

 英雄願望:『破綻』

 レベル:9

 ライフ:1702

 第一スキル:〈原初:(ニヒル)〉Lv1

 第二スキル:なし

 第三スキル:なし

 ギフトスキル:〈成長促進(インフレ)

 ギフトスキル:〈スキルの蕾〉→開花条件『無双』未達成

 称号:【零番目】【暁の勇士】――――――――――――――――――――――――


 昨日は余裕がなかったからな。色々な項目に詳細と念じて、じっくり見ていく。


「レベル、ライフ、スキル、称号……うーん。ライフは体力のライフか? あんまりピンと来ないけど、それより『英雄願望』てなんだ?」


 しかも破綻とか書いてあるし。


「お、ここも微妙に変わってるな。未定だった〈スキルの蕾〉の開花条件が出てる……浸蝕レベル? 」


 開花条件の『無双』に詳細を念じると『侵蝕レベル1の魔物を、1分間に300匹倒す』と出てきた。


 大衆向けのRPGではあまり聞き慣れないが、俺には柔軟なオタク知識がある。なんとなく魔物の強さの指標だろうと当たりをつけた。


「へえ、そうこなくちゃな」


 それはつまり、雑魚であるゴブリンも浸蝕レベルが上がれば、それなりに強くなって手こずる可能性も出てくるって訳だ。いいね、俄然やる気が出てきた。


 まあ今は寝起きだしごろごろしてたい。

 ステータスを確認した上で、ネットの記事を見ていく。えーと、それで、なになに……


「ステータスは他者から目視することはできない」


「魔物を倒すと経験値を獲得、レベルアップできる」


「第一から第三まで、覚えられるスキルの数には限りがあると予測される。ただ、称号なるものを獲得した時、おまけで貰えるギフトスキルは例外である模様、とな」


 その他にもレベルが高くなると必要な経験値も増える事についてや、称号とギフトスキルの関係性、ギフトスキルにレベルがない事など、有益な情報を開示しているサイトが数多くあった。


 中でも目を引いたのは、


「スキルを行使する時、ライフを消費している?」


 そういえば確かに。ステータス上には、RPG要素には必須といえる『魔力』や『マジックポイント』が見当たらない。


 とはいえスキルが何かの消費なしにポンポン使えるとは思えないが……なるほど。この記事の言う通り、その役目はライフが担っているらしいな。


「ライフは時間経過や魔物を倒した時、レベルアップした際に獲得出来る」


「スキルによって消費するライフ量は変わるから、魔物と戦うならライフ残量の管理に注意されたし」


「ギフトの最大量は個人差あり、か」


 関連する質問投稿を流し読みしていると、まだ限界値に達した人は少ないみたいでなんとも言えない。ただ一つ言えることは、今のところ俺のギフト量が断トツで多いってこと。


 詳しく見た感じ、ギフトスキル〈成長促進(インフレ)〉のおかげっぽい。んお、閃いた。これはナイスなアイデアを思いついたぞ。後で試そう。


「お」


 とある記事が気になって、スクロールしていた指を止める。それは『ステータスと願望の関係性について』という題名の投稿だ。俺は躊躇なくURLをタップ、直ぐに画面が切り替わった。


「七夕で短冊に書いた願いが、ステータスの『願望』欄と一致する……?」


 これまた妙ちきな設定だな。


 俺はなんて書いたっけ。確かとんでもなくしょうもない願いを書いて、恥ずかしくなって裏に在り来りな事を書いて。


「あー、なんとなくわかったかも。表では『世界滅びろ』って言ってんのに、裏では『家族がずっと一緒にいられますように』なんて平和なこと謳ってるから、破綻してるじゃねえかってこと……?」


 短冊に何も書かなかったヤツらの『願望』は、空欄ではなく『なし』になってるらしい。影響を受けたスキルもしょぼいんだって。可哀想に。


「『願望』はスキルに影響する? んー? そもそも俺のは『英雄願望』なんだが?」


 サイトを見た限りだと、みんなステータス欄には『願望』の項目があるらしい。


 俺だけ? 俺だけなの?? って仄かなアイデンティティを感じていたら、勇者の一人である国民的アイドルの男も『英雄願望』だとか。ぬか喜びさせるんじゃねえよ。この調子じゃほか二人もそんな感じだろうな。


「破綻が反映されたスキルって、どんなだよ……」


 こんなだよ、って顔で第一スキルが己を主張した気がした。ま、強けりゃいいか。どうにでもなれ。


「俺は至って正常なんだがな……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ