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7部

「まったく、何がやりたいんですかね?」

 上田がイライラしながら言った。

 上杉刑事部長から都内の駅の改札を封鎖している集団がいて、『皇室改革反対』と叫んでいるらしく、政府の改革に対する反発から起きた事件と見て捜査指令が来た。

 たまたま、その場にいた山本と上田の二人で駅に向かい、改札に向かう最中で上田は言った。

 普段はそんなにイライラを表に出さないタイプだが、電車が使えないことによる影響が車の渋滞となって自分達を襲った事も関係していないとは言えなかった。

「皇室の改革に反対なら国会の前でやるべきだな。

 駅の改札を封鎖してもただひたすら邪魔なやつでしかないし、行動に意味がないからな。」

 山本が言うと上田はイライラを吐き出すように

「ただのバカってことですよね?」

「行動に責任が追い付いてないことを理解してないならバカなんだろうな。」

そんなことを話している間にも改札の前に到着した。

 制服の警察官が5人いて、バリケードを作って座り込んでいる10人くらいの集団に退去するように言っているが、集団はそれに返答するでもなく『皇室改革反対』と叫んでいるだけだ。

「どうやって話を聞かせますか?」

 上田が呆れた感じで聞くと山本は持っていた鞄を見せて、

「上杉さんの秘密武器を使う。」

「いや、本当に大丈夫なんですか?

 勘違いされたらとんでもないことになりますよ。」

「まぁ、全責任は武さんがとってくれるって上杉さんが言ってたよ。」

「こんな責任転嫁されてるとは思ってないでしょうね。

 先に行って人をどかしてきますよ。」

 上田がそう言って走っていき、改札の周りにいた人達が改札から離れだした。山本は周りを確認して人がいないのを確認してから、鞄から『上杉さんの秘密武器』を取り出した。

上田も少し離れた場所から山本を見ていたが、遠目に見ると鞄から拳銃を取り出したように見えた。

 当然、そんな物を取り出したわけではないが、知らない人から見たら銃にも見えるだろうと思った。

 そんなことを考えていると山本は手に持った銃のような物を空に向けて、空いている方の手で自分の耳を押さえた。

 次の瞬間、『パンッ』と言う大きな音が駅の構内に鳴り響いた。

何が起こったかわからない人からすれば、それは発砲音のように聞こえた。周りが一斉に山本の方を向く。

 銃のような物を持った男が立っている、それだけで悲鳴が起きた。

山本が

「ご安心ください。警察です。」

 そう言って警察手帳を見せた。それを見た人たちは後退り改札に続く道ができた。山本は手に持ったものをその状態のまま改札に向かってゆっくり歩いた。

 もちろん、周りにいた人達は山本が手に持っていた物に視線を集中させたが、困惑の表情を浮かべた。

 中には手に持っている物が何かわかった人の中から「あれってさ………」といった声が出始めた。

 そんななか、制服の警察官が駆け寄ってきて

「ちょっとあんた何やってんだ?

 何だその手に持ってるのは?」

「特別犯罪捜査課の山本です。

 これご存じないんですか?

 スターターピストルですよ。ほら、陸上の短距離とかのスタートの時に使うやつです。」

「いや、そんなことを聞いてるんじゃない。

 何でこの場でそんなものを使ったのかと言う話をだな…………」

 制服の警察官が言いかけたが時間の無駄だなと思った山本は

「上杉刑事部長がこれを使って犯罪者達の注意を引けと言われたので使ったまでですよ。

 文句があるなら刑事部長に言ってください。

 おい上田、さっさと周りの人達を安全な場所に退けとけ。

 もうすぐ本気で強制退去させるための部隊が来るんだ。

 巻き込まれないように避難させろ。」

上田があからさまにめんどくさそうな顔をしてから、周りの人達に声をかけ始めた。

「おい、そんな部隊の投入は聞いてないぞ。」

「まぁ、あなた達に伝える必要もないですからね。

 私が彼らと話しますので、逃げられないように囲っといてください。」

山本はそう言うと、改札の前まで行き、

「警視庁特別犯罪捜査課の山本と言います。

 今現在、あなた方がされているのは往来妨害罪に該当する可能性が高い犯罪行為です。

 2年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。

威力業務妨害罪、不退去罪は確実に成立していますので、あなた方を逮捕することは現時点でも可能です。

 大人しく捕まっていただけないのであればSATによる力付くの逮捕となります。

 ちなみにですが、これは刑法的に判断されるものであり、民事であなた方が出している損害に対する賠償は、鉄道会社はもちろんですが、サラリーマンの方などのビジネスがらみの損害が出た場合もあなた方の行動によって生じた損害は賠償の対象になります。

 損害賠償請求をされた場合、あなた方はたかが10人くらいで何十億円という賠償を行わなければいけなくなります。

 残念なお話ですがこれらの賠償は既に発生しているものであり、時間が長引くに連れて増えていくだけで減ることはありません。

 速やかな投降をおすすめします。」

 バリケードをはっている男が

「ふざけるな、そんな脅しには負けないぞ。

 我々は政治的な発言をする権利を持ってる。

 我々の邪魔をする権利は……………」

「公共の福祉に反しない範囲で認める。

 それが権利の制限ですよ。

 あなた方は公共の移動手段である鉄道を使えない状態にしている。

 あなた方の行為は、どんな主張をしていても、それが正しい言葉であったとしても犯罪行為でしかない。

 あなた方は主張の発信の仕方を間違えたんですよ。

SNSや街中で訴えるなら、それは認められたでしょうが誰かに迷惑をかけるような手段にでた時点であなた方は間違えたんですよ。」

「そんなわけ………」

 男性の声はどんどん小さくなり、黙り込んでしまった。

山本が

「大人しく捕まってください。

 あなた方の主張が正しいと思っているなら、犯罪者の言葉ではなく、健全な一国民の言葉として伝えるべきです。

 投降してもらえますね?」

バリケードを持っていた人達が一斉に肩を落としてバリケードを離した。上田が来て

「警部も手錠持ってますか?」

「逃げる気は無さそうだから大丈夫だろ。

 すみませんが、連行するのを手伝ってもらえますか?」

 山本が制服の警察官に話しかけると制服の警察官達が封鎖していた集団の周りを囲んでパトカーの応援を呼んだ。

 上田が

「一件落着ってところですかね。

主犯の人にだけ署で話を聞けば良いですよね?」

「まぁ、そうだろうな。

 こんな大げさなことをしたんだから、裏がある可能性もあるが、突発的な犯行の可能性の方が高そうだな。」

「無駄足ですかね?」

 上田が聞き、山本は肩をすくめて

「まだわからないって所だろ。行くぞ。」

 山本はそう言うと、連行されていく人達を追いかけて歩いていった。

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