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21部

『子供達が夢を持ち、自由になりたい職業を思い描く事がね、私は大事だと思ってるの。

 それに子供本人が希望した所で親の意見ばかりが尊重されてしまう事は容易に想像できるし、時代の変化と共に無くなる仕事だってあるわけだし、新しく生まれる仕事だってあるの。

 そんな中でね、既存の職業の中からなりたいものは何?って聞かれて答えてるだけじゃあ、新しい産業も発展もなくなっちゃうんじゃないかと思うの。』

 テレビで教育の専門家が話している。これに対して芸能人が

『でも、温故知新じゃないですけど従来からある仕事の事を理解した上で新しい仕事が生まれる事だってあると思います。

 それに僕は勉強をするのが嫌いだったし、勉強ってなんのためにするんだろうって思ってましたよ。

 今になって、勉強しとけば良かったなって思う事はたくさんありますけど、言葉一つとっても勉強を頑張ってきた人達との言葉選びのセンスって言うんですかね、そういうのが足りてないなと思う事があります。

 でも、それって大人になったからわかる事だし子供達に将来困るから勉強しといた方が良いよって伝えても、子供達は漠然とした将来を、困ってる状況を想像できなければ危機感には繋がらないと思うんですよね。

 必ず決めた仕事についてくださいっていう改革じゃなくて、選択肢を明確にすることによって夢や目標を描きやすくする改革なんじゃないかなと僕は思いますね。』

 テレビでは、教育改革についての議論が続いている。

 親が子供について欲しい仕事は高収入が望めて社会的にも安定した仕事に集中するだろう。

 医者や公務員、官僚なんかに希望が集中するのは目に見えている。

 ただでさえ、第一産業である農業や漁業の高齢化が進んでいるのに、その中で子供が農業をやりたいと希望する事は少ないだろうし、自然災害の多発する日本では今後も一次産業に対しての不安定さを考えれば就業人数は減っていくだろう。ドデカイドームを農業用地に建てて日差しが必要なときは屋根を開放し、自然災害の危険が迫ればドームで守るくらいの事をしなければ、台風や豪雨等でせっかく作った農作物もダメになってしまう時代は来るだろう。

 地球温暖化の影響で台風は勢いを増し、大雨は容易く河川を氾濫させる。雨風を完全に防げる温室を作らなければ日本産の農作物はできなくなってしまうのではないかと思う。

 一次産業だけでなく、AIが進化すれば製造業の二次産業にも人は必要なくなり、職業はどんどんと減っていくだろう。

未完成の機械であるAIだからこそ、人間でしかできない仕事があると言われるが、完成したAIができれば人間は必要なくなるだろう。

 前科者の更正に(たずさ)わってきたからこそ、人が未来へ歩き出す強さも、挫折し未来を諦める弱さも知っている。

 自分の望む職業に就けた人は幸せを感じるだろうが、小さい頃から頑張っても希望した職業に就けない人が感じる絶望もあるだろう。

 上手くいく事ばかりではない。身近な人間が成功し自分が失敗したなら、絶望の感じ方も最悪な方に変わってくるだろう。

 誰もが上手くできるわけではない。

 これも前科者を通して学んだ事だし、自分の人生を振り返っても同じように言えるだろう。

 テレビではまだ共育改革について議論している。

 これを作った奴等の思惑とはまったく違う方向に展開する議論にため息をついた所で玄関のチャイムがなった。

 誰かと会う約束もないし、宅配にしては来る時間が遅すぎるなと思いながら、黒木俊一の叔父である黒木雄二は年のせいか思うように動かなくなってきた体を動かして玄関に向かった。


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