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57部

「それではテーマを変えて、引き続き討論をお願いします。

テーマ2『現在の政治について』です。

現在は政治から離れられている森川氏からお願いします。」

森川は休憩の間に色々とあったのか冷静さを取り戻していた。

「我々が政治を行っていた時は、有権者の皆様の意見を反映させ、小さな声にも反応して政策決定を行ってきました。

各選挙区から当選した議員は地元の声を中央に伝えるという役職を担ってきた訳です。

ですが、今の状況は良くない。

資格試験の合格者はほとんどが大都市圏の出身者で地方出身の方は少ない。

これでは、地方の声は拾えないですよ。」

黒木が

「確かに出身地だけで見ると東京や愛知、大阪、福岡などの方は多いです。

ですが、地方出身の議員だからといって、地方の声を政策に反映できていたかというとそうでもない。

結局のところ、意見を政策に反映できるかどうかは人によりました。

当選回数が多い政治家の意見は尊重され、若手の意見など通らないし、ベテラン議員ほと献金を受け取って物事を判断する人が多かったじゃないですか?

先ほど森川氏は地方の声を聞いていたといいましたが、違いますよね?

あなたが聞いてたのは金払いの良い人の声なんじゃないですか?」

森川は目をかっと見開いたが、一呼吸入れてから、

「どうも先ほどから私を怒らせようとしておられるようですね。

国民の声をしっかりと受け止めていましたよ。

ただ、献金を受け取ったこともありますが、それも切実に意見を聞いて欲しいと思っておられる方達はどうしてもお金をたくさん持ってこられる傾向にありました。それほどに解決して欲しい問題を抱えておられたと言うだけの事です。」

「なるほど。では、お金を持ってきてなくても切実な問題ならば対応されていたと主張されるわけですね?」

「当然です。」

森川は勢い良く答えたが、黒木が

「では、私が提出しておいた映像を再生してもらえます?」

森川はきょとんとし、司会者は黙って頷いた。

大きな画面に映像が映し出される。

倒壊した建物や土砂で埋め尽くされた道路が映り、そこに大勢のスーツ姿の男達が現れた。その先頭に立っている人物が大きく映し出され森川だとわかる。

黒木が

「この映像は、森川氏が総理在任中に発生した自然災害を視察された時の映像です。テレビ局に保管されていた編集前の映像ですが、森川氏はご記憶にありますか?」

「きちんと総理大臣として、被災者の皆様の状態を視察させて頂いたと記憶しています。」

森川は当然だと言わんばかりに言った。

「映像の続きをお願いします。」

黒木が言うと、映像の再生が始まった。

森川と周りの官僚達は資料に目を落としながら歩いていた。土砂崩れで家が倒壊しているところを通りかかった時だった。映像を見ていた森川の顔が青白くなっていく。

倒壊した家の方から小学生くらいの女の子と男の子が走ってきて、森川に向かって、

『お願いします、助けて下さい。

家の中にお父さんとお母さんがいるんです。』

女の子が必死に言い、男の子が

『これだけ大人がいればなんとかなると思いますお願いします。』

森川は姉弟だろう少年と少女を冷たい目で見て、

『土砂崩れが起こってからどれくらい時間がたった?』

近くにいた官僚が慌てて資料を見て、

『約75時間です。』

『そうか、残念ながらこのような状況では72時間が生存のリミットだ。

諦めて安全な場所に行きなさい。』

森川の声には優しさなどなく、突き放すような言い方だった。

少女の方は絶句して立ちすくみ、少年の方は怒って近くの土砂を森川に向けて投げつけた。森川はスーツの汚れた所を真っ赤な顔で払って、

『私はこの国で一番偉いんだぞ!』

そう叫んで少年を平手打ちした。周りにいた官僚達が森川を押さえて引きずるようにして連れていった。そこに男性の声が入る。

『おい、もうあんなやつどうでも良いから救助に手を貸すぞ!』

そこで映像は終わった。黒木が

「親が倒壊した建物に取り残されている、助けて欲しい。

これほどに切実な問題ならば対応されていなければいけない。

このような災害は当時色んな場所で起きていて警察や消防に連絡できた人から救助されていました。映像の小学生の姉弟では連絡の手段がなかったのでしょう。

そこに通りかかった大勢の大人に助けを求めるのは当然の事です。

なのに、あなたは助けるどころか親を諦めろ等と暴言を吐き、少年に平手打ちまでしている。

総理大臣以前に、国会議員以前に、人としてあなたのした事は許される事ではない。」

「こんな映像は知らん!フェイク動画だ!」

森川は目を泳がせながら、真っ赤な顔で叫んだが、司会者が

「これは本物ですよ。

関係者への聞き取りや事実確認も行われています。

ところで、森川氏はこの後の姉弟がどうなったかご存知ですか?」

「そんなこと知るわけないだろう。

それに関係者とは誰だ?どうせいもしない関係者を作り上げてるだけだろう!」

黒木が

「この映像の続きは、撮影していたテレビ局のスタッフに加え、あなたの後ろに大勢いた役人達も合わさって土砂を取り除きました。

姉弟のご両親はかなり衰弱されていましたし、骨折などの重症ではありましたが生きておられました。

発見があと少し遅ければお二人とも命はなかったと病院で診断されています。

あなたが見捨てた命は、生きていて助けを待っていたんです。」

「ふざけるな、でたらめだ。こんな事はなかった、フェイク動画だ!」

司会者が

「森川氏、3番のカメラマンに見覚えはありませんか?」

言われた森川はそのカメラマンを見た。

「知らん、カメラマンの顔などいちいち覚えてない。」

司会者が

「彼がこの映像を撮影した人ですよ。

この映像を使うにあたり、もちろん番組のプロデューサーの許可もおりてます。

ここまで言ってもフェイク動画だと仰りますか?」

「うっ………ぐっ…………」

森川は反論できなくなって黙り込み、立ち上がった。司会者が近より森川の耳元で何かを呟いたがその音声までは聞こえなかった。森川は真っ青な顔になり、勢い良くスタジオを飛び出して行った。

司会者が

「森川氏は説明責任を放棄し、責任転嫁を試みたものの失敗したので逃げられたようですね。まさに政治家といった感じの人ですね~。

今回の討論は誰がどう見ても黒木議員の勝利ですね。

では、来週の討論は変わり行く日本の経済についてです。

黒木さん、お忙しい中で来て頂きありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

黒木が挨拶をして、司会者が

「それではまた来週~」

そう言って手をふり、番組が終わった。

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