4部
刑事部長室に山本と竹中が入ると上杉刑事部長は難しい顔をして書類を読んでいた。二人に気がつくと上杉が
「悪いな、前回の事件の後始末もまだ十分じゃないだろうが次の案件にとりかかって欲しい。」
「どんな事件ですか?」
山本が聞くと、上杉はどう答えるかを悩んでいるように見えてから
「まだ事件は起きていない。
正確に言うなら事件が起きるという確証もない。」
「なら、何をやればいいんですか?」
竹中が聞くと上杉は落ち着いて
「北条総理が政権を皇室に返すことを発表しただろ。
しかも、現皇族の中から選ぶのではなく、元皇族の中から選ばれた人を新天皇にするという内容だった。
他にも憲法の制定のし直し等、保守派からすれば許容できないくらいの大改革を行うつもりだ。親皇派や護憲派の中には過激なグループもいくつか確認されている。
今のところ大きな動きを見せているところはないが、今後の動きは想像できない。しかも一般人の中から過激な行動に出る者が現れないという保証もない。
大規模なデモや日本の政治体制の変換期を狙って外国が動かないとも限らない。
スパイ活動やテロの可能性も否定できないから、国内の安全を守るためにどんな些細な事案であっても、裏に大きな組織が関わっていないかを調べておかなければいけない。
公安は独自に調査を行っているようだが、こちらに情報を入れてくることはない。
そこで、俺が一番信用できるお前らにこの調査を任せることにした。
調査が必要な案件に関しては、発生次第、情報をそちらに連絡するようにしておくから連絡を受けた案件から捜査を頼む。
以上だ、何か質問はあるか?」
「うちには片倉がいますよ?
公安にこちらの動きを知らせないとも限らないですが大丈夫ですか?」
「かまわない。
片倉が何を調べているのかも大体は把握している。
調べられて困ることも、こちらの動きを知られて困ることもない。
それに北条総理がこれから改革の詳細を発表すれば国民の混乱はさらに大きくなるかもしれない。
国民を守ることが我々警察の最優先事項だ。
内部で喧嘩してる場合ではないからな。」
「了解しました。
では、何かあれば言ってください。」
山本がそう言って部屋を後にしたのを見てから竹中が
「あんたらの計画は最終段階なんやろ?
それやったら、山本にも情報を全部伝えておくべきやないんですか?」
「竹中さん。
人はみな、自分は正しく自分に不都合なことが起これば、他人が、社会が、世界の方が間違っていると思いたいんです。
私も、武さんも自分が正しいことをしているという自信はあります。
でも、絶対に自分達が正しいという確信は持っていないんです。
あの人達が正しいのかもしれないし、もっと昔から間違えたままで時を経て正しい事だと思い込んでいるだけなのかもしれない。
何十年、何百年という先になって、あの人達のやったことが正しかったと判断されるかもしれない。
私達の考えを山本に伝えても、山本が私達と同じ結論になるかもわからない。
その時が来るまで、私達は山本を導き、守らなければいけない。
竹中さんには横であいつを支えてもらうために来てもらってます。
あいつの判断に私達は全てを任せる覚悟をしているんです。
もう少しだけ、待ってください。よろしくお願いします。」
上杉はそう言って頭を下げた。竹中はその様子をじっと見てから、
「例えあいつの結論があなた達を裏切るものであっても、俺は山本の味方になりますよ。」
上杉は顔を上げて真剣な表情で
「よろしくお願いします。」
そう言ってまた頭を下げた。