34部
長田のいる銀行をあとにした山本と上田は車で移動していた。
「長田さんは何を知ってるんだと思いますか?」
運転をしている上田が聞くと山本はあくびをしてから
「さぁな。
上田なら人に話したくないと思う彼らの秘密はなんだと思う?」
「わかりにくい言い方ですね。
長田さんになったつもりで考えろってことですよね。
現実的にはこれから何をしようとしているのか、あるいは日本改革の先についてですかね。
元々は成ノ宮って人が考えた日本を実現させるために行動してきているのなら終着点を聞いていてもおかしくはないですから。」
「だが、それだと俺を見つめ直しても答えはでないんじゃないか?
俺は彼らの計画を知らない訳だしな。」
「そう言えば、長田さんが違和感を深く掘り下げろっていってましたね。警部の違和感って何なんですか?」
「違和感なんてたくさんあるだろ。
新聞見ててもあそこの国の政策はとか、犯罪者がたくさんの人を殺しておきながら、被害者は数人だけだと思ってたと発言したこととか。
自分の国内情勢が悪いから他国に厳しく当たったとして、国民が政府すごいってなるわけないだろ。
今はどこの国も繋がって共存してるのに国民受けだけ考えた政策が即座に外国からの反撃にあうのは明確だし、そんな事を長年続けてる国なら溜まりに溜まった不満が一斉に爆発する事だって想像しとかないといけない。
ならなぜ、今そんな政策をとっているのかって違和感を感じるだろ。
単純に政府がアホなのかもしれないし、大きな布石なのかもしれない。そんな事を掘り下げても今かかえてる問題は解決しないけどな。
例えば、俺を掘り下げるなら家族についてだろ。
両親を殺された経験を持ってる人なんてよくあることではない。
そう考えるなら、実はあの事件にはもうひとつ隠された真実があったのかも知れない。」
「そう言えば、事件に対する新証言が出たのに死刑が執行されましたよね。あれは不自然でしたよね。」
「まぁ、もちろんの事だが死刑の日程が決まってて、その日に執行するって感じの役所仕事がされた可能性はあるからな。
それにこの話は隠された真実があるという前提に立っての話だから成立するが、この前提がなければネットニュースみたいな信憑性もない妄想にすぎないけどな。」
「出元の不明確な話なら妄想かもしれませんけど、今回のは信じられるんじゃないですか?
長田さんが警部を騙す理由がないですし、長田さんの利益がないように思いますよ?」
「得はないけど損する事ならあるんじゃないか?
警察に余計なことを話したってことで命を狙われるかもしれないぞ?」
「まぁ、そうですね。
ご両親の事件以外に家族について知らないことはないんですか?」
「そんな急に言われても出てくるわけないだろ。」
山本が呆れたように言うと上田が
「そう言えば、ご両親の事件の後は幼なじみの石田さんの所で暮らしてたって話してましたよね?
おじいちゃんとかおばあちゃんはいなかったんですか?」
「母方の祖父母は俺が4歳くらいの時に病気で他界したよ。そう言えば父方の祖父母は会ったこともないな。
家を処分するのに片付けた時も写真一枚出てこなかったな。」
「怪しいですね。
でも、ただ仲が悪かっただけとかの可能性もありますしね。
お父さんの方の祖父母について知ってる人とかいないんですか?」
「石田のおじさん・おばさんが知ってるなら、そこに預けてくれただろうからそれはないだろうし、ご近所付き合いのあった家とも言えないから昔の家付近で聞いても無駄そうだな。
違和感が家族に対するものじゃない可能性を考えるとするなら何かあった気がするんだよ。なにかもう少しで出てきそうで出てこないんだよな。」
「あの成ノ宮って皇族が本当にいたのか?って疑問は残ってますけどね。実在しない人を崇めて、その人の理想とした日本を実現させようとしてるとなら、カルト宗教みたいでやばそうですよね。」
「成ノ宮…………。
あの時のじいさんが『成宮』って名乗ってたんだよ。」
「急にどうしたんですか?」
「加藤が撃たれたって言うか撃った後、しばらく逃げてただろ?
あの時に俺を助けてくれたじじいがいて、何か胡散臭い感じだったけどそのじじいが自分は成宮だって言ってたんだよ。
俺の事も詳しかったし、足束教授が伊達の祖父だって事も知ってたし今になって考えるとホームレスとは思えない部分があった。
あの人が『成ノ宮』なら、俺は既に出会っている。
しかも、俺の感じてた違和感を掘り下げればって事にも繋がる。」
「その人がどこにいるとか、見た目がわかる物とかありますか?」
「いや、ホームレスだからな。
でも、俺が最終的に匿って貰ってた場所に行けば手がかりがあるかも知れないな。
見た目の話なら伊達も会った事があるな。」
「その線から調べてみましょうか?」
「いや、あからさま過ぎる気もするな。
とりあえず、匿って貰ってた場所については調べてくれ。
俺は自分の家族についても調べてみる。」
「わかりました。伊達にも言いますか?」
「そうだな、教授の話をされて怒ってたから既に調べてる可能性もあるな。まぁ、一応伝えておいてくれ。」
「わかりました。」
「どこかの駐車場で降ろしてくれ。
一人で行きたい所ができたから。」
「えーと…………ああ、コンビニありますね。
あそこで良いですか?」
「ああ。」
上田はコンビニの駐車場で停車し、山本は車を降りた。




