65部
長田はコーヒ-を配り終えると
「松平が名前を変えている理由・・・でしたね。
理由は至ってシンプルです。命を狙う敵が多かったからです。」
「それは他の家の方も同じ事が言えるんじゃないですか?」
伊達が聞くと長田は山本に向かって
「松平という有名な一族と言えばどこですか?」
「松平は徳川家康の旧家名で江戸幕府成立後には親藩の一部が名乗っていた・・!徳川家から天皇に歩み寄っていた家があったわけですか?」
「そうですね。松平と名乗ったのはそこを曖昧にするためです。
紀州徳川家、将軍も出している京都に近い和歌山と三重の一部を治めていた御三家の一角です。今では特筆すべき一族ではありませんが明治においては華族となり侯爵の地位もあり参議院に選ばれた人もいた名家です。
表向きには紀州徳川家は明治以降も旧幕府の大名家ではありましたが、そこから分離して成ノ宮にも取り入ろうとしていたわけです。江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜は一橋派でしたし、幕府の終わりも見えていたから早期に幕府に見切りをつけていた者達がいたのでしょう。
その動きも旧幕臣側に漏れて、影で狙われる存在となってしまったのです。実際に当主の暗殺や襲撃もあったと聞いてます。」
「幕府の裏切り者として命を狙われてたわけですか?」
「まぁ、そう言うことです。」
「つまり、山本警部の先祖を辿ると徳川家になるんですか?
凄いですね。」
伊達が思ってもないような言い方で言った。
「それはおいといて、松平が紀州徳川家なら名前を変えて逃げ続けなくても違う手段を取ることができたんじゃないですか?」
「そうも言ってられなくなったんですよ。
徳川家は成ノ宮に取り入ろうした事が周りにバレてしまい、一族の一部が暴走した事にしたんです。
本来は命令を出した相手だったのに裏切り者として処分しようとした。当時の松平家の者の怒りと憎しみから紀州徳川本家に裏工作を行って信頼を失わせるために行動した者もいました。
実際に紀州徳川家は権威を失っているので作戦は成功したんでしょうね。これもあくまで私の結果から考察した予想でしかありませんけどね。」
長田はそう言ってコーヒーを飲んだ。




