60部
『今、到着した飛行機には外国での国家信用棄損罪の適用者が乗っているようです。アジア人の日本人なりすましによる迷惑行為が多発している地域があり、そのアジア人が移送されてきました。懲役刑以上が確定しているため、警察での取り調べを受けた後は刑事施設に直接移送する運びとなっています。
移送されてきたアジア人の母国となると各国は今のところ沈黙していますが、今後の動静に注目が集まっています。』
レポーターが言った。その後、迷惑行為をしていたアジア人は一度も姿を見せる事なく近くの警察署に移送されたようだ。
その様子を伝えたテレビのニュースを見ながら新聞を読んでいた山本に上田が
「準備が良いですよね。
つい数日前に法律の発表をして、もう適用した犯罪者の移送もされているなんて、かなり前から準備が進んでいたんでしょうね?」
「逆に準備も何もせずに思い付きであれこれやりすぎてた部分って言うのはあったんじゃないか?
準備もできてないの実行する事を前提にいついつまでにやりますなんて話をするから期間重視で穴あきのスッカスカの政策が多かったんだよ。
今の方がまともなんじゃないか。」
「今の政権って、例の御前グループが仕切ってるって事以外に問題ってあるんですか?」
「犯罪者が地盤を築いた政権が安定していくとは思えないな。
いくら太い柱に見えても地面の下の部分が細い棒だったら直ぐに折れちまうよ。
あまり、言いたくはないが何か綻んだ瞬間にいきなり倒れるような家に俺は住みたいとは思わないな。」
「まぁ、そうですね。
例の土屋さんについては何か進展ありましたか?」
「どっちのだ?
大家の方か、それとも坂本達の言ってたほうか?」
「どっちもですけど、警部に聞きたいの大家の方ですね。」
「さっぱりだな。
色んな方面から連絡をいれたが、どこも管理会社が委託されてるって事で本人には連絡がつかない状況だった。」
「本当に謎の人物ですね。
でも御前グループの人なんでしょうか?
それともただの金持ちで利用されてるだけとか?」
「まぁ、本人に聞くしかないよな。」
「そうですね。警部が結婚するとか留守電に入れたら、向こうから連絡してきそうですけどね。」
上田が冗談ぽく言ったところに山本の電話が鳴った。
「石田のおじさんだな。」
山本が言ってから電話に出た。
「もしもし、山本です。」
『ああ、勘ちゃん。
仕事中にごめんね。』
「いえ、大丈夫ですよ。
どうかされましたか?」
『実はね、勘ちゃんがこの前家に来てから、色々と思い出してたんだけど、あの事件の後にうちで勘ちゃんを預かってた時に一度だけ祖父だって言う人が来たんだよ。
でもね、見た感じ40代後半くらいだったから怪しいなと思ってね。ほら信繁さんが30代半ばくらいだっただろ?
それなのに40代のお祖父ちゃん?ってなってね。
今ならそういう人もいるかもしれないけど当時ではまだ考えられなかったからさ。
身なりはきちんとしてたけど、私達が疑ってるのを見抜いたのか
『よろしくお願いします』って言って帰っちゃったんだよ。
ほら、信繁さんって官僚だったし、お母さんの方も資産家のお嬢さんだったみたいだから遺産目当ての悪いやつじゃないかって疑ったんだ。』
「そんな事があったんですね。
その人の特徴とかって覚えてますか?
名前を名乗ったとか。」
『ごめんね、そんな人がいたって事は思い出せたんだけど、顔とかはなぁ。そう言えば、スーツ姿の人に名前を呼ばれてたな。
え~と、ちょっと待ってね、うーん…、あっ!そう言えば徳川の将軍の名前だったよ。
何だったか思い出せないけどね、ごめんね。』
「いえ、ありがとうございます。
また何か思い出したら教えてください。」
山本は電話を切って、小さく呟いた。
「徳川将軍の名前か……………」




