56部
「それではテレビ討論会『日本の行方』を始めます。
本日のゲストは、現職国会議員の黒木俊一氏と前国会議員の森川芳郎氏です。
この番組は、様々なテーマに沿って専門家をお招きして、世間が知らないことや理解が難しい事を解りやすく伝え、本当に良いものと変えなければならないものを国民全員で考えていくための討論番組です。
それではゲストのお二方、よろしくお願いします。」
番組の司会者にいわれ、黒木と森川が揃って、「よろしくお願いします。」と答えた。司会者が
「黒木氏はまだ30代後半、森川氏は80代前半で長らく閣僚や総理も経験されたベテランです。それぞれのお立場からみた日本の政治についていくつかのテーマをこちらから質問させて頂き、それにお二人の意見をお話頂きます。
それでは、第一のテーマです。
テーマ1『政治家資格試験について』です。
それでは導入にも深く関わっておられる黒木氏からお願いします。」
「政治家資格試験は多すぎる国会議員を大幅に減らし、税金の無駄使いを減らし、更に政治家としての資質を試験という形で証明する事によって政治家に対する信用を取り戻すために必要でした。
誰かもわからない候補者を選挙で選び、失言や不正行為を繰り返しても記憶にないだとか、秘書や周りがやったことで自分は知らなかったと言い逃れたりする政治家に対して国民の皆さんをかなり失望させてしまいました。
どんなに社会が辛く厳しい状況になっても、身分が保証され、様々な特権を認められているような政治家が国民に我慢を強いるだけで自分達の身を削ろうともしない。
そんな政治家のいうことに正統性を見いだせなくても当然です。
資格試験後の国会議員は月給50万円、献金等の受け取りは全面禁止、経費は領収書を提出し認められればかえってくる仕組みになりました。
国会議員特権はすべて廃止されました。
今現在も国民の皆様が必要としている政策を模索し、信頼回復に向けて動いている所であります。」
黒木が言い終わると森川が
「私はとんでもない制度だと思いますよ。
確かに黒木氏がお話しされたような事はありました。
しかし、長らく政治に携わって来たベテランは試験という新しい動きについていけずに不合格になられた方もおられますし、国会議員の人数が無駄だったというのもおかしな話です。
国民の代表者である国会議員は民主政治の根幹であり、多くの意見を聞くためにはたくさんの人が必要な訳です。
今の政府は独裁的で民主政治とはかけ離れています。」
「本当にそうでしょうか?」
黒木が言うと森川が怪訝そうな顔をして
「何が言いたいのですか?」
黒木は呆れたように
「試験の内容は政治家としての基本的なことや一般常識、それから族議員のための専門的な知識問題です。
普段から勉強し、政治家としての活動を真剣に行っていたなら高得点をとることも難しくはなく、実際にベテランの方も合格されてます。
逆にお聞きしますが、総理経験や閣僚も経験されている森川氏が正答率2割以下というのはどういう事なのかお聞きしたいですね。」
森川は顔が真っ赤になり、
「う、うるさい!
あんな試験よりも長いこと政治に携わった経験の方が大事に決まっているだろう。我々の働きが日本を支えてきたんだ。」
「それにも語弊がありますね。
日本を支えているのは、国民一人一人であり、官僚頼みで偉そうに原稿を読んでいるだけの政治家ではありません。
森川氏も在職中は原稿とにらめっこしながらお話しされてましたし、漢字の読み間違いも多かったですね。
自分で作った原稿なら読み間違えたり、ずっと見てる必要もありませんよね?
それなら原稿を作った人に話してもらう方が無駄がなくて良かったと思われませんか?」
「う、う………うるさい。」
森川は小さく言った。だが、それ以降の反論の言葉は出てこなかった。黒木が
「私自身が官僚から政治家になったので思うのですが、自分達で勉強もせずに偉そうにふんぞり反って問題が起きたら官僚のせいにして逃げるような人達を政治家と呼ぶのはどうかと思うんですよ。
年功序列で、当選回数が多い人ほど役職について、媚びへつらってくる若手にだけ目をかけて、媚びを売るしか能がない無能な方々が役職については問題を起こして辞任して政治家の信頼を貶めていく。
実に非効率的で無駄な歴史ですね。」
森川は言い返せずに下を向いて唸っている。それを見た司会者が
「どうやら完全に森川氏が言い負かされて討論にならないようですから、ここでいったん、休憩をいれましょうか。
休憩後にテーマ2に移ります。」
司会者が言い、収録が止まると物凄い勢いで森川は席を立って出ていった。




