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37部

山本は上田と別れて閑静な住宅街に来ていた。

山本にとって懐かしさを感じる家の玄関近くには植木の手入れをしている男性が見えた。

山本が近づくと男性も山本に気がつき、

「やぁ、勘ちゃん。

うちに来てくれるなんて珍しいね。」

「突然すみません。

おじさんとおばさんに少し聞きたい事があって来たんですけど、お時間を貰っても大丈夫ですか?」

石田のおじさんは笑顔で

「もちろんだよ。

一成があんなことになって、うちには息子だと思えるのは勘ちゃんくらいだからね。」

「ありがとございます。」

おじさんに連れられて家の中に入るとおばさんは晩御飯の準備をしていた。山本が挨拶をするとおばさんは笑顔で

「来てくれるなら連絡くれたら、晩御飯の準備しておいたのに。」

「いえ、まだ仕事中なのでまた今度ゆっくり来させてもらいます。」

「そお?

できたら前日には言ってね。」

おばさんは楽しそうに言った。おじさんが

「それで、聞きたい事っていうのは何かな?

私達で協力できるといいんだけどね。」

「お二人はうちの両親と仲良くして頂いてましたよね?

近所で同い年の子供がいたから仲良くなったんですか?」

「勘ちゃんのお母さんと私は昔からの友達だったわよ。

勘ちゃんの住んでた昔の家はお母さんの実家だったから。」

「そうなんですね。

じゃあ、母方の祖父母の事故についてはお詳しいですか?」

「ああ、お二人とも優しい方でね、子供が好きで交通安全のボランティアをされてたの。

あの日も二人で下校中の小学生のために交差点に立ってらしたんだけど、突然信号無視の車が走ってきてね。

交差点を渡ってた子供達をかばう形でお二人とも車に轢かれたの。

何でも強盗犯が逃げてて、パトカーに追われて信号無視をした車だったそうよ。

すぐにパトカーの人達が救急車を呼んでくれたけど、お二人は助からなくて、周りにいた小学生の子達も大怪我をした子が何人もいたけど、子供達には死者はでなかったの。

お二人のおかげだって、皆がお礼に来られてたの覚えてる。」

おばさんの話が終わって、整理すると母方の祖父母が事故で亡くなっている話から何か陰謀のようなものを疑っていたが、この話を聞く限りではその可能性は無さそうだ。

「じゃあ、父方の祖父母についてはどうでしょうか?

あまり記憶になくて。」

「ああ、信繁さんのお父さんとお母さん?

実は一度もお会いしたことないんだよ。

勘ちゃんのお父さんとは家族で一緒に遊びに行ったりもしてたし、お酒飲んだりと親しくさせて貰ってたけど、ご両親の話をされた事はなかったな。

官僚の中でもエリートだって聞いてたけど、偉そうな感じもないし、僕みたいな普通のサラリーマンに対しても丁寧にしゃべってくれてとてもいい人だったよ。」

おじさんが懐かしそうに言った。おばさんが

「そう言えば、結婚する前に一度だけ勘ちゃんのお母さんから、お父さん達に結婚を反対されてるって相談を受けた事があったね。

信繁さんについてというより、信繁さんのお父さんが気に入らない感じだったわ。

でも、最終的には信繁さんが向こうの家とは今後一切関係を絶つし、婿養子になるとまで言い出したから、結婚を認めて貰えたって言ってた。結婚式にも新郎の関係者は職場の人だけだったよ。」

「ああ、そうだったね。

なんか周りの人がざわざわしてたの覚えてるよ。」

おじさんが言って、何かを思い出したように

「そう言えば、結婚式にこの前ニュースでやってた人も来てたよね。

何だっけ、あの総務省の偉い人だった……………………」

「黒木雄二氏ですか?」

山本が慌てて聞くと、おじさんは驚いて

「あ、ああ、そうだよ。

あの時はまだ現役で働いておられた頃だと思うよ。

事務次官ってあんまり表には立たない人が多いけど、あの人はメディアとかにもバンバン出てたし、政治家より国を動かしてるイメージがあったな。

官僚の繋がりで来てたのかな。」

「でも、その人って何人かと一緒に親戚用の場所にいなかった?

私もちゃんとは見てなかったけど、男の人が3人座ってた気がする。」

「親戚が呼べなかったから位の高い人をそこに入れてたんじゃないか?」

「でも、ひとりは結婚式とは思えないほど暗い顔してたし、もうひとりは涙流して喜んでる感じだったと思うの。」

「そこまでは僕はみてなかったな。」

「父と母の結婚式で親戚席に黒木と一緒にいた人達か。

他には何か父方の祖父母について聞いてた事はありますか?」

おばさんは考え込んでしまった。おじさんが

「ああ、そう言えば………。

信繁さんと飲んでた時に、お父さんも官僚なんですかと聞いた事があったね。あの頃は公務員はコネでなれるみたいな噂が出回ってたし、実際に市役所レベルのところはそう言う事もあったらしい。

でも、信繁さんは困ったような顔をされたから聞かれたくないのかと思って、すぐに忘れてくださいって言ったんだ。

そうしたら、信繁さんが何の仕事とも言い表しにくかっただけで、答えたくない訳ではないと言ってたよ。

彼が言うには『よく言えば歴史学者、悪く言えば叶うことのない夢を追う冒険者』だと言ってたよ。反発して家を出たから父親の目的を邪魔するために官僚になったとも言ってたね。」

「それはどういう意味ですか?」

「よくわからないけど、酔ってたからね。

でも最後には誰にも言わないで下さいと言われたね。」

「今、言っても良かったんですか?」

おじさんの話からすると『誰にも』には確実に息子である自分も入っているはずだ。だが、おじさんが

「いや、信繁さんが勘が知りたいと言うなら教えてあげてくださいって言ってた。

『義理の両親のように何が起こって、自分が死ぬかもわからないから伝言ですね。真実は気づかないだけですぐ近くに有るものなのだと自分を信じて、自分を貫いた先に答えは有るのだ』と伝えて欲しいと言ってたよ。もちろん、子供の勘ちゃんに言っても伝わらないと思ってたから今まで言わなかったけど、もう大人なんだもんな。」

「真実はすぐ近くにある……………………、自分を貫いた先に答えはある…………」

同じような事を長田さんにも言われた気がする。その真実が何なのかはわからないが初めて父から授けられた伝言には何か深い意味があるような気がしてならなかった。

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