2部
「日本国民の皆様、本日はこれからの日本の未来を大きく変える発表を行うことになり、こうして緊急の記者会見を行わせて頂きます。」
北条総理はそう言って頭を下げた。そして、
「昨今、発生している事件に関連して国民の皆様の日本政府に対する信頼はもはや地に落ちたものと受け取らざるを得ない状況になりました。
その点に関しましては、政府の長である総理大臣として深くお詫び申し上げます。
今後の政府の信頼回復のためにあらゆる方法を模索しておりました。
政治家の腐敗や資質に欠ける人間を排除するべく、政治家資格の導入を開始しましたが、その成果を国民の皆様にご覧に入れることもできず、日に日に政府への信頼が薄れていく現状を打破すべくもう一度資格試験を行い、新たな人材を入れるなどの方法も考えましたが、国債が年々増加するだけの日本の財政では無駄なお金を使うこと自体が国民の皆様のお怒りに直結するものであると思います。一回の選挙に何百億円という巨額が動いていた選挙制度は廃止いたしましたが、それでも選び直しにかかる費用は無駄と言わざるを得ない額になります。
日本の未来を良くするために我々が出した答えは、一民間人である我々政治家ではなく、この国を長年統治されてこられた皇族に政治の長となっていただくことであります。
ただ、誤解を招きかねない発言であったことを前提に、詳しくお話させて頂くと、主権は今まで通り国民にあるものとします。
信頼を失った政治家ではなく、今もなお敬意をもって敬われている天皇陛下にその政治の舵取りをお願いしたいと思っている次第であります。
当然、天皇陛下には国政の事情を報告はしてきておりましたし、政治情勢は把握して頂いておりましたが、突然に政治を行ってくださいと言われてもお困りになられると思います。
現陛下とその一族の皇族の皆様以外に過去の天皇の血筋の方で政治能力の高い方を見つけることができました。
その方に次の天皇になって頂き、新たな皇族を創設していくことになります。
現在の皇族の皆様におきましては、男性・女性にかかわらず、職業選択の自由を解禁させて頂きます。
皇族として、今まで通りの公務を行って頂くこともできますし、民間人となり一国民として働いて頂くこともできます。
憲法を制定し直し、皇室典範の改正も行います。
現在の政治家である我々は、国民の皆様の意見の代弁者として、新天皇陛下に政策の提案、実現に必要な準備を行っていきます。
当然のことながら、新天皇陛下が自ら考え国民のためになる政策をお考えになられることもあります。
我々はあくまで天皇陛下の補佐役であり、その発言に政策決定能力は無くなります。
同時に今まで存在していた国会議員の特権などは廃止し、国民の皆様の意見によって罷免できる制度も整備中であります。
失言、失態をさらした国会議員を強制的にやめさせられないことが国民の皆様の信頼を損なう一因であったことも痛感しております。
詳細につきましては、後日、正式な会見を行い、今後についてを書面にして国民の皆様にお届けしていこうと思います。
最後に、再度、政府への信頼を損ない続けてしまったことを政府の長である内閣総理大臣としてお詫び申し上げます。
大変申し訳ありませんでした。」
北条総理がそう言って頭を下げると、記者の一人が
「それはつまりどういうことなんですか?
もっと簡潔にわかりやすくお願いします。」
総理は顔を上げて、
「江戸幕府最後の将軍徳川慶喜公が、明治天皇に政権を返された大政奉還のようなものとお考え下さい。
政権を天皇にお返しする、新時代の大政奉還です。」
北条総理はそう言うともう一度頭を下げて、会見場を後にした。