8部
「結局、あの集団って何だったんですか?」
大谷が山本に聞くと、山本は呆れたように
「ただの素人の塊だったよ。
SNSでリーダーになった奴が呟いたことをきっかけに、同じように反感を持ってた奴が集まりだして、途中から冗談で過激な事を言い始めたら、実際にやってしまっていたらしい。
特に強い思いに突き動かされたから行動したっていうよりは、その場の勢いとノリでやったらしい。
俺があげたような犯罪も基本的には威力業務妨害罪と不退去罪くらいがあてはまって、威力業務妨害罪で統括一罪って感じになるだろうな。
刑法的な事よりも民事での損害賠償の方がよっぽどひどい目に遭うだろうな。」
「その過激な事を煽っていた存在とかはなかったんですか?」
「ないな。
俺らも必死にSNSの投稿を調べたけど、発言してる奴は全員捕まってるし、その中にも危険な人物は今のところ見つかってない。
上田がまだ調べてるけど、今回ばかりは無駄骨だろうな。」
「少し考えたら大変なことになるってわかってたはずですよね。
顔のわからない人達と簡単に繋がってしまうSNSだからこその危険性をもっと広めていかなければいけないですよね。」
「法律やモラルみたいなものを軽く見すぎてるんだよな。
子供の頃から、もっとしっかり教えていかなければいけないことなんてたくさんあるだろうと俺は思うな。」
「アハハ、そんなこと言ってると教育改革とかいってとんでもない改革案が発表されて、デモとか起こるんじゃないですか?」
大谷が冗談半分で言ったが、山本はない話でもないと思った。
「とにかく、これからも新しい改革の度に反対集会とかが起きたら俺らだけでは調べきれないと思うんだよな。」
「そこは上杉さんがヤバイと思ったやつを厳選してくれるんじゃないですか?」
「そう上手くいくか?」
「どうでしょうね。」
答えのでないやり取りが続いていることに二人が気づき始めた時に三浦が入ってきて、
「テレビでまた会見してますよ。
今度は働き方改革らしいです。
テレビつけますね。」
そう言って二人の返事も待たずに三浦はテレビをつけた。
テレビに映ったのは北条総理ではなく、元京泉大学法学部准教授の大久保だった。国会議員資格試験に合格した話は聞いていたが、こうして国会議員として、あるいは政治家として表に立つのは初めてでないかと山本は思った。
そんな大久保は記者達に深々と頭を下げて、
「それでは改革の内容をお伝えします。」
そう言ってまた頭を下げた。