52部
『バンッ』と扉が勢い良く開いた。武田警視総監と話していた上杉が扉を見ると山本と上田、伊達の三人が立っていた。武田が苦笑いで
「お前らはノックするという事を知らないのか?」
明らかに扉を開けたであろう山本が、
「緊急の用事でしたので省きました。」
上杉が何か言おうとしたのを武田は遮り、
「なんだ?」
「俺が前回匿われていた施設は報告しましたが、そこの施設の所有者が土屋という人でした。」
「う~ん、だから?」
武田は山本が何を言いたいのかわからずに聞き返した。
「すまないな、思い当たる人がいないのだが誰だ?」
上杉も誰かわからずに聞いた。伊達が
「山本警部から聞いて土屋という人物を調べました。
世界各地に不動産を所有する資産家で日本での資産額だけで50億はありそうです。不動産管理会社をしていましたが倒産し、一時期はホームレスになってそこからまた莫大な資産を手にいれています。
特に犯罪歴もなく、税金の支払いに不備や不正はありませんでした。
現在、山本警部と黒田警視が同居しているマンションの大家だそうです。」
「山本の知り合いの管理している施設だった事は何となくわかったが、それが緊急の用事になる意味がわからない。」
「武さんは、俺と初めて会った事件の事を覚えてますか?」
「ああ、警察学校の実習で交番勤務してた若造が事件の推理を始めて上杉が手柄を挙げた事件だったよな。」
武田は懐かしそうに言い、上杉が
「かなりの資産家が、喧嘩の末に人を殺したとは思えなかったし、何より現場をしっかりと見ずに犯人を決めつける所轄の捜査に苛立ってたのを覚えてるよ。
そう言えばあの資産家も土屋………………。そういう事か。
あの時の被疑者だった人が施設の所有者だったわけだな。
だが、それがなんで緊急な用事になるかは俺もわからないぞ?」
伊達が
「問題は土屋なる人物が山本さんの知ってる人じゃなかったんですよ。
山本さんが知ってる関係者にあたりましたが、全ての人が写真を見て土屋さんだと答えました。
しかし、ある不動産関係の人の話ではその人は土屋さんではないと答えた人がいたんです。
土屋さんは背が高く、輪郭はスッキリとしていて痩せていたそうですが、山本さんの知る土屋は背は平均くらいで、丸顔の少し太っている男でした。
長いこと会ってないと先程の関係者は言ってましたが、特徴が一致しません。
最近の知り合いは山本さんが知ってる土屋で、昔付き合いのあった不動産関係者は違う人だという。
つまり、土屋は誰かが成り代わった可能性があるということです。」
「その土屋は今どこにいるんだ?」
「それが少し前に旅行に行くと言って消えました。」
山本が答えると武田が
「う~ん、まぁ、謎ではあるがその関係者の記憶違いやそもそもの人違いの可能性もあるからな、慎重に調べてくれ。
こちらでも調べておこう。」
「わかりました、失礼します。」
山本が勢い良く部屋から出ていき、他の者もそれに並んで出ていった。
「どう…………思いますか?」
上杉が聞くと武田は頭を抱えて
「一被疑者の顔なんて覚えてない。
もしこの件が成ノ宮に繋がるなら、その人物が成ノ宮である可能性が高い。
政務天皇の正体にも繋がる重要な問題だな。
上杉の方でも調べておいてくれ。」
「わかりました。
でも、期待はしないで欲しいですね。
正直、調べられるとは思いませんから。」
「わかった。」
武田は短く答えて目を閉じた。




