75部
「警部、あの方を保護するなりした方が良かったんじゃないですか?」
車を運転しながら上田が聞いた。
「名目は?あの店主は犯罪行為をしてないし、誰がなぞの組織に狙われてるから保護しましたなんて話を信じると思う?それに本人がそれを必要としてない雰囲気があった。役目をまっとうしたからなのか、それともこの程度で命をとられると思っていないのか。もうかなりのお歳だったから自分の死期を悟ってる可能性もある。
どちらにしろ難しいだろうな。」
「総監達から聞いてた話とあまり変わりませんでしたが、本家と呼ばれる存在と思想とかが何となくわかったくらいで目新しくはなかったんじゃないですか?」
「いや、あの人は本家が今どの立場にいるのかを暗に言ってたよ。」
「えっ?本当ですか?」
「政治から宗教を完全に切り離す事ができ、日本の政策を自由にする権利を与えられた人間が誰かを考えれば良い。そして、そいつは天皇家の血を継いでいるとなると?」
「政務天皇ですか?」
「未だに姿をほとんど見せないながらも日本の改革は推し進められてる。しかも、表に出ない事を公言している以上、会いたいと申し込んでもそれが受け入れられる事もない。すぐ手の届くとこにあるはずなのにまったく届かない場所。旧首相官邸にいるのか、別の隠れ家があるのかわからないが絶対に一般人では入れない絶対領域にあの人はいる。」
「どうしますか?総監や刑事部長に相談しますか?」
「報告はいれるが、あの二人でも手は出せないだろうな。」
「だから、あの店主も隠そうとしなかったのかもしれませんね。何もできないとわかってたから。」
「だが、確実に近づいた。」
山本は小さく呟いた。
国会内とある部屋
「次はどう致しますか?」
「官僚からの文句が多いようですね。
彼らは手続きを行い実際に動く手足な訳ですから、口も頭も要らないですね。特に私欲を満たそうとする頭にはきついお灸をすえねばいけません。」
「なるほど、あれですね。
既に造幣局の方には伝達済みです。上級国民づらしてふんぞり返ってる奴らに子供の気持ちを思い出させてやりましょうか。」
「サラリーマンのお父さんの気持ちもきっと彼らはわかってませんからね。」
クスクス笑っている男に頭を下げて、北条総務は次の会見へと歩を進めた。




