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25部

山本と上田が警視総監室に入ると、武田総監と上杉刑事部長が立っていた。立っている事自体は不自然でもなんでもないが、その表情はとても硬く真剣なものだった。

「話とはなんですか?」

 山本が聞くと武田が

「日本が明治になる少し前の話だ。

 成ノ宮と呼ばれた皇太子がいた。

彼は、武芸が達者で文化にも精通し、何より未来を見通すかのような政治的な思考能力があった。

 誰もが次の天皇は彼がなるものだと思っていた。

だが、実際は彼は病死して亡くなり、歴史の教科書に出てくる明治天皇が即位したわけだ。

一部では毒殺されたのではないかと考えた者もいたが、正真正銘の病死だった。」

上田が

「あの~、なんの話ですか?

 150年くらい前の話ですよね?」

「それが現在まで関係する話だからしているんだよ。」

 武田は真剣な顔で言った。その表情を見て上田は黙って頭を下げた。武田が続けて

「彼は日本が近代化するための道のりを詳細に語り、諸外国の影響を受けて周辺国に戦争を仕掛けるようになる事も言い当てていた。

 後付けで伝説を加えられているのとは違い、これは本当に彼の発言として文書でも残されている。」

「新しく政務天皇になった見つかった皇族が、その成ノ宮の一族って事ですか?」

 山本が聞くと武田は頷いた。

「彼は正室を持たず、6人の側室それぞれとの間に一人ずつ子をもうけた。彼が望んでそうなったわけでもなく、彼に取り入ろうとする6つの家が無理矢理押し付けた政略結婚のようなものだった。

 彼は6人の娘を均等に愛し、誰か一人を寵愛しなかった。

 娘達も家のために無理矢理結婚させられた上に、自分の家が皇族の外戚になるための役割を果たさなければいけなかった。

どこか1つの家に権力を集中させないため、成ノ宮は全員を等しく愛する事にしたようだ。

 成ノ宮が病死した後も6つの家はそれぞれの子供を次の皇太子にする活動したが、明治へと移り行く日本では早急に即位できる皇太子を新天皇とする動きが強く、その活動も無駄に終わった。

 彼らは闇に隠れ、いつか政権を自らのものにするために一致団結した。それが現在の政務天皇の先祖達の話だ。」

「何で武さんはそんなにその話に詳しいんですか?」

 山本が聞くと、武田は上杉をみる。上杉は黙って頷き、武田が

「それは俺と上杉の家が6つの家の2つだからだ。

 6つの家とは、武田・上杉・北条・黒木・長田、そして名前がわからないもう一つの家だ。」

「つまり、武さん達もやつらの仲間ってことか?

 何でもう一つの家は名前がわからないんだ?」

「仲間かと言われたらそうだとも言えるし、そうじゃないとも言えるな。

もう一つの家は、世代と共に名字を変えているため、誰かが判別できないようになっている。

 消えてしまったのではないかとも言われていたが、もう一つの可能性として、その家こそが正統な後継者だからではないかといわれていた。」

「仲間かと聞いた質問が答えになってないですよ。」

「山本の言う通りだな。

 元々、武田・上杉は残りの4家の暴走を食い止める監視役として参加していた。現代でもその役割は健在で、黒木・長田・北条を監視し、今までも強制的に政権を奪おうとしたテロ事件を防いだ事もあったらしい。」

「じゃあ、何で今回は止められなかったんですか?」

 上田が聞くと、上杉が

「それは彼らが今動き出した理由とも共通する。

 私と武さんは警視庁の上層部という地位を任されるようになったが、他の家も同様に国を動かすのに十分な地位を確立してしまった。

 同時に家の役割上、我々は高い地位を得た自分の子供にしか、一族の真実も役割も話してはいけない。

 私も武さんの所も子供に真実を伝えてはいない。

 つまり、我々が軽挙に出れば彼らの行動に対する抑止力を失う可能性が強まってしまった。

 暗殺部隊を有して、厄介な人間を消してでも、理想の実現をしようとしている。我々が軽はずみな行動に出れば、奴らを追い詰めるための権力を失ってしまう。

 それに一族と無関係だと思っていた人間による事件がやつらの計算に取り組まれてるとも思ってなかった。」

「影山の事ですか?」

 山本が言うと、上田が

「待ってください。さっきから出てきてる北条って総理の事ですよね?黒木って言うのも黒木議員の家の事ですよね?」

「その通り。

 特に北条の家は独自に分家を増やして、一族の事も全部共有している。そうやって、国を動かす人材を多数輩出している。

 だが、総理になれたのは今の代になって初めてだ。

 そして、黒木雄二が総務省の事務次官として働いているうちに計画は大きく進行した。そして、黒木俊一もまた優秀な人物だ。

 今、この時に優秀な人材が揃い地位も確立できた。

 だから、彼らは今と決めたのだろうな。」

 武田が言い、山本が

「影山が起こした事件が進行を速めたというのは確かなんですか?」

「日本の改革に結果的に繋がっていたのだからそう言えるだろう。

彼は一族と関係ないと思っていた。北条以外は分家を作ってないから、北条の分家はすべて把握していた。

その中には影山の名前はなかったから、まさか一族の者だと思わなかったんだ。」

「五條が起こした銀行強盗事件の被害にあった支店長の長田さんが、奴等の、仲間だったという事ですか?」

 武田が言った事に対して山本が聞く。武田は少し困ったような顔で

「彼は仲間とは言えないだろう。

 彼は一族の役割を放棄して今回の計画に何一つ関与していなかった。長田の一族は計画を降りたと思っていた。

 まさか息子が勝手に計画に参加しているとは思ってもいないだろう。」

「何で急にその話をする気になったんですか?」

 山本が聞くと武田が真剣な顔で

「黒木雄二の死体から小さい注射痕が見つかった。

 彼には持病があり、その治療のために注射をする事もあったらしいが、最近の彼の診察記録では注射を行った記録がない。

 もし持病を悪化させるような薬品を注射されて死亡したのならこれは殺人事件になる。

 政務天皇になった者についての情報は特にないが、黒木雄二と北条総理、そして長田は幼い頃から共に育った幼なじみであるため、計画に必要のなくなった人間を排除したのではないかと考えられる。

 特にこの三人は政務天皇の正体を知っている可能性もあるから、その秘密を隠すために殺したのではないかと俺は考えた。

 だが、病死として処理されてしまったために手が出せなくなった。

彼が病死ではなく、殺されたのだとするなら、それをお前達に調べて欲しい。

 俺達は動けないが、山本なら独断で勝手に捜査しても、今までの事から考えて邪魔が入る可能性も少ない。

 お前達に捜査命令を出しても、納得がいかなければ捜査も進まないと思って話す事にした。

 竹中警部や北条総理の姪である黒田課長は既に事情を理解している。捜査に移ってくれ。

 必要なら今の話を課の全員に話す事を許可する。」

「公安の片倉にも知られてしまいますよ?」

山本が聞くと、武田は笑顔になり、

「彼ならこれくらいの事は調べがついているか、あるいは想定しているだろう。」

「わかりました。

 諸々の資料をお願いします。」

山本はそれ以上言わずに総監室から出ていった。

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