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31部

「まぁ、何か起こってからでは遅いって言うのはわかりますけど、損害保証とかってケース・バイ・ケースじゃないですか。

 じゃあ、法律で決めたことしかやりません、なんて事も過去にいくらでもあった事ですよね。

法律の改正に手間取って結局は何もできてなかったり、意味のない事に金使うだけでしょう。」

 テレビを見ながら伊達が言った。警視庁内にある特別犯罪捜査課では、黒木雄二殺害事件の捜査と政府が毎日のように発表している新政策に対するデモや反対集会に対する対処が並立で行われていた。

 伊達は主に政策反対活動に対しての処理を任されていたので、テレビ等の会見を見て反対集会を解散させるための口実を探していた。

そんな伊達の愚痴をたまたま近くにいた竹中が聞いて、

「まぁ、何事も基礎が大事やろ。

基礎の上に色んな物を積み上げたら、完璧とまではいかんくてもそれなりのもんになるんちゃうか?」

「だいたい、この会見のやり方がまわりくどいですよね。

いきなり会見で発表するけど、その裏で学者や研究者に制度の説明や意見を求めていたり、報道関係者には解りやすく図解を載せた資料を送りつけてます。

 発表の次の日には、専門家連中が制度を詳しく説明したり批判したりしてます。

 その詳しい説明を少しでも会見でやればこっちの仕事が増える事もないのに。」

伊達が言うと片倉が、

「国民の政治的思考力を向上させる事、また行動力を試しているのかも知れませんね。政治家が決めた事に従い、理解できないままに損を強いられていた今までの国民に考え、反抗しても良いと教えているように思います。」

「政府に反抗させて、何の得があるやろな?

確かに国民全体で政策を考えられるようになれば、政治力は向上するし、税金を払う意味とかも理解できるようになるんやろな。

政治家の無駄遣いのために税金払わされてるのはイライラしてたからな。」

竹中が笑いながら言った。伊達が

「今回の政策もそこに重点が置かれてるかもしれませんね。

損害保証に使われるのは各事業者の確定申告です。

給料保証も事業継続のための給付金も前年度に提出した損益計算書をベースに同時期にどれだけの損害が発生したかを算出し、前年度比30%を超える損害が発生した場合に最大で65%までの利益額を保証するというものです。

節税や脱税をしていれば、確定申告時の利益を過小申告する事になるので損害率が少なければ給付金の金額も少なくなり事業者の負担が増します。

普段からルールを守りしっかりやっていれば何かあった時にはしっかり助けてやると言ってる制度です。

おそらく家賃保証なども純資産額の多い所は最低限の保証だけで修繕費や最低維持費しか支給されないでしょう。

不動産関係、特に家賃収入で生活している人達に向けて家賃を減額・免除すれば固定資産税を最大で2年分徴収しない等の見返りも提示されてます。まぁ、これに関しては一つの建物ごとにかかる固定資産税の減額・免除ですからね。

把握するのも難しい所があるとは思いますね。」

「こうやって聞いてると、この政策に反対する意味はないよな?

大谷、何かこの件についてはデモとかあったか?」

竹中から話をふられた大谷は資料を確認して

「現状は特に何もないですね。

今すぐ国民に何か問題があると言った感じではないですね。

ただ、政策よりも坂本元警部補に対して称賛するようなコメントがあった事に対して海外では少し話題になっているみたいです。」

「あの会見の目的は実はあれが言いたかっただけとか?」

 竹中がふざけて言うと伊達が

「あり得ない話ではないですね。

坂本元警部補は死刑判決が出てます。仲間を死刑にしたくないなら、英雄に仕立てあげるのが効果的です。」

「いや、冗談やで?

ホンマにそんな事するはずないやろ。

それに何の理由もなく死刑囚を無罪放免にはできひんやろ。」

片倉が

「いえ、ありますよ。

批判が殺到する事を前提としてなら、受刑者を解放する口実が。」

「なんやねん、それ?」

「恩赦か?」

竹中の問いに伊達が被せるように言った。片倉は眼鏡の蝶番の真ん中を指で押さえながら、

「考えられるとするなら恩赦が最有力ですね。

天皇陛下の即位と共に行われる特別恩赦は仮釈放期間を経過していることを前提に改善更正の意志が明確に見て取れる者等の要件を満たしている者の中から選ばれます。

例えば、会見で出てきたように坂本氏や五條氏を恩赦で釈放するとなれば法律からも逸脱した行為です。

 死刑囚を恩赦する等もってのほかですし、裁判員裁判において同情的な意見が多く出され英雄視されたとはいえ、強盗罪という凶悪犯罪を行った五條氏もまだ仮釈放の期間には遠く及ばない。

この二人を恩赦で釈放する何て事になれば法学者からの批判は必須。

でも、恩赦を発表するまでに彼らを本物の英雄のように祭り上げる事ができれば、政府の国民感情の操作ができることを証明できる。

…………と、これは私の私見です。」

「ありえへん話やないとこが怖いな。

まあ、そうならへん事を願うな。」

「皆さん、今日の会見始まりますよ。」

大谷が声をかけると一同の目はテレビに向かった。

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