50部
「ホームレス支援って儲かるんですか?」
山本が一時匿われていた施設に一緒に来た上田が、山本に聞いた。
「支援した事で直接的に収入を得る事は難しい。
金に困ってる人から金をとる事はできないからだ。
基本的には慈善事業として行われるが、金持ちの脱税に使われるケースもあるらしい。
売り上げが出ない事業をして損失を多く計上できれば所得額が減るからな。
ここもそんな理由で作られたって聞いたぞ。」
「直接的にはってどういうことですか?
間接的に儲かる方法があるみたいな言い方ですよね?」
「簡単に言えば人材派遣だよ。
力仕事の土木関係なら人手が多いほど良いし、特別な能力を持ちながら不運が重なってホームレスになった人だっている。
そういう人達を人手不足の所に紹介して紹介料を取れば、タダで集めた人を紹介するだけで金が入る事業にできる。
紹介した人が辞めても新しい人を送り込めば、さらに儲かる仕組みだしな。」
「ここの所有者は特定できたんですか?」
「不動産会社が所有してる事にはなってるが実際の所有者は別にいそうだと伊達が言ってた。」
上田は自分でもこの場所を調べようとしたが、深い事情までは調べきれなかったのだろうと山本は思った。
家族の事を調べていても病死だと思っていた母方の祖父母が事故死だったように知っていると思っていても事実でない事もあった。
上田が
「この施設に出入りしてる人はおよそ100人ほどで夏や冬になると噂を聞いて倍以上になることもあるそうですよ。
儲けてはなくても人の役には立ってるんじゃないですかね?」
「ホームレスの人からすれば、良すぎる環境は逆に辛くなる事もあるらしいぞ。夏にクーラーのきいた部屋にいると外に出るのが嫌になるみたいな話だったな。」
「ああ、そういうのわかりますね。
そろそろ入りますか?」
「そうだな、伊達達も周りは囲めただろうしな。」
念のために周囲を取り囲み、万全の状態になったので山本と上田で正面から入り、その他の入り口を伊達や三浦達が張り込んでいた。
施設に入ると、施設の管理を任されている者が出てきて、
「ああ、山本様。
お久しぶりですね、本日はどのようなご用件ですか?」
「この間のお礼を言えてませんでしたので、改めて来させて貰いました。成宮さんは最近ここに来られましたか?あの人にもお礼をしなければいけないのに所在がまったくわからなくて。」
男はにこやかに
「そうですか。それはそれはわざわざありがとうございます。
成宮さんは最近はないですね。
あの人は基本的にはここを利用される事自体が少ないですから。」
「そうですか。
あっ、あとですね、この施設の所有者って誰だかわかりますか?
その方にもお話を聞いてみたいのですが?」
「事業に損失は付き物ですよ。
脱税に使われているなんて聞きますが、そんなことは一切ありませんよ。」
相変わらずにこやかに男は言った。
「いえ、慈善事業を頑張られている方というのも珍しいので興味本意できいただけですよ。
それに成宮さんはここの所有者にお詳しそうでしたから、成宮さんがどこにいるかも知っているのではないかと思いまして。」
「なるほどそうでしたか。
私が言うのもなんですが成宮さんの居場所を知る人物なんてこの世界にいないと思いますよ。
さっき吹いた風がいまどこを吹いているのかわからないように、成宮さんがどこにいるのかもわからないでしょうね。」
「そうですか。
それで所有者の方は?」
男は少し間を開けて
「教えても良いかを確認してきます。
あちらのソファーにお掛けになってお待ちください。」
男は頭を下げて奥へと入っていった。




