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滅びろ世界、俺が無双する  作者: ぞの
プロローグ『壊れ始めた世界』
2/20

ゴブリンでバズる俺

 

 風呂から出ると、地鳴りのような音が響いていた。


「玲兄ー? もう花火始まってるよお〜」


「酒だ酒、ビールのおかわり持ってこい玲太ー!」


 ベランダから妹と姉の呼ぶ声がする。


 がしがしと髪を雑に拭きながら、冷蔵庫を開けてビールを探す。適当なツマミもついでに持って、リビングをつっきりガラガラと窓を開けた。ぶわり、心地よい夏の風が頬を撫でる。


「お〜、やってんね」


 雲ひとつない夜空に、色とりどりの花が咲いていた。ひゅううう、と打ち上がって、どーんと咲き誇るそれは、七夕花火祭りで打ち上げられる花火だ。


「わあ〜綺麗〜!! 玲兄みてみて、すっごいよー!」


「ああ、綺麗だな。毎年見てるけど、やっぱりすげえ」


 妹の彩奈がはしゃぎ回る。歳は俺の二つ下。アニメ鑑賞が趣味の俺とは違って、身体を動かすことが好きで活発的なやつだ。


 ガーデンテーブルには料理や菓子類が並んでいた。俺は空いているチェアに座る。どん、と空缶を叩きつけた姉の顔は真っ赤で、既にできあがっていた。


「ありがと玲太〜、ほら玲太も飲め飲め〜」


「未成年に酒を進めんなよな藤姉! ていうか飲みすぎだぞ。ほどほどにしねえと、明日も仕事だろ?」


 姉の名は藤花。今年二十歳を迎えて成人し、解禁された酒にしょっちゅう溺れている。大学には行かず、これでも社会人の端くれである。


「いいんですう〜今日は特別なんですう〜。玲太はどんどんパパに似てくるんだからあ、余計なこと言わないで付き合ってくれればいいのよ〜」


 頬にキンキンに冷えたビールを押し付けるな。


「ったく……って珍しく母さんも飲んでんのか」


「今年も夏が来たわねぇ……徹さんも見てるかしら」


 我らが母は少量の白ワインを嗜みつつ、うっとりと満開の花火を見上げている。徹さんってのは親父のことだ。俺が中三の時に事故で死んだ。


「……見てるさ、きっとな」


 母の胸中を察して、しみじみと答えた。


 夏の風物詩、三万発も打ち上がると見飽きそうだが、バリエーション豊かで色々な花火の顔があるからずっと見てられる。


 俺たち家族四人は、ベランダでのんびりと寛ぎながら祭りを楽しんだ。夏の始まりを感じるね。


 ……ひよりのやつ、結局どうしたかな。


 ギャル仲間と見にいってるだろうか。それとも男か。それはなんかうぜえな。俺に断られたショックで家にひきこもっててくんねえかな? ……それだけはないか。


 てか、なんで俺があいつのこと考えなきゃならんのだ。それもこれも無遠慮に声をかけてきたあの女のせいだ。そういうことにしておこう。


 と、花火も終盤に差し掛かった頃、藤姉が言った。


「玲太ぁ〜! かき氷食べたいれろ〜」


「いやだよ、どこの屋台も行列できてんだから」


「はーい、彩奈も食べたーい!」


「じゃあママも〜」


 藤姉の我儘にのっかかる彩奈と母。俺がだんまりで嫌を主張していると、三人揃って物欲しそうな目で見てくる。


「ねえ玲兄、おねが〜い」


「コンビニに売ってるやつでいいからさあ〜」


「ママはいちご味がいいわあ」


「情緒もクソもねえな! ……あーもーそんな目で見るなよ! わかったよ買ってくればいいんだろ!」


 席を立った俺は「玲兄かっこいいー」「愛してるぞ玲太〜」「気をつけなさいねえ」という声を背中に、財布を取ってさっさと家を出た。


 この辺は祭り会場と若干離れているのだが、やはり凄い数の人が行き交っている。この調子だと近所のコンビニは混んでるだろうから、少し歩くが離れたとこに行くか。


 俺は土地勘を生かして裏道を通り、人混みを避けながらコンビニに向かった。


 到着すると、入口付近に笹と短冊が盛り沢山な七夕用の竹が設置してあった。わざわざ遠い所まで来たのに、中は意外と混雑しているし……なんとなく気が向いたので、この鬱憤を晴らしてやろう。


「このしょうもない世界がぶっ壊れますように、と」


 すらすら書いて、笹に括り付けようとしたところ、不意にひらひらと揺れる短冊が目に入った。


 そこには『家族みんなが健康でいられますように』という願い事が書かれていた。


 その右隣には『受験に合格しますように』さらに左隣には『大きな災害がありませんように』上には『ヒーローになりたい!』挙句、下には『いつまでも平和が続きますように』とあった。


 俺、何書いてんだろうな。無性に恥ずかしくなって、裏側に『ずっと家族が一緒にいられますように』とありきたりな願いを書いた。傘立てに刺してある竹の、笹の根元に括り付ける。


 ――どどどどどどーん!!


 背後でとんでもない数の花火が同時に轟いた。

 どこからともなく「おお〜」と感嘆の声がこぼれる。それは最後の心打ちであり、七夕花火祭りの終わりが告げられた。


 だが、煙の余韻を残した夜空を見上げる人々に、祭りが終わったーというあの寂しげな感慨はなかった。


 それもそのはず。

 随分と前からテレビやネットのニュースに取り上げられ、それ以来SNSではトレンド1位。話題の()()が、そろそろ見られる時間帯だからだ。


 皆が今か今かと待ち望んでいる。それを見なくして祭りは終わらない。俺はコンビニに入ってかき氷のアイスを買うと、自動ドアから出た。


 そのタイミングで、夜空に一筋の光が走った。


「――――」


 それを皮切りに、満点の夜空が何百何千という光の斜線に埋め尽くされる。大流星群。過去に類を見ない、それはそれは大規模なものだった。


「……すげえな、こりゃ」


 内心うんざりしていた俺だが、こうして目の当たりにするとあれだけ話題になるもの頷ける。手元の携帯端末では、流星群のツイートでSNSが荒れまくっている。


 その中に恋人と来てよかった的なツイートを見かけて、ちょっと思った。もしかしてひよりが俺を誘ってきたのは、罰ゲームなんかじゃなく……や、ないか。


 込み上げてきた軽い罪悪感を一笑に付し『リア充爆発しろ』とコメントする。予想外にもお気に入りマークが次々とついた。なんだ。同士よ、わかってるじゃねえか。


 流星群はなおも続いている。おかげで薄明るい裏道を進んでると、不意にガサゴソと何かを漁るような音が聞こえてきた。


 なんだ? 野良犬が餌でも探してんのか?


 じっと目を凝らすと、そこにいるのは小さな子供に見えた。やけに薄汚れた格好で、円形のゴミ箱に上半身を突っ込んでいる。


 それは現代日本において、異様な光景だと言えよう。引き返すか否か逡巡していると、さらにもう一人、もう二人、もう三人と、ボロ布を纏った子供がわらわらとゴミ箱に集い始める。


「……っ」


 俺は絶句した。


 あまりにおかしい。あれは人じゃない。我先にとゴミ箱を漁る子供の姿をしたナニカだ。そんな事を思うくらい気味が悪い。足が自然と後ずさる。


 バチ、バチバチ、バチ――。

 さっきまで消えていた街灯が、不自然に点滅して。


「…………は?」


 そのナニカの容貌を見た。


「こいつ……ゴブリン、か?」


 慌てて携帯端末をカメラモードに移行。醜悪な餓鬼がゴミを漁る姿を写した映像を『ゴブリンみたいなのがいる』と一言添えて投稿すると、忽ち大炎上した。


『え、なにこれ。ファンタジーアニメの実写版?』

『CGだよね? めちゃリアル』

『まてよ、空に流星群見えんぞ』

『ってことはこれ、今撮った映像ってこと?』

『は? じゃあこのゴブリン本物?』

『え?』『こわい』『うそ』『やばくない?』


 これがバズるってやつか……俺、一度でいいから言って見たかったんだよね。状況を忘れた俺が『通知がとまらねえwww』とイキったコメントをすると、


『馬鹿お前、そんな場合じゃねえだろ』

『まじで逃げろ』『絶対危ない』『死ぬぞ』

『マイペースすぎ』『現代っ子怖い』『命の危機』

『助け呼べ』『もう通報した』『まだ生きてる?』


 こんな感じで返信欄が荒れた。

 こ、こんなこと初めてだ。どうしよう! これはあれか、何か宣伝した方がいいのか!?


 すっかり画面に集中していた俺。

 故に気づくのが遅れてしまった。


 すぐ目の前に一匹、こちらをじっと見据えるゴブリンがいることに。ハッとする俺に向かって、ニタリと効果音つきの卑劣な笑みを浮かべた。


 ぞくり、と怖気が全身を走り抜ける。

 ゴブリンは奇声を上げて踊りかかってきた。


「ちょまっ、やめろ!」


 及び腰になりながら咄嗟に腕を前につきだす。


 すると、ヴン――と妙な音がして、ゴブリンが吹き飛んだ。そのまま電柱に勢いよくぶつかり落下。ピクピクと痙攣して、緑色の血が地面に広がっていく。


「え、あ、はぇ? なに?」


 尻もちを着いた俺は、状況を飲み込めずにいた。


 なんだ今のは。何かが起こった? いや起こした? 俺が? よくわかんないけど、現実味はないけど、例えるなら不可視の魔法が俺の掌から飛び出したような。


 ゴブリンの死骸がぼひゅ、と溶けて灰になった。

 すると突然、脳裏に無機質な声が響き渡る。


〝葛原玲太のステータスが顕在化されました〟

〝英雄願望『破綻』〟

〝第一スキル:〈原初:(ニヒル)〉のロックを解除。行使権限は完全に葛原玲太へと譲渡されます〟

〝レベルが2に上がりました〟

〝ライフを100獲得しました〟

〝称号:【暁の勇士】を獲得しました〟

〝ギフトスキル:〈成長促進(インフレ)〉を獲得しました〟

〝ギフトスキル:〈スキルの蕾〉を獲得しました〟


 待て待て待て待て。ステイ。おすわり。

 ちょっと静かにして。何言ってるか分からないから。意味不明だから。理解不能だから。


「は、はは……んだよこれ……!?」


 未だ現状を把握しきれず、頭を抱える。


 だが俺は、無自覚のうちに笑っていた。


 自然と口の端が上がる。腹の底から湧き上がる狂気じみた愉悦を堪えていた。見るものが見れば、恐怖で頭がおかしくなった人のように見えただろう。


 だって、だってよ。

 今、この時、この瞬間。


「ぶっ壊れるのか……? 退屈でしょうもないこの世界が、今、ぶっ壊れようとしてんのか……!?」


 世界の在り方が、変わろうとしている。


 決定的となったその事実が、俺は嬉しかったんだ。

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