46部
「警察官の立場からすると、恩赦ってあんまり認めたくないですよね?」
特別捜査課のテレビの前に座った三浦が言った。
北条総務政務官と法務省の姫地による会見の翌日であるため、どのテレビ局も会見の内容と恩赦についての特集が行われている。
「一生懸命に被害者のために捜査して、捕まえたんだから刑期はしっかりと守ってほしいよな。」
自分の問いかけに誰も答えてくれないから、三浦がそう言うと、山本が
「刑務所に長期間入ることのデメリットは、社会からおいていかれる事にあるらしいぞ。
例えば、携帯電話の進化は普通に生活していてもついていけない人が多いのに社会から隔絶されてれば何をどうして良いかわからなくなるらしい。
少し古い話だが、駅とかの自動改札ができたての頃に釈放された人がどうやって電車に乗るのかわからず、ずっと改札の前に立ってた事もあったらしい。
今なら電子マネーだろうな。
俺もよくわからないし、それを利用した詐欺なんかもあったから使おうとも思わないが、これから5年、10年ってしたら電子マネーが当たり前で現金使うことの方が珍しくなるかもしれない。
社会においてかれると感じるのは孤独だ。
自分の居場所を見つけられず、また犯罪に手を出してしまう。
そうなる前に一般的な教養だったり、技術の発達についてを教えていかなければいけない。
でも、それには講師を呼んだり、機器を揃えたりと金がかかるから全部の刑務所での実施は難しい。
それなら早く出所させておいてかれるのを防ぐ方法もありだろ。」
「警部の言うこともわかりますけど、五條とか坂本さんが候補に入ってるのは納得できるんですか?」
三浦が聞くと山本は少し黙ってから
「政府の出した7つの条件、これがどうにも怪しいんだよ。
怪我させてないとか殺してないとかは凶悪犯ではない事を前提にするためだろうし、改善更正が進んでるとかは刑事施設側が釈放させても良いと判断するためのものだろう。
でも、裁判で同情を集めたとかはどうも五條と坂本を候補に入れるためだけに加えられた条件な気がする。
あの法務省の姫地さんが坂本には反対で五條には言及しなかったのも気にはなるが、難しい判断を国民に訴えてる事にはかわりはないな。」
「有権者番号って言うのは届きましたか?」
大谷が聞き、三浦が
「朝早くに家でてるからな。
帰ったら、届いてるのかもしれないな。」
「今日以降に届くって、準備はかなり前から進んでいたってことですよね?」
大谷が言い、山本が
「何が言いたいんだ?」
「いえ、都市部とかでも配達は大変なのに山間部とか過疎化地域だと配達自体が難しかったりしますよね。
かなりお金がかかるだろうし、配達員の追加も必要になるなら、役所も郵便局もかなり以前から準備してた事にならないかなと思いました。
別にそれ自体に問題はないですけど、情報のもれが一切なく今日を迎えてる事が少し不気味だと思います。」
「人が多く関わればどこかから大規模な郵送の話が漏れても仕方なかったのにそれがなかったって事は確かにおかしいよな。
そこまで徹底して箝口令を引いてまで秘密にしたておかなければいけない理由もありませんしね。」
三浦が言い、山本が
「まぁ、どちらにしろ投票は個人の意思で決定されるものだし、俺らが一生懸命捜査して捕まえたから100%悪人だって訳でもないしな。
五條や坂本が釈放されるなら、あいつらが国民の多くから同情されるような人間だったって事で俺らにはどうしようもないよ。
ほら、さっさと仕事にもどれ。」
考えても仕方ない。議論していても変えられるわけでもない。それなら先を見越して何か起きたら対処できるように準備をしようと山本は思い、手元の資料に目を落とした。




