48部
『足束教授はもう恩赦の投票はされましたか?』
テレビのアナウンサーが聞き、足束教授は笑顔で
『そうですね。届いたらすぐ投票しようと待ち構えていたので、全員に×をつけました。
犯罪者である以前に候補者の5人は人として守られるべき権利を有しています。ですが、今回のやり方で出所できたとして多くの人から蔑まれる可能性があります。
犯罪者として吊し上げられている訳ですから、彼らの事情を深く考察しそれでも釈放させるべきだと考えている人ばかりならいいのですが、何も考えずに適当に投票する人だっているでしょう。
軽率な考えの人は更なる軽率な行動に出かねない。
偏った情報しか知らないのに他者を悪人と決めつけ嫌がらせや中傷を行っている人が社会に溢れているのは皆様もご存じの事だと思います。候補者が釈放されたとして軽率な人間のストレスの捌け口として攻撃されないかが私にはとても気がかりなんです。
事情を聞く限りでは彼らには同情すべき傷を負っている事が伝わってきますが、政府の勝手に決めた基準で釈放されることによって傷をえぐられたり、新たな傷をつけられるのではないかと心配になるのです。私は彼らを守るためにも釈放されるべきではない考えています。』
テレビを見ていた伊達が
「いかにも人権重視の学者が語りそうな綺麗事ですね。」
片倉が
「お祖父様もお考えの末での発言でしょう。
だいたい、投票というのは公平性と透明性が大事です。
自分が誰に投票したかを明らかにするのは構いませんが、学者や有名人がそうするべきではない。
有名人や知識人は意図せず影響力を持っています。
有名でなくても知識人が批判すれば、それが真実であるような錯覚を与えますし、芸能人の妄信的なファンからすれば自分の生き方の指針として芸能人に追随する判断を下してしまう人もいます。
今回の問題では誰かに相談するでもなく、自分自身の判断による行動が求められているわけです。
誰かを基準にその良し悪しを判断するなら構いませんが、この人がこう言ってるから、それが正しいとは考えないでもらいたいですね。」
「片倉さんは、どう判断したんですか?」
大谷が聞いた。
「私にはさほどの影響力もありませんからお答えしますが、全員×をつけました。
事情があれば、同情されれば釈放されるなんて事はあってはいけませんから。
そんな事が認められる社会になれば裁判は悲劇の主人公を演じる愚か者のつまらない演劇に成り下がるでしょう。
事実を公正に、そして正当に判断される場所が裁判所なのですから被告人の主観など取り入れる必要はないんですよ。
罪は罪として、罰を与える。もし被告人が反省し後悔しやり直しを求めるなら、彼または彼女は刑事施設という場所で行動をもって、その意思を表明していくしかないと私は思いますね。」
片倉はそう言うと眼鏡の位置をなおした。伊達が
「どちらにしろ、政府が決めた候補者が釈放されない訳がない。
まるで、公認を得た立候補者が選挙で必ず当選するような感じがする。完全なできレースだと思いますね。」
伊達はそう言うと立ち上がり部屋をあとにした。




