6部
「従来の皇族を残したまま、役割を分けて並立させる。
こうすることによって、今までの皇族の人達を慕ってる人たちを敵に回さずに新しい体制に移行しようとしてるってところですかね?」
特別犯罪捜査課の藤堂警部補が今川警部補に聞いた。上杉刑事部長から特に事件があったとの連絡はなかったが、見回りに出ていた中で自然と北条総理の会見の話題になり、藤堂が自分の意見に対する考えを聞いた形になっている。
今川は困りながら、
「まあ、僕も同じ考えだよ。
でも、皇族の人達からしても難しい話だと思うよ。
今までは皇族として生きることが当然だっていう縛りの中で生きてきてるわけだし、急に自由にしていいですよって言われても選択する先を思い浮かべること自体が難しいと思うんだ。
適切なたとえかどうかはわからないけど、定食屋さんに入ってメニュー以外も出せますけどって言われても、メニュー以外に何があるかわからない状態では選びようがないと思うんだよね。」
「いや、そのたとえは言いたいことはわかりますけど適切ではないですね。」
藤堂が言うと、後ろから
「藤堂、今川さん、少し待ってくださいよ。」
松葉づえをつきながら、常人の速さではないスピードで加藤巡査部長が追いかけてくる。
先の事件で加藤は自らの足を拳銃で撃ち、捜査をかく乱するという事態を起こしていたが、公安の関係者が関与していた事と武田警視総監の計らいによって銃の暴発の被害者として処理され、職場に復帰していたが医者から松葉杖の使用を命じられているため、見回りに同行している現在も松葉杖をついていた。
「あっ、ごめん。話に集中してて気付かなかったよ。
そんなスピード出したら危ないよ、止まってるからゆっくり来な。」
今川が言うと藤堂が、
「そうですよ、ただでさえ筋肉バカなんだからもっと自分の体のことを考えた方がいいですよ。」
「誰が筋肉バカだ、藤堂そこで待ってろよ。」
加藤は先ほどよりもさらにスピードを上げて近づいてくる。
今川はその様子を見て、まだスピードが上がるのかと驚いたし、自分が言ったことに関しては全く聞こえていなかったのかとも思った。
藤堂も言い方は悪いが加藤がこけたりしてケガをしないかを心配しているのだろうと思っていると藤堂が
「課に残って、書類整理でもしててくださいよ。
けが人は大人しくしておくものですよ。」
そう言って、藤堂は加藤から逃げるように走っていった。
「待て、コラー!」
加藤は追いかけようとしたが、今川のいるところまで来るとさすがに息が切れたのか、立ち止まった。
「大丈夫か?」
今川が聞くと、加藤は顔を上げて、
「これ、結構いい運動になりますね。」
そう言って笑って見せたが、その笑顔は少し暗かった。
「藤堂はまだ全快じゃない加藤を心配してるだけだよ。
もう責めたりもしてないと思うから気にしなくていいと思うよ。」
「そう・・・・・・なんですかね?
自分がしたことは間違いだったと本当に思ってます。
自分がもっとしっかりしてたら救えた人はもっと多かったんだと思います。」
「もしあの時って、考えてもその時に戻ることはできないし、悔やんでることがあるなら次は後悔しない選択をできるように前をしっかり見てないとだめだよ。」
「それはそうですけど・・・・」
加藤がなにか言おうとしたところで、少し先にいる藤堂が
「あれっ?もうバテたんですか?
筋肉バカじゃなくて、ただの馬鹿になったんですか?」
「なにお~藤堂、そこで2分待ってくれ。ハンデをくれ!」
「いや、何ダサいこと言ってるんですか。
さっさと来ないと置いてきますよ。」
藤堂が歩き出し、加藤は全速力で藤堂を追いかけて行った。
そんな二人の後姿を見ながら、今川は通常運行に戻ったなと思っていると、藤堂と加藤が今川の方を向き、
「何してるんですか、今川さん?
一番置いてかれてますよ。」
「わかった、すぐ行くよ。」
二人を追いかけて今川も走り出した。